2024年のNTTインディカー・シリーズは、1度のノンチャンピオンシップイベントに加えて開幕3大会が終了した。各大会で異なるウイナーが誕生し、表彰台に上ったドライバーの数も多い。今年もアメリカのトップオープンホイールカテゴリーは、とても激しい競争になっている。
まず、セント・ピーターズバーグでの開幕戦は、ジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)がポール・トゥ・ウインを飾った。
しかし、プッシュトゥパスに関するマシンの違法改造および禁止時間帯での使用があったために、失格という厳しい裁定が下された。そして、2位フィニッシュだったパト・オワード(アロウ・マクラーレン)が開幕戦のウイナーとなった。
第2戦ロングビーチでは、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)が驚異的な燃費走法を見せ、自身21シーズン連続となる優勝。続く第3戦バーバー・モータースポーツ・パークでは、開幕戦でニューガーデンとともに失格となり3位を失っていたスコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー)がキャリア5勝目を挙げた。
ここまでの上位入賞者を見ると、ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)が二度の2位フィニッシュと、もっとも高い安定感を見せている。さらにコルトン・ハータ(アンドレッティ・グローバル)も2位、3位が一度ずつと、今年のふたりは“勝利や表彰台だけを目指すのではなく、確実に少しでも多くのポイントを稼ぐ”という姿勢で、その実践に努めている印象だ。
このふたり以外は、ウイナー三人を含めて表彰台登壇は一度ずつと、エントラントの実力拮抗ぶりが相変わらず凄まじいことが示されている。なお、パワーは開幕戦でチームメイトたち同様にプッシュトゥパスに関する違法改造システムを搭載していたが、禁止されている時間帯に使うことはなかったので失格は免れ、10ポイントが剥奪となった。
■予選に見る今季の拮抗
さらに、2024年は予選においても競争の激しさは歴然としている。ポールポジションは開幕戦がニューガーデン、第2戦がフェリックス・ローゼンクヴィスト(メイヤー・シャンク・レーシング)、第3戦がマクラフランと、三大会で三人の獲得者が生まれた。
このなかで、三大会すべてで予選ファイナルに進出したのは、ローゼンクヴィストひとりだけ。チップ・ガナッシ・レーシングからアロウ・マクラーレンを経て、メイヤー・シャンク・レーシングへと移籍したばかりの彼は、インディカーでは初めてとなるチームのエースとしての起用に見事に応えている。
彼に続いて予選ファイナルに二度進出しているのは計五人。二度のストリートレースで進出したのはニューガーデン、ハータ、マーカス・エリクソン(アンドレッティ・グローバル)の三人で、どちらかのストリートとロードコースでファイナルを戦ったのはパワーとオワードのふたりだ。
1度のみの進出は、マクラフラン、アレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング)、クリスチャン・ルンガー(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)、マーカス・アームストロング(チップ・ガナッシ・レーシング)、ロマン・グロージャン(フンコス・ホリンジャー・レーシング)と、開幕3大会ですでに多くのドライバーがしのぎを削る状況だ。
17戦で争われる2024年シーズンで、3戦を終えた時点でのポイントリーダーはハータだ。優勝こそはまだないものの、3位、2位、8位という安定した成績を残している。1点差の2位は二度の2位と6位フィニッシュとこちらも安定しているパワーで、トップと3点差の3番手にはパロウがつけている。アンドレッティ、ペンスキー、ガナッシの三強チームがポジションを分け合っているかたちだ。
ポイント4〜10番手はディクソン、ローゼンクヴィスト、オワード、カイル・カークウッド(アンドレッティ)、バーバーでルーキーながら3位フィニッシュを果たしたリヌス・ルンドクヴィスト(チップ・ガナッシ・レーシング)、マクラフラン、サンティノ・フェルッチ(A.J.フォイト・エンタープライゼス)となり、このなかには予選で沈んだとしても、決勝では成績が良いというドライバーも多い。
■変革が相次いだ中団勢の開幕3戦
ポイント上位10台のなかで、昨年からの成長を感じさせているのはA.J.フォイトで走るフェルッチだ。今年からチーム・ペンスキーと技術提携しているA.J.フォイトは、開幕前から注目を集めていたが、第3戦バーバーでフェルッチが7位フィニッシュをして見せた。
彼は、昨年のインディ500で予選4番手/決勝3位という目覚ましいパフォーマンスを見せており、今年もおおいに楽しみな状況となっている。移籍初年度のチームメイト、スティング・レイ・ロブはデイル・コイン・レーシングで過ごした昨シーズン以上に苦悩しているようだが……。
昨シーズン後半に成長を見せたレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングは、2023年第10戦トロントでルンガーが久しぶりの優勝をマークし、シーズン終盤にはグラハム・レイホールがポールポジションを2回獲得するなど速さを増している。
今年は3台目にピエトロ・フィッティパルディを起用し、より多くのレースで優勝争いに食い込んで行くことを目指している。開幕3戦での彼らは、ルンガーのバーバーでの予選3番手/決勝6位がベストリザルトで、まだ本領を発揮できていないようが、今シーズンはコースに関係なく、昨年以上の好走を見せられるはずだ。
