お世話になった先生方に喜んでもらいたい。心配をかけた母に、強くなって感謝を伝えたい。その一心で大相撲の幕下、生田目(なばため)=二子山=は稽古に打ち込んでいる。

 栃木県さくら市出身の22歳。番付を自己最高位の西幕下5枚目に上げた春場所は十両昇進には届かなかったが、4勝3敗と勝ち越した。

 家庭の事情などで中学から栃木県の児童養護施設で過ごした。本格的に相撲を始めたのは矢板高に入学後。高校にも施設から通った。

 「悪いニュースが出ると先生たちが悲しみますから。ぼくらがいいニュースを出したいなっていう思いが、頑張ろうという気持ちにつながっています」

 中学時代は何にでも熱中した。野球部では捕手、吹奏楽部ではテナーサックスを担当した。ほかにも水泳、卓球…。周囲には遊んでいる同級生もいた。施設の先生に言われた。

 「ほかの子が遊んでる時に一生懸命にやっているんだから報われるよって。施設を出た時に差がついてるようにしなきゃダメだよって」

 子どもたちに経験談を聞かせてほしいと施設から頼まれた。「十両に上がってからにしてください」と伝えている。

 母・パチャヤさんはタイ出身。全身で愛情表現をしてくれる母とは仲がいい。食肉関係の仕事をしている母は、ソーセージなどを部屋に差し入れてくれる。

 十両に昇進したら「お母さんのために、たまり席を用意してあげるよ」と応援してくれる方から言われている。「そうさせてあげたいなあ」。親孝行できる日は近い。

 ユーチューブのチャンネル登録者数が22万人を超える「二子山部屋 sumo food」でおいしそうにちゃんこをほおばる姿や、ほのぼのとした生活ぶりで人気者になっている。「それだけだと思われたくない。相撲で頑張って、相撲を見てもらいたいです」という。

 年始の初詣でおみくじを引いた。夢を口に出して宣言するとかなう、とあった。「十両に上がって勝ち越したい」。大きなことを言わないタイプと断りを入れながら「今年は言ってみようかなって」と笑った。5月の夏場所でその夢に挑む。(大相撲担当・岸本隆)