2024年F1第4戦日本GPで角田裕毅(RB)が10位入賞を果たした。上位5チーム10台がすべて完走したレースでその1台を下してトップ10に食い込んだことは極めて大きな意味を持ち、そういう意味では上位勢の自滅によって得た第3戦オーストラリアGPの7位入賞よりも価値のあるレースだったと言えるだろう。
ただし、チームと角田の実力もさることながら、多くの幸運に恵まれての結果であったことも事実だ。
まず予選でQ2を突破したのは角田の力走によるところが大きい。それでもダニエル・リカルドも0.066秒差の11位につけ、RB全体として底上げができたことも事実だ。今回投入されたフロアはどちらかと言えば低速域に比重を置いたものとはいえ、マシン全体の空力性能を向上させたことも事実。そして土曜から薄型のリヤウイングに換えたことで予選と決勝のバランスも最適化できた。FP2が雨で流れてしまっただけに、FP1でリカルド車を担当した岩佐歩夢の走行データが有益なものであったことはチームにとって非常に大きな要素になったはずだ。
だが、決勝では戦略ミスが目立った。
まずスタートでミディアムタイヤを履いてしまった。実際にはクラッチのセッティングもミスしていたようだが、RB勢がスタートで大幅に出遅れて集団に飲み込まれてしまい、リカルドに至っては他車との接触で0周リタイアとなってしまった。
後続勢がソフトタイヤでスタートしてくることは充分予期でき、デグラデーションが大きい日本GPでは後続勢がピットインすれば翌周にはカバーしなければならなくなるのだから、ミディアムで第1スティントを長く引っ張るメリットはなく、スタートの蹴り出しが悪いというデメリットしかないのは明白だった。
テクニカルディレクターのジョディ・エギントンはこう語る。
「ソフトの(蹴り出し加速の)利点を考えれば、後続勢がみんなソフトなら我々もソフトでスタートすべきだったが、それは後知恵でしかない」
本来ならこの出遅れでバルテリ・ボッタス(キック・ザウバー)とニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)に先行を許して入賞はかなり厳しい情勢だったが、リカルドの事故で赤旗中断となり、再びスタンディングスタートとなったことは大きな幸運だった。赤旗だからこそソフトタイヤに交換してリスタートに臨むことができ、前のヒュルケンベルグがクラッチミスでアンチストール発動、ボッタスがターン1の争いでジョージ・ラッセル(メルセデス)に行く手を阻まれて角田がインから前に出るという幸運に恵まれた。しかしこれがセーフティカーだったら、タイヤ交換はできず、リスタートでも大きな順位変動は期待できなかったはずだ。
これで中団トップのポジションを取り戻したRBと角田だったが、6周目にピットインしたボッタスにアンダーカットされてしまった。これも大きな戦略ミスだった。
「1.3秒のギャップがあったからアンダーカットは阻止できると思っていたが、予想以上にタイトだったんだ。いずれにしても他に選択肢はないから翌周にピットインするしかなかった。その後はトレイン状態で走っていたからオーバーテイクは不可能で、2回目のピットストップに臨むことになった」(エギントンTD)
タイヤのデグラデーションを読み誤り、翌周ピットインすればカバーできるという想定が間違っていた。実際にはRBの想定よりもデグラデーションが大きく、ボッタスの履いた新品タイヤの威力が大きかったため抑え切れなかった。開幕戦バーレーンGPなど、これまでに何度も繰り返してきたミスだ。
トラックサイド(レース現場)のシニアレースストラテジストが2021年から担当してきたキャリーヌ・クリデリッチから、レッドブルのストラテジー部門にいたニック・ロバーツに交代(第3戦オーストラリアGPから)。しかしタイヤエンジニアリングのミスに起因するこうした戦略ミスはまだ改善できていない。それ以外にもレッドブルからRBへのストラテジー部門の強化は進められているものの、これはストラテジーだけでなくチーム全体のエンジニアリングの課題と言えそうだ。このあたりは新代表ローラン・メキースやレーシングディレクターに就任したアラン・パーメインが中心となって問題点の洗い出しと組織改革を進めているところだ。
