和山やまによる同名原作を綾野剛主演で実写化した映画『カラオケ行こ!』。ただでさえ人気のある原作を、キャスト・スタッフともに盤石の布陣で実写化するとあり、公開前から大きな話題となった本作。封切後はそのクオリティに多くの人が魅了され、パンフレットが劇場から消えた。原作のストーリーや空気感をそのまま劇場に持ち込んだといっていい本作だが、注目したいのは映画化にあたり追加された部分の秀逸さ。今回は、『カラオケ行こ!』の映画オリジナルな部分について掘り下げてみたい。
合唱部部長の中学3年生・岡聡実(齋藤潤)が突然ヤクザの成田狂児(綾野)にカラオケに誘われ、歌の指導を頼まれるという奇抜な設定を映画化したのは、『リンダ リンダ リンダ』『味園ユニバース』などで知られる山下敦弘監督。脚本は、『アンナチュラル』『MIU404』(どちらもTBS系)の野木亜紀子が務めた。2020年放送のドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京系)以来のタッグだ。原作は1巻のみであるため、映画にするには少々尺が足りないのでは…という視聴前の不安がウソのように、“和山ワールド”の延長線上として完璧と言ってもいい余白の埋め方をしてくれた。
■あまりにも“中学”な合唱部が素晴らしすぎる
まず映画で強く感じたのは、中学生としての聡実くんの日常が非常に丁寧に描写されていたこと。特に、聡実くんが部長を務めている合唱部は、一言でいえば“中学生らしさ”みたいなものが詰まりまくっていてもう苦しい。
映画では原作と異なり、顧問が産休・育休中。副顧問の“ももちゃん先生”(芳根京子)がメインで指導を担当している。物語は、合唱部が全国への切符を逃すシーンから始まる。ももちゃん先生的には「みんな頑張ったからヨシ!」みたいな感じなのだが、全国目指して練習してきた部員たちはどうにもモヤモヤ。そういう“青春至上主義”な先生、いるいる。
その後も、3年生最後の舞台に向けた大切な時期だというのにももちゃん先生のフワフワした(「愛が大事やで!」的な)指導は続く。同僚に「粗忽」と評されるようにイマイチ学生たちへの気遣いも足りない。そこでキレ始めるのが、2年生の和田くん(後聖人)。彼は原作にも登場するが、映画では部活熱と自分本位度マシマシの、いわば「ザ・中学生」なキャラに。部長の聡実くんを尊敬しまくっていたあまり、大切な時期に部活をサボりがちになった先輩を許せない(聡実くんのサボりには理由があるのだが)。分かる、尊敬していた人のダメな部分を見るのは誰しもつらい。とはいえ和田くんには、部長の苦悩が理解できない。自分がこんなに頑張っているというのに部長は! と怒りをぶつけるしかないのだ。
壁にぶつかる部長、不安しかない指導者、キレる14歳…そんなカオスな合唱部を実質的に支えているのは、副部長の中川さん(八木美樹)だろう。この時期、まだまだ子どもな男子に比べて女子の“大人度”はすさまじい。この男女の精神的な成熟具合の差、中学生だったことのある人なら必ず「あったわ〜〜〜」となることだろう。
■聡実くんにはちゃんと“居場所”があった
映画『カラオケ行こ!』で嬉しかったのは、聡実くんに合唱部と狂児以外の“居場所”がしっかりとあったことだ。
特に、聡実くんが幽霊部員として合唱部と掛け持ちしている「映画を見る部」。VHSで白黒映画を淡々と見ているだけの部活で、部員は栗山くん(井澤徹)という3年生のみ(幽霊部員は他に5人ほどいるらしい)。聡実くんはときどき「映画を見る部」に顔を出しては、映画を見ながら栗山くんと他愛ない話をしているようだ。
