5月11日、ベルギーのスパ・フランコルシャン・サーキットでWEC世界耐久選手権第3戦『スパ・フランコルシャン6時間レース』の決勝が行われ、ハーツ・チーム・JOTAの12号車ポルシェ963(ウィル・スティーブス/カラム・アイロット)が総合優勝を飾った。LMGT3クラスはマンタイEMAの91号車ポルシェ911 GT3 R(ヤセル・シャヒン/モリス・シューリング/リヒャルト・リエツ)がファイナルラップでの逆転劇を経て今戦のウイナーとなっている。

 9日(木)の走行初日から晴天が続き、予測不能な“スパ・ウェザー”とは無縁の週末となったWECスパの最終日。定刻13時にスタートが切られた決勝レースの前半は、デブリ回収による複数回のフルコースイエロー(FCY)や、38号車ポルシェ963(ハーツ・チーム・JOTA)と46号車BMW M4 GT3(チームWRT)がともにリタイアに追い込まれた多重クラッシュによってセーフティカー(SC)が導入されるなか、99号車ポルシェ963(プロトン・コンペティション)が序盤にリードを奪いレースの折り返しを迎えた。

 スタートから3時間が経過する直前には3番手につけていた5号車ポルシェ(ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ)が足回りの損傷によって戦列を離れ、これにより後方から追い上げ2番手に順位上げていた51号車フェラーリの後方に、予選でトップタイムを記録するも失格となった姉妹車50号車が続くトップ3となる。

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 ブランシモンでアクシデントに見舞われた5号車ポルシェを回収するためのFCYが出た状態で迎えたレース後半の4時間目。現地16時10分にリスタートが切られた6分後、トップが入れ替わる。51号車を駆るカラドがケメルストレートエンドのレ・コンブで、ニール・ジャニがドライブする99号車ポルシェを攻略した。直後にピットタイミングを迎えた2台は51号車が先にピットイン。99号車はこの翌周に3番手につける50号車と同じタイミングでピット作業を行っていく。

 ピットアウト後は51号車が後続に対してギャップを広げていき、順位を落とした99号車ポルシェと引き続き追い上げを図るフェラーリの50号車が2番手を争う展開に。このバトルは5時間目を迎える10分前に後者に軍配が挙がり、これでフェラーリがワン・ツー体制を築いた。

 その後方では2番手スタートながら序盤はペースに苦しみ、一時はトップ10圏外までポジションを落としていた2号車キャデラックVシリーズ.R(キャデラック・レーシング)がじわりじわりと順位を回復しており、レース折り返しの段階でアルピーヌやトヨタ勢をかわして6番手に。後半戦に入ってもその勢いは衰えず83号車フェラーリ(AFコルセ)と6号車ポルシェ963(ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ)をコース上でかわして表彰台が狙える位置まで戻ってきた。

 アール・バンバーがドライブする2号車が次に狙うのは、3番手を走る99号車ポルシェだ。しかし2台のバトルは、このWECスパが母国戦となるチームWRTにとっての悲劇を生む。テール・トゥ・ノーズでケメルストレートに進入した2台のうち、後方につけていた2号車キャデラックが進路を変えた際、横並びの状態から抜ききっていなかった31号車BMW M4 GT3と接触。キャデラックは進行方向右側、BMWは左側のガードレールに激突し両車ともクラッシュ、リタイアとなった。

 幸いバンバーとBMWをドライブしていたショーン・ゲラエルの無事は確認されたが、WRTにとっては46号車を失った前半戦のアクシデントに続く二度目の“もらい事故”に肩を落とす結果に。なお、この事故の直後からレースは赤旗中断となり事故現場のガードレール修復が進められる。

 2時間に迫る長い赤旗中断のなか残り時間が少なくなったためこのままレース終了かと思われたが、レースコントロールは“異例の延長戦”にてレースを再開することを決定。陽が傾いた現地19時10分から、残り1時間44分の延長戦が開始された。

 SCランでの再スタート時の首位は51号車フェラーリ。2番手に姉妹車50号車が続き、3番手は2号車に接触されリヤエンドに若干のダメージを受けた99号車ポルシェだ。

 キャデラックのリタイアと、5番手を争っていた6号車ポルシェと12号車ポルシェの赤旗直前のピットインにともない83号車フェラーリが4番手に順位を上げ、アクシデント以前にこのクルマと7番手の座を争っていた平川亮の8号車トヨタGR010ハイブリッド(TOYOTA GAZOO Racing)が5番手に。ニック・デ・フリース駆る7号車トヨタが直後の6番手、アルピーヌの35号車A424がこれに続く。

 51号車と83号車は燃料が残り少なくなったためSC中に緊急ピットインを行い、規定の8秒間の燃料補給でピットを離れる。残り1時間25分からレース再開。これと同時に99号車ポルシェや8号車トヨタ、35号車アルピーヌなどがピットに戻り、フェラーリ勢の51号車と83号車も改めてピット作業を行っていく。50号車フェラーリと7号車トヨタはもう一周引っ張り51号車の前となる3番手と4番手でコースに復帰した。

■運も味方にプライベーターが初勝利に向けて大きく前進

 上位陣のピットストップにより、赤旗前に3回目のルーティン作業を終えていたJOTAの12号車が実質トップに浮上する。ポルシェの同門6号車が僅差に続く展開となり、この2台は3番手以下に対し1分5秒ほどのリードを持つこととなった。

 レースは残り1時間5分。7番手に順位を下げた99号車ポルシェが、平川からハートレーにバトンタッチした8号車トヨタをオー・ルージュで攻略。約7秒前方で3番手を争う2台のワークスフェラーリと小林可夢偉駆る7号車トヨタの一団に次なる照準を合わせる。