レースに話を戻すと、第2スティントは角田を含む5台のマシンがケビン・マグヌッセン(ハース)に抑え込まれて膠着状態となった。ハースはストレートが速く抑え込みがしやすいマシンで、なおかつヒュルケンベルグを確実に中団トップの座につかせるべくマグヌッセンが抑え役に徹するチームプレイで入賞を目指しているだけに、ライバルたちはかなり厳しい展開に追い込まれた。そのままいけば、マグヌッセンが中団勢を抑え込み、その間に第2スティントを引っ張ったヒュルケンベルグが第3スティントに10周フレッシュなタイヤで他車に追い着き追い越して中団トップに立つという展開になってしまった(実際に角田以外の全車がヒュルケンベルグに抜かれている)。
しかし22周目に5台同時のピットインが発生。本来なら、集団の4番目を走る角田はライバルより先にピットインしてアンダーカットを仕掛けなければならなかった。それができないうちにボッタスに先手を打たれてピットインされてしまったため、他車も次善策として同時ピットインを選んだだけだ。同時に入れば、本来はそのままの順位でコースに戻ることになる。ここも集団の4番目を走るRBとしては戦略ミスだったと言わざるを得ない。
だが、ここでふたつ目の大きな幸運に恵まれた。
角田の前にいた3台が軒並みピットストップをミスし、マグヌッセン5.41秒、ボッタス4.94秒、ローガン・サージェント(ウイリアムズ)4.28秒。ここで2.76秒という平均的なピットストップを決めたRBは前の3台を抜いて集団のトップに立つことに成功したのだ。角田が無線で賞賛とねぎらいの言葉を贈ったように、映像の見た目上はRBの驚速ピットストップで逆転したように見えたが、実際にはアンダーカットを許した1回目のピットストップの方が2.56秒と速かったし、日本GPの平均2.62秒よりも遅かった。
この大逆転が角田の10位入賞の最大のカギになったことは間違いないが、本来ならあの状況ではRBがどんなにすごいピットストップをしようともライバルも平均的なピットストップをしてしまえば順位が変わる可能性はほとんどなかった。前を行く3台すべてがピットストップで4秒以上のタイムロスを喫したという稀に見る幸運によって果たした大逆転劇だったということは、きちんと認識しておく必要があるだろう。
ここで集団のトップに立ってからの角田のドライビングは素晴らしかった。残り30周をハードで走り切るために、背後のランス・ストロール(アストンマーティン)を抑えつつ、10周フレッシュなタイヤで追いかけてくるヒュルケンベルグも見ながらペースをコントロール。ストロールが角田を抜けないと見て3ストップに切り替えソフトタイヤで猛追し始めてからも、ストロールのペースを見ながらコントロールし、最後に追い着かれてもディフェンスができるだけのグリップも残しておくという絶妙なタイヤマネージメントだった。
「その後は後方とのギャップを見ながらレースをコントロールしていた。そしてストロールが3回目のピットストップをしてソフトタイヤに交換し、かなり速いペースで追いかけて来ていたが、裕毅はギャップを維持できていた。最後はレースリーダーのマックス(・フェルスタッペン/レッドブル)が追いついて来てブルーフラッグが振られてストロールを抑え込むようなかたちになってくれたし、それと同時に裕毅は最後にペースを上げて引き離した。ソフトタイヤは20周も保たないし、もしストロールが追いついてきても戦えるようにタイヤをセーブしていたし、我々としては非常に上手くレースをコントロールできたと思う」(エギントンTD)
ホンダの現場運営を統括する折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャーはこう振り返る。
「幸運があって上に行くというのは今までもありましたけど、今まではそのポジションを維持できませんでした。でも今はいいストラテジーで戦い、やるべきことをしっかりやっているから、上位に残る確率が上がっているんだと思います。その結果として、運に恵まれたりして上位に上がれたときにそのポジションを守り切れるようになっているように感じます。上位勢が全員残っていての10位ですから、この1ポイントはものすごく大きな1ポイントだと思います。裕毅にも自信のようなものを感じましたね。ラップタイムを追いかけるというよりも、クルマがちゃんと仕上がれば結果がついてくる、自分はそういう走りができるという自信を持っているように(ブリーフィングでの)彼のコメントからは感じました」