「映画を見る部」の要ともいえるビデオデッキは、まさかの“巻き戻し不可”。映画館で映画を見るように、一度見始めたら戻すことはできない(前述の和田くんが無理やり巻き戻して壊してしまい、めちゃくちゃ落ち込むシーンも非常にかわいい)。もう巻き戻せない青春の合間に、巻き戻せない映画を見る“モラトリアム”な時間が、いろんな感情に溺れそうな中3の聡実くんにとっては非常に大切なものだったのではないかと思う。狂児のことも栗山くんには打ち明けているようだが、栗山くんは“友人の友人のヤクザ”のことはどこか映画の中の話のようなとらえ方をしていて、否定も肯定もしない。その空気感が心地良い。基本的にスクリーンを2人で見ているシーンがほとんどなので、2人の目が合うことはあまりないのだが、それでも分かり合っていることが伝わる。
■「紅」の“大阪弁訳”が2人の関係をエモくする
本作のキーとなる曲、「紅」(X JAPAN)。原作でももちろん大切な曲ではあるが、映画ではこの曲の解釈をより深掘りしており、結果的にこの映画の軸となっているといっても過言ではない。
「紅」は、狂児が組のカラオケ大会で披露しようと練習している曲なのだが、高音ボイスを出すための裏声を聡実くんに「気持ち悪い」と一蹴されてしまう。聡実くんは狂児の音域に合う曲をたくさん見つけてくる(健気すぎる)も、狂児はなぜか「紅」にこだわる。
「紅だーーー!!!」というシャウトが有名だが(作中では綾野剛のシャウトも何度も堪能できる)、ポイントとなるのはその前のなんだかメロウな英語の歌詞。映画では、この部分を聡実くんが日本語、いや大阪弁に翻訳。“紅”の意味が狂児と聡実くんに刻まれるのだ。
この“大阪弁訳”が狂児と聡実くんの関係にここまで嵌まるとは。クライマックスでは、狂児に起きた事件によって聡実の心が“紅”に染まる。そして、ヤクザカラオケ大会に乱入した聡実くんのこん身の歌唱につながっていく。筆者は特にX JAPAN世代とかではないのだが、正直「紅」に泣かされるとは思わなかった。原作でも聡実くんの「紅」歌唱シーンはあるが、聡実くんこと撮影時自身も中学生だった齋藤の歌声がよりグッとくる。北村一輝演じる組長の涙も、原作以上にアツいものがあった。
今回の映画化では、“巻き戻せない青春”が描き出されていた。“実写化”の在り方について議論が尽きない昨今だが、本映画が原作ファンからも好評を得ているのはそのバランス感覚の秀逸さによるのだと思う。青春度こそ高まってはいたが、和山やまが作り出す“低体温な笑い”はしっかりと表現され、鑑賞後には原作の読後感と同じ感覚すら覚えた。『カラオケ行こ!』続編である『ファミレス行こ。』がもしもいつか実写化されることがあれば、また同じ布陣での製作を期待せずにはいられない。(文:小島萌寧)
映画『カラオケ行こ!』はレンタル配信中。
映画『カラオケ行こ!』が原作ファンにも超好評なワケとは? “映画オリジナル”なシーンを深掘り
関連記事
おすすめ情報
クランクイン!の他の記事もみるあわせて読む
-
映画「碁盤斬り」白石和彌監督が語る「草彅剛」 「裏表のない生き方をしていますよね」
デイリー新潮5/16(木)11:00
-
福本莉子とSixTONESジェシーがダブル主演、「お嬢と番犬くん」が実写化
テレ朝news5/16(木)9:51
-
壮大なSF叙事詩、Netflixシリーズ『三体』続編の制作決定「壮大な結末まで語れることにワクワク」
ORICON NEWS5/16(木)8:55
-
菅井友香×草川拓弥W主演ドラマ『ビジネス婚』予告編解禁 OP主題歌は超特急!
クランクイン!5/16(木)8:00
-
松本若菜×SixTONES・松村北斗共演『西園寺さんは家事をしない』に藤井隆、濱田マリ、横田真悠ら参戦!
