青々と生い茂る松が昔ながらの木戸門を覆う「一素茶庵」。台湾の薬膳菜食を楽しめるお店でヴィーガン素材のランチをはじめ、台湾茶を生地に練り込んだスコーンや花とフルーツをブレンドしたお茶でのんびりとしたひと時を過ごせます。小鳥のさえずりが響くのどかな北鎌倉の情緒を感じながら、体と心にやさしい素材でつくる手料理を味わってはいかがでしょうか。

ゆったりとした時間が流れる北鎌倉の古民家

ウグイス色の暖簾と大きなやかんが目印の「一素茶庵」は、北鎌倉の路地沿いの古民家で台湾での生活が長かったご夫婦が切り盛りする薬膳菜食のお店。緑の豊かな北鎌倉の自然の中に溶け込み、隠れ家のようにひっそりと静かにたたずみます。台湾南部の田舎町では軒先に水飲み場を用意して喉の乾いた道行人に振舞っていたという風習があることから、門の外にやかんがあり、お茶でもいかが?と話しかけているようです。

暖簾をくぐって入ると飛び石のアプローチがあり、引き戸のある玄関へと進みます。苔むした木々の根元や板張りの塀など、北鎌倉の昔ながらの暮らしが今もくっきりとその影を残します。

のびのびとくつろいで過ごす居心地のいい和室

古民家をリノベーションすることはほとんどなく、ほぼ建てられた当時のまま使用しています。古い日本家屋独特の細い廊下があり、その先には障子から明るい日差しの差し込む和室になっています。アンティークの日本の茶箪笥に台湾のカラフルな提灯といった組み合わせも、なぜか意外なほどしっくりとしくる落ち着きのある部屋です。

座面の広い正座椅子が用意されていて、腰かけるように座ってくつろぐのがおすすめです。靴を脱いで畳の柔らかさに触れると、石段の多い寺社巡りの疲れも忘れさせてくれますよ。

テーブルをうめつくす種類豊富な台湾の薬膳菜食

名物の「いっそプレート」には季節の小皿料理とおにぎりなどを盛り合わせた薬膳菜食をはじめ、台湾で朝食の定番のシェントウジャンという豆乳のスープ、セイロで蒸した大豆ミートのシュウマイ、デザートやフルーツティーがセットされ、大きなテーブルがあっという間に料理で埋まってしまうほど華やかです。
台湾には肉や卵といった動物由来の食材を使わないヴィーガンの菜食に加えて、五葷(ごくん)と呼ばれる玉ねぎやニンニクなどのネギ類の野菜も使わない料理を食べるオリエンタルベジタリアンと呼ばれる人が多く、それを踏まえた薬膳菜食を季節感たっぷりにふるまいます。北鎌倉の古刹殺である建長寺や円覚寺といった禅寺で好まれる精進料理も五葷は使われないので、日本と台湾のあいだに通じるものがあるのだとか。

取材時のデザートは、肝臓をいたわるとされている緑豆を煮つめたペーストにクチナシのゼリーを添えた薬膳のスイーツでした。口に運ぶと自然な甘みがふわーっと広がり、カラフルなフルーツティーもすすみます。

元気の源になるお花とフルーツのパワー

台湾茶の種類も豊富で東方美人茶や凍頂烏龍茶などを聞香(もんこう)しながら本格的に味わえるほか、カラフルな花フルーツティーもおすすめです。花フルーツティーは、台湾の漢方のお店に特注して取り寄せた花とフルーツをブレンドしたお茶です。ローゼル・ローズ・オレンジをブレンドした「オレンジ花茶」など4種類あり、美肌や血流の改善など女性に嬉しい効用もさまざまです。

カウンターのショーケースに並んでいるのは自家製の「スコーン」です。台湾ウーロン茶や鉄観音茶、紅玉紅茶を生地に練り込んだオリジナル。ハート型に焼き上げた形もかわいいスコーンでティータイムを楽しんで。

庭先の赤松を茶葉にして味わう北鎌倉の風情

ティータイムには台湾のおやつもぜひ。庭先の赤松を乾燥させて煮出した自家製の松葉茶と一緒にいただきます。一皿に3品並ぶお菓子のうちの一つは、台湾の国立故宮博物院の名品「翠玉白菜」を模しています。本物の名品にそっくりなお菓子で、やわらかい生地で紫芋からつくる餡を包んで和菓子風にアレンジしています。北鎌倉の空気をいっぱい吸って育った赤松のお茶をいただきながら、楽しんでくださいね。