戦略ミスはいくつもあったが、そのたびに稀に見る幸運が窮地を救い、最後はその幸運によって得たチャンスをしっかりと実力で掴み獲った。
日本GPの10位入賞はどんな1ポイントよりも価値のある1点となった。
RBコラム:幸運にも恵まれ、鈴鹿で大きな意味を持つ10位入賞。エンジニアリングの課題を解決すべく組織改革も進む
関連記事
あわせて読む
-
【F1】角田裕毅の評価高騰 〝名門〟へのステップアップ予想する声「メルセデスは契約すべきだ」
東スポWEB5/9(木)5:00
-
【F1】角田裕毅が欧州大手専門メディアのランキングで5位に大躍進「強力なパフォーマンス」
東スポWEB5/8(水)18:51
-
【F1】レッドブルにまた激震〝名将〟ウィートリーSDも退団浮上でアウディへ電撃移籍の可能性
東スポWEB5/8(水)15:17
-
マイアミGP、アメリカ史上最多のF1中継視聴者数を記録。サーキットにも27万人が詰めかける
motorsport.com 日本版5/8(水)12:31
-
ケビン・マグヌッセンの“蛮行”に国際自動車連盟FIAが動いた…第2戦で角田裕毅にも使った秘技は罰則強化で封印へ【F1】
中日スポーツ5/8(水)8:47
-
マグヌッセンへのペナルティの累積方法にマクラーレンF1代表が不満「スポーツマンシップの観点から意味をなしていない」
オートスポーツweb5/8(水)8:00
-
【F1】アストンマーティンの〝ストロール解雇&サインツ加入〟をヒル氏予想「スペイン人で構成」
東スポWEB5/8(水)5:00
-
元F1世界王者バトン氏がRB両ドライバーの現状に見解。角田裕毅には「ずっと安定しており情熱的」。34歳リカルドは「今が重要な戦い」
THE DIGEST5/7(火)20:26
-
ザウバー代表、サインツJr.との契約交渉を認める。しかし「まだまだ時間はある。ボッタスや周も含めて話をしている」
motorsport.com 日本版5/7(火)18:48
-
-
【F1】公式がマイアミGPの角田裕毅を〝2番目の勝者〟に選出「寸分の狂いもない走り」
東スポWEB5/7(火)18:26
-
出場停止近づくマグヌッセン、僅か5戦でペナルティポイント10加算「コメントしない方がいいかな」
motorsport.com 日本版5/7(火)17:43
-
2024年F1第6戦マイアミGP決勝トップ10ドライバーコメント(1)
オートスポーツweb5/7(火)17:20
-
角田裕毅の7位入賞に「なんて速さだ」エンジニアも大興奮 「メルセデスAMGと互角に戦えるなんて...」
webスポルティーバ5/7(火)16:55
-
【F1】マグヌッセンの〝危険運転〟に猛批判 R・シューマッハ氏「相手を危険にさらす」
東スポWEB5/7(火)16:37
-
マイアミGP7位フィニッシュの角田裕毅に元F1王者も手放しで称賛!「確実にステップアップしている」
THE DIGEST5/7(火)14:42
-
【F1分析】マイアミ7位入賞角田裕毅、”ステイアウト”戦略を検証する。セーフティカーがなくても上位を狙えたはず?
motorsport.com 日本版5/7(火)12:30
-
【F1】リカルドがまた角田裕毅の祝賀会欠席で波紋 米メディア「チームへの興味を失った」
東スポWEB5/7(火)12:14
-
ヒュルケンベルグ「レース前半はグリップ不足に苦しみ、ペースが遅すぎた」:ハース F1第6戦決勝
オートスポーツweb5/7(火)12:00
-
スポーツ アクセスランキング
-
1
ボクシング 那須川天心がWBOAPバンタム級1位に 次戦は7月20日に東京で王座決定戦か
サンケイスポーツ5/8(水)22:57
-
2
ドジャース今季最長7連勝!2カード連続スイープ成功 大谷翔平は今季初の2試合連続ノーヒット
スポニチアネックス5/9(木)6:06
-
3
大谷翔平〝胴長短足、ポケットに札束〟米雑誌の表紙が「下劣極まりない」と日米で物議
東スポWEB5/8(水)23:35
-
4
「美人化ハンパない」美女スイマー五輪銀から24年!現在の姿にネット感激「印象変わった」はじけた笑顔でツーショ
デイリースポーツ5/8(水)22:05
-
5
打者のスイングが捕手を直撃、被害者骨折の衝撃事故はベンチの指示が原因…指揮官「リスクは高い」
THE ANSWER5/8(水)20:03
-
6