昨年は1台が予選落ちとなったインディ500でも、佐藤琢磨を起用することで一気に優勝争いにまで絡んで行くことが期待されている。
一方、少々苦戦気味なのはエド・カーペンター・レーシングとデイル・コイン・レーシング。今年はまだレースのトップ3、予選のトップ6に入ることができていない。しかし、彼らといえども上位チームとの差は非常に小さい。
オーバル、特にインディ500での速さに定評のあるエド・カーペンター・レーシングには、ロードコースでのスピード復活(2021年のインディアナポリス・ロードコースでリナス・ヴィーケイが優勝)の兆しが見えてきた。2024年は、昨年度インディNXTチャンピオンであるクリスチャン・ラスムッセンもストリート/ロードのみに出場し、すでにデビュー3戦で潜在能力の高さを披露している。
デイル・コイン・レーシングは、フルシーズンを戦うドライバーが不在で、ジャック・ハーベイをはじめとするドライバー数人がスポット参戦を行うという状況だ。
パロウやグロージャンをインディカーへと紹介し、輝かせたこのチームの目玉は、今年のインディNXTのチャンピオン候補筆頭であるノーラン・シーゲルで、インディ500を含む数戦に出場を予定している。さらにインディ500では女性ドライバーのキャサリン・レッグを走らせることにもなっている。
最後にフンコス・ホーリンガー・レーシング。まだ好成績を残せていないが、彼らに対する期待度も高まっている。チームの創始者であり、現在は共同オーナーのひとりとなっているリカルド・フンコスは、これまでも着々とチームのレベルを向上させてきた実績の持ち主だが、今シーズンに向けてはエンジニアリングの強化に集中し、その効果が早くも表れている。
今季は経験豊富なグロージャンの加入もプラスに作用し、チームの戦闘力が全体的に向上している様子。アルゼンチンのツーリングカーキンであるアグスティン・カナピノもシリーズ2年目とあってかなり乗れている。
■ハータの初タイトルなるか。2024年は三強時代に突入の予感
ポイントリーダーとなっているハータは、初タイトル獲得に意欲満々だ。彼を走らせるアンドレッティ・グローバルは、去年から在籍しているカイル・カークウッドの能力が高く、エリクソンの新加入もあって収集されるデータとその解析もクオリティの高いものになってきたようだ。
提携チームのメイヤー・シャンク・レーシングにローゼンクヴィストが加わったのもプラスに作用しているだろう。F1進出に向けて、大きな反対に遭いながらも邁進を続けるマイケル・アンドレッティとしても、2012年のライアン・ハンター-レイ以来となるインディカーの栄冠獲得を果たしたい。
ハータとアンドレッティの倒すべきライバルは、言わずもがな……のガナッシとペンスキーだ。この2チームは2013年から11シーズンに渡って王座を獲り続けてきている屈指の強豪だ。
今季のチップ・ガナッシ・レーシングは、初の5台体制となった。しかし、毎戦勝利を争えるのはディクソンとパロウのふたりで、他の3台は若手の育成……いう布陣だろう。
第3戦でルーキーのルンドクヴィストを3位フィニッシュさせた辺りはさすがだが、若手に対して昨年までのエリクソンや佐藤琢磨のようなクオリティのフィードバックは期待できない。走らせる台数は増えたが、チームとしての戦闘力は下がっているのではないかと思わされる。
対するペンスキーは、王座奪還に向けて力強いシーズンスタートを切ったと見えた。実際、シーズンオフの間の奮闘によって彼らのマシンはかなり速くなっているように見えている。しかし、ルール違反のプッシュトゥパス使用で評判は地に堕ちた。
50年を越す伝統を誇る名門チームがやるべきことではなかった。失格が発表になった直後の第3戦で、マクラフランが圧倒的なポール・トゥ・ウイン。あれほどの勝ち方ができるチーム力がありながら、なぜルールに背くことをしてしまったのか……。
開幕からの3レースを見て、チャンピオン争いの中心となるのは複数のタイトル獲得経験をもつガナッシおよびペンスキーのドライバーたちであるパロウ、ディクソン、パワーであることが明らかになった。
そこに、マクラフランやハータ、オワードが絡んで行くだろう。開幕戦の優勝をはく奪されたニューガーデンは、失格のダメージから立ち直ることができるだろうか?彼は昨年のインディ500ウィナーだが……。
最後に、ドライバーのケガによって変わった開幕を迎えたアロウ・マクラーレンについて。直近4シーズンほど、彼らはガナッシとペンスキーによる牙城を崩しに行く筆頭と考えられていた。しかし、その勢いは鈍ってきたように見えてきている。
開幕戦では、オワードが久しぶりの勝利を挙げたが、それはニューガーデンの失格によってだった。もちろん、オワード自身は健闘している。しかし、チームの足元は固まり切っておらず、3台体制は彼らの狙い通りに機能していない。
昨シーズンが移籍1年目だったアレクサンダー・ロッシは、チームの期待に応える走りをほとんど見せることができていない。そして、今年の3台目については不運としか言いようがない。ローゼンクヴィストを放出して迎えたデイビッド・マルーカスが、マウンテンバイクで左手首を負傷して開幕3戦に出場できなくなったのだ。
結局彼は、解雇の憂き目を見た。開幕直前にできた穴を埋めるのは難しいようで、次期ドライバーについての発表はまだで、今シーズンの3台目は数人のドライバーで回して行くしかないかもしれない。
予測不能の不可抗力によって作り出されてしまった状況により、彼らの足踏みはさらに重いものとなり、その間にアンドレッティが力を盛り返した。いよいよ開幕した今季のインディカーは、2013年までのようなペンスキー、ガナッシ、アンドレッティの三強時代が訪れそうな気配となっている。
【インディカー開幕3戦レビュー】実力伯仲の2024年。ガナッシとペンスキーに挑む急成長のアンドレッティ
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