女性に対する職場でのヒール靴強要に抗議する「#KuToo」運動を展開し、英BBCが選ぶ「100人の女性2019」(BBC 100 Women2019)にも選出されたことで知られる石川優実が、歌手デビューした。その狙いを本人に聞いた。

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 俳優でアクティビストの石川優実が参加するユニット“公園でchill”は、石川の呼びかけにシンガーソングライターのババカヲルコと俳優の宮澤もえみが賛同し、昨年8月末から活動を開始した。共に「ジェンダー平等を訴える社会運動の仲間」だと言う。

 このたび第一弾の曲として「踊ろう女たち」の音楽配信をスタートした。4月下旬にはCDシングルの発売も予定している。

 2004年より芸能活動をしていた石川は「表現する仕事をしたいと思ってモデルや俳優として頑張ってきた」そうだが、歌手デビューすることがもっとも大きな夢だった。「小さい頃から歌って踊ることが好きだったんです」

改めて「#KuToo」運動を振り返ると…

 2017年に米国の映画界から巻き起こった「#MeToo」運動に共鳴した石川は、自らが体験した性接待や性暴力をSNSを通じて実名で発信してきた。

「私の記事をTwitter(現「X」)ではたくさん拡散して頂き、また、雑誌やネットメディアでも取り上げられ、トークショーなどもさせてもらいました。ただ、権力を使っての性接待の強要や性暴力があるという事実を問題視すると言う環境が全然、作られていないことを実感していました」

 それと同時に、過去に経験したアルバイト先での「パンプス強制化」に、つねづね疑問を感じていたという。そこで2019年にネットで提唱し始めたのが「#KuToo」運動だった。

「女性が仕事先などでヒールやパンプスを履かなきゃいけないという風習に対して疑問を抱いたんです。パンプスのおかげで足に怪我をしたことが多々あったんです。その度に、何で怪我をしながら働かなければならないのかと思い続けていました」

「#KuToo」は、「#MeToo」を捩(もじ)って「靴」と「苦痛」を掛け合わせたもの。石川の運動は社会全体に広がり、19年の「ユーキャン新語・流行語大賞」でトップ10にノミネートされたほか、「100人の女性」にも選ばれたのは先述のとおり。職場でのパンプス着用強制を撤廃する動きになっていった。

「動きが早かったのは航空業界でしたね。全日空や日本航空は地上職員を含め客室乗務員(CA)のヒールの社内規定を見直し、パンプス指定を撤廃しました。『従業員の働きやすい環境づくりに取り組むため』と言うのがその理由でした」(週刊誌記者)

最近では性被害も告発

 さらに最近では、準強姦の罪で逮捕された映画監督の榊英雄からの性被害を実名で告発し波紋も呼んだ。

「パンプスの強制化にも通じることでもありますが、結局は権力を使っての悪習なのだと思います。『#MeToo』運動の時も訴えてきたのですが、映画や放送を含む芸能界には性接待や性の強要があるという事実を、一人でも多くの人に知ってもらい問題視すべきだと思いました。ただ、そこで温度差を感じたのは、当たり前に被害者を責める風潮があったことです」

 実際、SNS上では石川の発言に対し誹謗中傷が巻き起こり、論戦が繰り広げられている。最近、「複雑性心的外傷後ストレス障害(PTSD)」と診断され、通院中であることも明かす。

 しかし、そういった中でも仲間たちとの抗議集会や市民運動には参加し続けるという。

「自分なりに社会を良くしたいと思っているんです。別に大きなことを言っているわけではなく、単に差別や性被害のない平和な世の中にしたいだけなんです。でも、批判されると、ついつい私も感情的になっちゃうんですけどね」

 そう苦笑する石川だが、一方で「最近、SNSには限界を感じている」とも。

「もちろんSNSで呟くのも一つの方法なのですが、どこか視野が狭まってしまっているような気がしてならなかったんです。でも、集会などは直接、みんなの顔が見えるし楽しいんです。表現の場として自分に合っていることに気づいたんです。とはいえ、抗議集会とかデモと言うと、どうしても決まった人しか集まらないですからね。関心のない人や馴染みのない人、もちろん警戒する人も多いと思います。ところが、そこで歌ったり踊ったりすると、その場の雰囲気がだんだん和んでいくんです。ピリピリしたムードがなくなっていくというか…、歌ったり踊ったりしていると手拍子しながら楽しんでくれています」

新曲「マテキシダ」も

 社会活動の中に「楽しさを見出すことが出来た」と言い、それが今回の歌手デビューにつながったようだ。「社会的な活動を積極的にしている仲間と一緒に歌いたかった」。当初は、カヲルコの作ってきた作品を中心に歌っていたが、次第に「自分たちのオリジナル曲を作って、歌で思いを伝えよう」ということになり、完成したのが「踊ろう女たち」だった。

 曲は石川が作詞を担当し、カヲルコが曲をつけた。

♪ 悲しい連鎖は終わり 暴力もレイプも終わり わきまえることも もうやめて 手に入れた自由 祝いましょう

 フォーク調のシンプルな作品に仕上がっており、評判も上々だという。

 「昨年のクリスマスイブにレコーディングしたんです。3時間ぐらいあれば出来るかと思ったのですが、納得するものを作りたいと思って何度も録り直していたら6時間もかかってしまいました」

 3月8日の国際女性デーに合わせてレコチョク、アップルミュージック、オリコンなど国内42種の音楽配信サービスで発売を開始した。現在、CDシングルの発売も計画しているそうで「遅くとも4月下旬までには」という。

 また今回は「踊ろう女たち」の他、新曲「マテキシダ」も音楽配信。こちらについて石川は「岸田総理への批判歌です。岸田総理には言いたいことがいっぱいあって……。例えば最近では武器輸出規制を容認したことも一つですが、何か平和な日本が戦争に向かっているようで仕方がないんですね。そこで、元々あったカヲルコさんの曲をカバーさせてもらう形で歌わせてもらうことにしました。もちろんCDにも収録します」

渡邉裕二(わたなべ・ゆうじ)
芸能ジャーナリスト

デイリー新潮編集部