クランクイン!5/16(木)6:00
-
小松未可子、『猿の惑星』出演に家族が大喜びも“人間役”で「心苦しかったです(笑)」
WEBザテレビジョン5/16(木)5:10
-
SixTONES・ジェシー 来春公開コミックス実写映画で極道役「見ていただけたらうじぇしーじぇす」 福本莉子とW主演
デイリースポーツ5/16(木)5:00
-
福本莉子&SixTONESジェシーW主演!“溺愛“ラブコメ『お嬢と番犬くん』映画化決定
MOVIE WALKER PRESS5/16(木)5:00
-
福本莉子&ジェシーがドタバタ恋愛劇、映画「お嬢と番犬くん」ダブル主演 ジェシー節炸裂「じぇしじぇし見ていただけたら」
サンケイスポーツ5/16(木)5:00
-
-
福本莉子&SixTONESジェシー、W主演で「お嬢と番犬くん」実写映画化 極道一家の孫娘×若頭の溺愛青春ラブコメ
モデルプレス5/16(木)5:00
-
福本莉子&ジェシー映画初共演でW主演 『お嬢と番犬くん』実写化で極道の孫娘と若頭に
ORICON NEWS5/16(木)5:00
-
極道×青春ラブコメ!? 福本莉子&SixTONES・ジェシーW主演…来春公開映画「お嬢と番犬くん」
スポーツ報知5/16(木)5:00
-
福本莉子&SixTONESジェシー、映画ダブル主演で初共演「極道×青春」の人気漫画の実写化
日刊スポーツ5/16(木)5:00
-
竹内力、“冒頭”にサルゴリラが出演していたと聞かされるも「“ボ〜ッと”見ていたから分からない」<猿の惑星/キングダム>
WEBザテレビジョン5/15(水)20:23
-
橋本愛、意外な一面明かす「ギャルファッションも好き」夏は丈の短いTシャツ&へそだし
日刊スポーツ5/15(水)20:03
-
JO1・川西拓実&桜田ひより、ニコニコ笑顔で自撮り2ショット「いつの間に仲良くなって…感慨深くて泣ける」の声<バジーノイズ>
WEBザテレビジョン5/15(水)19:45
-
蒔田彩珠の「息抜き」に客席驚き「かばんを作っています…何個か」中型バイクで江の島も走る
日刊スポーツ5/15(水)19:37
-
窪塚愛流、寝る前に心の中で「ありがとうございます」と口にする理由は…
日刊スポーツ5/15(水)19:01
-
エンタメ アクセスランキング
-
1
日本テレビにがんじがらめ水卜麻美アナ、管理職昇進に潜む危機〝流出封じ〟が裏目に…「これまでにない居心地の悪さ」
夕刊フジ5/16(木)6:30
-
2
千原せいじが〝和尚〟になった経緯を告白 動物専門に供養「僕自身は何も変わらない」
東スポWEB5/16(木)5:00
-
3
有村架純、目黒蓮主演の次期月9のヒロインに内定 『silent』で目黒の恋人役を好演した川口春奈と「同世代のライバル」対決か
NEWSポストセブン5/16(木)7:15
-
4
田口淳之介 元KAT-TUNメンバーに“反省してほしい”発言でファン怒り「お前がいうな」「泣きたいのは残ったメンバー」
女性自身5/16(木)6:00
-
5
平愛梨 夫・長友佑都と別々で洗濯する理由「うつるって聞いちゃって…」もスタジオ困惑
スポニチアネックス5/16(木)7:00
-
6
西城秀樹さん七回忌であべ静江が初告白「“秀樹スイッチ”入る瞬間」と「脳梗塞闘病」
女性自身5/16(木)6:00
-
7
ジャイアン声優・木村昴がスネオ役 ドラマ初主演でまさかの“ドラえもんかぶり”に「不思議な気持ち」
スポニチアネックス5/16(木)4:00
-
8
川合俊一、麻酔5ヶ所にも及ぶ手術を報告「暫くお見苦しい顔です」 痛々しい姿に心配集まる
クランクイン!5/16(木)6:00
-
9
日テレ・news every.の“ハンカチ王子”「斎藤佑樹」起用にやはり上がっている疑問の声
デイリー新潮5/16(木)6:00
-
10
元ももクロメンバー、「新しい命を授かりました」第1子妊娠を報告 お腹ふっくら近影公開
