創設3年目。日米通算170勝を挙げるなど、平成のプロ野球界を代表する大投手でもある岩隈久志さんがオーナー兼コーチを務める青山東京ボーイズ。大会での優勝や強豪校への進学など、実績はまだほとんどありませんが、この春は定員20人に対して150名の入団希望がありました。多くの子どもや保護者が入団を希望するチームとは、どんな雰囲気でどんな練習をしているのでしょうか?練習を取材しました。



【元プロと社会人野球出身者による贅沢な指導体制】
練習は埼玉県三郷市にある河川敷のグラウンド二面を使って行われていました。
このチームではメンバーを「レギュラー組」「サブ組」という呼び方をしない代わりに、「マリナーズ」、「レイニアーズ」と呼ばれていました。それは「サブ組」という言葉にネガティブなイメージがあるからなんだとか。実際、レイニアーズのグラウンドからは「もっとアピールしないとマリナーズに行けないぞー」という声も飛んでいました。ちなみに「マリナーズ」は岩隈さんがメジャーリーグ時代に所属した球団名、「レイニアーズ」はマリナーズ傘下の3Aチームの名称。



レイニアーズのグラウンドでまず行われていたのはゴロ捕りとショートスローのドリル。
ゴロは膝から入らずに股関節から動かして捕る。ショートスローも膝を突っ張らず柔らかく使う。腕の力を使わずに投げる。
そんなふうに膝と股関節の使い方を中心に丁寧に指導していたのは、日本新薬時代に都市対抗にも出場している高橋直樹コーチ。高橋コーチの他にも、チームには昨年社会人野球を退いたばかりのコーチが2人(この日は不在)いるほか、ウォームアップは専門のトレーニングコーチが指導を行っていました。



マリナーズのグラウンドでは岩隈オーナー自らが内野ノック。この日は大会前日ということもあり、何度もマウンドに集まり、投内連携の動きやサインプレーの確認などが行われていました。
岩隈オーナーは白い歯を覗かせながら楽しそうにノックバットを振り、現役時代は西武ライオンズなどで活躍した広橋公寿監督が牽制の入り方を初めとした内野手の細かな動きなどを身振り手振りを交え、何度も何度も指導していました。



広橋監督はプロ野球でのコーチ経験はもちろん、東北楽天のアカデミー、スクールでもコーチ経験があり、現在はクラーク記念国際高校(宮城)の女子硬式野球部の総監督も務めています。そこでの経験が現在の指導に役立っていると言います。
「プロに教えるのは簡単。でも子どもはプロに比べて理解力が低い訳ですから教えるのが難しいですよ。理解させるためにはどう教えれば良いか、アカデミーのコーチ時代にそれを考えましたね。例えば捕るのが苦手な子には捕りやすいところに転がしたり、バウンドさせてやる。この子はちょっと上手いなと思ったら少し左右に振ってあげるとか。そういうことを経験できたことは(今ボーイズの監督をやる上で)大きかったですね」
【技術だけでなく返事や挨拶も大事】


この日の練習開始時間は朝9:00。少し早い8:30にグラウンドに着くと、選手達に交じってグラウンド整備をしている岩隈オーナーの姿がありました。

「下級生や岩隈オーナーがグラウンド整備をしているのに、3年生たちはそれを見ながら土手を歩いてきていたよな? 確かに練習開始時間には間に合っていたけど、それでいいの? 野球で気遣いは大事だぞ」

練習開始前に広橋監督は選手達にこんな小言を言っていました。それは「気を利かせられない人間は良い選手になれない」という思いがあるから。



「返事が返ってこない。指示待ちが多い。気を利かせて動くことができない」
最近の子どもの特徴、昔のと今の子の違いについて広橋監督に聞くとこんな答えが返ってきました。
「それが今の一般的な普通の子なんですよね。でもそこを脱却しないと良い選手にはなれないですよ。私が一番キツく言うのはそういう部分ですね。返事も挨拶もそうですけど、技術だけでなく、そういう部分もきちんとできるようになって高校に送り出したいですから」

「そういう部分」から脱却して欲しいからこそ、練習前には周囲と歩幅や呼吸を合わせて走る集団走を敢えて行い、ノックの後には全員を集めて良かった点、気になる点などを選手達が発表する場を設けるようにしていました。

「発言をすることが大事です。何かを言ってくれたら(それが間違っていても)何かを考えてくれているということですから。でもウチにはまだそういう子があまりいません。だから(発言しやすいように)『そうだよね。それもあるね』って認めてあげる。『それは違うだろ』って言った瞬間に終わりですからね」

怒声罵声のないグラウンド。怒らないで褒める指導。丁寧な技術指導。練習中に流れるヒット曲。一方で返事や挨拶、気遣いの大切さを根気よく選手達に説き続ける広橋監督。
いまどきな部分と泥臭い部分が上手くハイブリッドされた、青山東京ボーイズの練習でした。

後編では150人の入部希望者からどのようにして20人を選ばれたのかについて、広橋監督、岩隈オーナーのお二人にお話を聞きました。(取材・写真/永松欣也)