球場騒然!カブス・今永昇太のボールで“異変”が起きた…!? 3打席連続三振した“MLB屈指の悪童”が見せた表情にファン騒然「そりゃキレるわw」「怖すぎるだろ」
ABEMA TIMES5/8(水)22:15
-
7
ストール巻いた真美子夫人は「寒いのかな?」 大谷翔平の隣で「素敵な笑顔」
Full-Count5/8(水)20:09
-
8
巨人が連勝で首位阪神に0・5G差 坂本先制打&長野3点三塁打 堀田が六回途中1失点で642日ぶり先発勝利
デイリースポーツ5/8(水)21:08
-
9
大谷翔平、今季初の2戦連続無安打もドジャースが強い!今季初7連勝で早くも貯金13 直近16戦14勝
ABEMA TIMES5/9(木)6:09
-
10
水原一平容疑者、司法取引成立…不正送金の銀行詐欺と約6億円の所得隠し認める…検察官「正義の鉄つい下す」
スポーツ報知5/9(木)6:18
スポーツ 新着ニュース
-
【欧州CL】レアル34歳苦労人ホセル、準決勝で史上3人目の途中出場2発 初CL脅威の得点率
日刊スポーツ5/9(木)7:54
-
カド番の霧島が連日の20番超えで復調アピール「いつも通りの霧島ですよ」首の状態は「どんどん良く」
スポニチアネックス5/9(木)7:49
-
「残り2分」からの大逆転!レアル・マドリーがバイエルンを下してCL決勝へ
Qoly5/9(木)7:46
-
大谷翔平“確信四球”がまさかのストライク判定 思わずびっくりジャンプ3連発 ファンも嘆き「入ってないよー」「気の毒」
ABEMA TIMES5/9(木)7:45
-
「これゴールだわ!」無情のオフサイド判定がVARで一転、逆転ゴールに変わった瞬間!後半終了間際、怒涛の連続得点でレアルマドリードがCL決勝進出を決めた奇跡の3分間
ABEMA TIMES5/9(木)7:44
-
Jクラブで「垣根を越えた」粋な計らい 対戦相手を祝福で反響「良い光景」「素敵」
FOOTBALL ZONE5/9(木)7:40
-
【欧州CL】バイエルン指揮官 GKノイアーまさかの痛恨ミスに持論「あと100年は犯さないだろう」
スポニチアネックス5/9(木)7:35
-
水原一平元通訳が司法取引に応じた件、4打数無安打だった大谷翔平は取材に対応せず…ロバーツ監督「区切りがつくことを願う」
読売新聞5/9(木)7:35
-
レアル・マドリードが逆転勝利 欧州CL、ドルトムントと決勝
共同通信5/9(木)7:34
-
日本のゴルフ場でカート乗り入れ文化が進まない理由 設備投資にかかる金額、なんと3億円以上!
ゴルフ情報ALBA.Net5/9(木)7:32
総合 アクセスランキング
-
1
仲村トオル 58歳の姿に衝撃広がる「えーっ!」「信じられん」「すっかり…」「めちゃ色気やば」
スポーツ報知5/8(水)20:40
-
2
【速報】水原容疑者 銀行詐欺と虚偽の納税申告の罪で有罪答弁に合意 米連邦検察
テレ朝news5/9(木)5:35
-
3
ボクシング 那須川天心がWBOAPバンタム級1位に 次戦は7月20日に東京で王座決定戦か
サンケイスポーツ5/8(水)22:57
-
4
コロナ後遺症で2年間寝たきり 演歌歌手の夢挫折 治療法手探り続く
産経新聞5/8(水)20:14
-
5
海自護衛艦をドローンで撮影か 映像分析で防衛省
共同通信5/9(木)0:47
-
6
ドジャース今季最長7連勝!2カード連続スイープ成功 大谷翔平は今季初の2試合連続ノーヒット
スポニチアネックス5/9(木)6:06
-
7
大谷翔平〝胴長短足、ポケットに札束〟米雑誌の表紙が「下劣極まりない」と日米で物議
東スポWEB5/8(水)23:35
-
8
“悪童”レオ、BreakingDown出禁通告…瓜田純士から叱責され反省 視聴者からは運営評価する声
ENCOUNT5/8(水)20:08
-
9
稲垣吾郎 運命を変えたのは“SMAPメンバー” 「グループは解散していますけど、すごいこと」
スポニチアネックス5/8(水)21:37
-
10
「美人化ハンパない」美女スイマー五輪銀から24年!現在の姿にネット感激「印象変わった」はじけた笑顔でツーショ
デイリースポーツ5/8(水)22:05
東京 新着ニュース
東京 コラム・街ネタ
特集
記事検索
掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
(C)2024 SAN'S