日刊スポーツ5/16(木)9:19
エンタメ 新着ニュース
-
交際歴なし“陰キャ41歳フリーター”が激変、美容師の手で見出した自信のかけら「本当にいい仕事した」
ORICON NEWS5/16(木)11:30
-
「かに道楽」がキダ・タローさんを追悼「家族の団らんでも『とーれとれ、ぴーちぴち』と 受け継がれたきっかけ」
デイリースポーツ5/16(木)11:27
-
“浪花のモーツァルト”キダ・タローさん、令和まで現役全う…最新曲は「UNIQLO」 遺作もCMソング予定
ORICON NEWS5/16(木)11:25
-
あのちゃん、のんびりし過ぎな性格明かす「基本、待ち合わせはごめんなさい。間に合わない」
スポーツ報知5/16(木)11:25
-
「エンジェルブルー」&「デイジーラヴァーズ」がサンキューマートに登場 ファッションのワンポイントに
ORICON NEWS5/16(木)11:24
-
高知東生、水原一平被告の出廷姿に理解「胸が痛くなった」「言いたいことも山ほどあったはず」
日刊スポーツ5/16(木)11:23
-
パク・ボゴム&スジ(元miss A)「ワンダーランド」、5人5色のキャラクターポスター公開…“信じて見る”ウェルメイド感性に期待
WoW!Korea5/16(木)11:20
-
ラフ次元(2)梅村 日本一漫才うまい英語塾講師は合格請負人!?「“ドラゴン梅”と呼んでください」
スポニチアネックス5/16(木)11:20
-
桂文珍、恒例独演会今年も開催決定 芸歴55周年「落語に恋してます。ウケてもウケなくてもかわいい」
スポニチアネックス5/16(木)11:19
-
「少女時代」スヨンの姉チェ・スジン、元彼との破局理由を告白…ミュージカル俳優エノク“衝撃”=「新郎授業」
WoW!Korea5/16(木)11:16
総合 アクセスランキング
-
1
真美子さん ブランドもの持たず、おしゃれにもこだわらない…アメリカでも絶賛された「母譲りの謙虚さ」
女性自身5/16(木)6:00
-
2
日本テレビにがんじがらめ水卜麻美アナ、管理職昇進に潜む危機〝流出封じ〟が裏目に…「これまでにない居心地の悪さ」
夕刊フジ5/16(木)6:30
-
3
【バレー】女子日本代表がVNL初戦で世界1位トルコを撃破 五輪切符へ弾み/試合詳細
日刊スポーツ5/16(木)4:57
-
4
千原せいじが〝和尚〟になった経緯を告白 動物専門に供養「僕自身は何も変わらない」
東スポWEB5/16(木)5:00
-
5
有村架純、目黒蓮主演の次期月9のヒロインに内定 『silent』で目黒の恋人役を好演した川口春奈と「同世代のライバル」対決か
NEWSポストセブン5/16(木)7:15
-
6
田口淳之介 元KAT-TUNメンバーに“反省してほしい”発言でファン怒り「お前がいうな」「泣きたいのは残ったメンバー」
女性自身5/16(木)6:00
-
7
「さらっちゃうよ〜」“宝島夫妻殺害事件”全身イレズミの黒幕と36歳“第6の男”のホントの関係性「拉致監禁にはバレないコツがある」《重要証言》
文春オンライン5/16(木)7:00
-
8
千葉県は20地点なのに、埼玉県はゼロ…「首都圏の3位争い」で埼玉が千葉より下になった理由
プレジデントオンライン5/16(木)7:15
-
9
規制法改正案、自民「追い込まれ」単独提出…公明の強硬姿勢見誤る
読売新聞5/16(木)7:51
-
10
「大谷翔平効果」で敵地に広がった異例の光景 地元紙落胆「無抵抗」「ブーイングより遥かに…」
THE ANSWER5/16(木)5:13
いまトピランキング
東京 新着ニュース
東京 コラム・街ネタ
特集
記事検索
掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
(C)Broadmedia Corporation. All Rights Reserved.