神戸市の物流会社に勤める長距離ドライバーが、勤務先に対して未払い残業代を求めていた訴訟の判決で、神戸地裁(植田類裁判官)は5月13日、約250万円(および付加金)の支払いを命じた。

賃金規程改定後の「固定残業代」の有効性が争われていたが、改定自体が不利益変更であり無効と判断された。

●「賃金規程に反する運用」に合わせて改定

判決によると、この会社では賃金規程と異なり、実際には歩合給に残業代を含めて支給されており、運用方法に合わせるような形で2014年に賃金規程が改定された。

これにより、残業代は主に歩合給相当額(月間運賃収入の1割強)と諸手当と規定された。仮にこの金額が法定の残業代に満たなかったときは、差額が補填される仕組みだ。

この点について判決は、旧規程では残業代の基礎とされていた歩合給が、新規定では残業代の基礎から除外されたことや、そもそも歩合給相当額が支払われなくなることなどから、「大きな不利益変更」と判断した。

●経緯から労働者の合意を否定

この点について、会社側は説明会などを通じて労働者の合意をとったため、不利益変更であっても有効だと主張した。

しかし裁判所は、不適切な運用をしていたにもかかわらず、会社が従業員に対して「未払い残業代はない」旨の説明をし、合意書を取り交わさない場合、不適切運用のお詫び名目だった「迷惑料」を支払わないなどとしていたことから「真摯かつ正確な説明がなされたものとは認め難い」と指摘。

さらに、従業員説明会での資料が、賃金規程の改定が手当ての名称変更に過ぎないことなどを強調する内容になっていたことから、「不利益性をあえて矮小化して説明するもの」とし、労働者の自由な意思に基づく合意とは言えないと判断した。

●弁護士「広がりのある判決」

ドライバー側代理人の中井雅人弁護士は、「固定残業代が就業規則の不利益変更により、就業途中に創設されている会社は珍しくないと思われます」と述べ、広がりのある判決だとの認識を示した。

なお、タクシーや物流業界では近年、残業代の仕組みをめぐって熊本総合運輸事件(2023年)や国際自動車事件(2020年)などの最高裁判決が相次いでいる。

今回の事件でも、新しい賃金規程で設けられた事実上の固定残業代の有効性が争点になったが、そもそも不利益変更で無効だったとして、この点について裁判所は判断しなかった。