 トップを行くアイロットの12号車ポルシェとエストーレが乗り込んだ6号車ポルシェの差は、残り1時間の時点で3秒ほど。5番手51号車と99号車ポルシェのギャップも3秒ほどに縮まった。2台のフェラーリに挟まれる形となっている可夢偉は残り50分、ラソース(ターン1)で85号車ランボルギーニ・ウラカンGT3エボ2と軽く接触するが大事には至らず。この直後アンドラウアー駆る99号車ポルシェがアンダーカットに打って出る。

 6号車ポルシェは残り42分のところで最後のピットストップを行い、続く122周目に首位の12号車ポルシェがピットイン。タイヤ4本交換だったワークスチームに対し左側2本交換でコースに復帰した。この作業の違いにより両車のタイムは12秒に拡がる。

 3番手で7号車トヨタを徐々に引き離しにかかっていた51号車も左側のタイヤのみ交換。翌周、7号車と50号車が同時にピットに入り燃料補給のみで出したフェラーリが先行する。トヨタは右側のタイヤを換えて51号車の直前でコースに復帰したが、残り27分を切ったところでケメルストレートでライバルの先行を許した。また可夢偉組7号車のさらに1周あとに最後のピット作業を行った8号車トヨタは、99号車ポルシェに6番手の座を奪われている。さらに、フレッシュタイヤの99号車は7号車も攻略し5番手に浮上した。そのトヨタ7号車には85号車ランボルギーニとの接触に非があるとして5秒加算ペナルティが科された。

 後方の順位変動を尻目に12号車ポルシェはその後も快調に飛ばし、12秒のリードを保ったままトップチェッカー。プライベート・ハイパーカーチーム初の総合優勝を同門のワークスチームを従えるかたちで果たした。2位でフィニッシュした6号車ポルシェは選手権ランキングのリードを拡げることに成功。表彰台の最後のひと枠にはクラス最後尾からスタートした50号車フェラーリのクルーが立っている。

 4位以下は51号車フェラーリ、プライベーター2位となった99号車ポルシェ、トヨタの8号車と7号車という並び。そして8位にはプライベーター3位となった83号車フェラーリが入っている。9位は35号車アルピーヌ、10位の93号車プジョー9X8(プジョー・トタルエナジーズ)までがポイントを獲得した。

■ガス欠で優勝候補が続々と脱落

 LMGT3クラスは、アイアン・デイムス85号車の序盤の独走から一転、最後の最後まで勝負の行方が分からない展開となった。

 女性ドライバー3人組がドライブするピンクのランボルギーニは、4時間目のルーティン・ピット作業で59号車マクラーレン720S GT3エボ(ユナイテッド・オートスポーツ)に先行を許し、その後コース上で91号車ポルシェにもかわされ3番手まで後退する。

 赤旗が出されたタイミングではマクラーレンをかわした91号車がトップに浮上する一方、この直前にピットストップに入った85号車は5番手となった。レースが再開されるとハイパーカークラスと同様に、赤旗前にルーティン作業を済ませていたクルマの優位性により女性チームのランボルギーニがトップに返り咲く。

 残り55分、2番手の92号車ポルシェ911 GT3 R(マンタイ・ピュアレクシング)を約5秒リードしてピットインした85号車は、タイヤ交換時の作業ミスでタイムと順位を失ってしまう。代わってクラストップに立ったのは59号車マクラーレンだった。

 しかし、その後方には92号車ポルシェをコース上で攻略した60号車ランボルギーニ・ウラカンGT3エボ2(アイアン・リンクス)が迫る。フランク・ペレラがドライブする60号車は3秒ほどのギャップがあった首位59号車にあっという間に追いつくと、ラ・ソースで並びかけて一気にオーバーテイクする。だが、これで終わらない。2番手に下がったマクラーレンは燃料が足りずスプラッシュ・アンド・ゴーを余儀なくされるが、4番手となっていた85号車も残り5分タイミングで、さらには60号車もファイナルラップに入るところで緊急ピットインが必要となった。

 この状況のなかマンタイ・レーシングが走らせる92号車(マンタイ・ピュアレクシング)と91号車(マンタイEMA)はステイアウトを選択する。これでトップに立った92号車は残りわずかとなったガソリンを保たせるため姉妹車に首位を譲る。ファイナルラップで3番手からトップに駆け上がった91号車そのままトップフィニッシュを飾り、姉妹車のポルシェとともにワン・ツー・フィニッシュを達成した。スピードの面ではライバルを凌いでいたランボルギーニ勢の60号車(アイアン・リンクス)と85号車(アイアン・デイムス)が3位&4位。クラス5位にはユナイテッドの59号車マクラーレンが入った。

 日本勢はDステーション・レーシングの777号車アストンマーティン・バンテージAMR GT3がシングルフィニッシュの7位でポイントを獲得した。また、宮田莉朋が最終走者となった78号車レクサスRC F GT3(アコーディスASPチーム)も10位に入り選手権ポイントを得た。一方、姉妹車で木村武史が乗り込んだ87号車レクサスは厳しいレースとなり最終的に14位。小泉洋史組82号車シボレー・コルベットZ06 GT3.R(TFスポーツ)は序盤のパンクなどが響き12位に終わった。佐藤万璃音組95号車マクラーレン720S GT3エボ(ユナイテッド・オートスポーツ)はマシントラブルによってリタイアを余儀なくされている。

 開幕3戦を終えたWECの次なるラウンドは、伝統ル・マン24時間だ。“世界三大レース”のひとつに数えられる同レースの第92回大会は6月12日から16日にかけて、フランスのサルト・サーキット(正式名称:ル・マン24時間サーキット)で開催される。