旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.、以下、スマイルアップ社)からタレントのマネジメント業務などを引き継ぐ新会社「STARTO ENTERTAINMENT(以下、スタート社)」が4月1日に始動する。ドラマ界の勢力地図はどう変わるのか。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

スタート社のドラマは減る

 今春以降、スタート社勢が出るドラマは減少していくというのがドラマ界、芸能事務所幹部の見方である。

 理由は2つある。第1にスポンサーの旧ジャニーズ事務所離れはスマイルアップ社、スタート社と変遷しても続くため。第2に同社の福田淳社長(58)の言動にほかの芸能事務所が反発し続けており、共演者探しが難しくなるからである。

 兆しは見え始めている。旧ジャニーズ事務所勢が出た昨年の春ドラマはKing&Princeの髙橋海人(24)とSixTONESの森本慎太郎(26)がダブル主演した日本テレビ「だが、情熱はある」など14本あった。うち8本が主演作だった。

 一方、今年の春ドラマは木村拓哉(51)が主演するテレビ朝日「Believe―君にかける橋―」など10本で主演作は7本。やや減った。

 昨年の夏ドラマはSnow Manの目黒蓮(27)が主演したTBS「トリリオンゲーム」など15本もあった。うち主演作は10本。同秋ドラマはTOKIOの松岡昌宏(47)が主演したテレ朝「家政夫のミタゾノ」など16本で、うち主演作は9本。今年の冬ドラマは嵐の櫻井翔(42)が主演した「新空港占拠」など10本で、うち主演作は7本だった。スマイルアップ社勢、スタート社勢のドラマが減少傾向にあるのが分かる。

第1の理由はスポンサー離れ

 スタート社のドラマが減る第1の理由のスポンサー離れは昨年9月に始まった。旧ジャニーズ事務所が故・ジャニー喜多川氏による性加害行為を認めると、サントリーホールディングスや日本マクドナルド、花王など30社以上が旧ジャニーズ事務所とのCM取引などを中止・休止した。ほとんどの取引は止まったままで、再開の目途は立っていない。その影響が色濃くなるのは春ドラマ以降なのである。

 ドラマの制作とその準備は通常、放送の約1年前から始まる。どんなに遅くとも約半年前には開始しないと放送に間に合わない。昨年の秋ドラマ、今年の冬ドラマまではスポンサー集めが難しくなろうが、旧ジャニーズ事務所勢の出演を回避するのは時間的に無理だった。しかし、今年の春ドラマ以降は企画変更が可能になるため、状況が違ってくる。

 日本テレビが深夜のドラマ枠「シンドラ」(月曜深夜0時59分)を3月いっぱいで終了させるのが象徴例。このドラマ枠はSnow Manの渡辺翔太(31)主演の「先生さようなら」(同25日終了)など旧ジャニーズ事務所勢の主演作ばかり放送してきた。終了するのはスポンサー問題が一因とされている。スタート社勢の主演ドラマで継続すると、スポンサー獲得が難しくなる。

 この放送枠は7年も続いていた。日テレ側は「総合的な判断」と説明するが、額面通りに受け取るドラマ関係者、芸能関係者はいない。

目黒の「月9」でスポンサーはどう動く?

 一方、キリンホールディングスは3月上旬、Snow Manの目黒蓮とCM契約を結んだことを発表したが、この契約はスマイルアップ社を通さなかった。だから実現した。スタート社になっても当面は同じ状態が続く。

 目黒は今年の夏ドラマの「月9」(フジテレビ)に主演することが内定している。「月9」のスポンサー6社のうち、2社はスマイルアップ社との取引を再開していないサントリーホールディングスと花王だから、両社がスポンサーを続けるのかどうかが注目される。

 両社は3月までは「月9」のスポンサーだが、4月と10月は各局とスポンサー側の契約の見直し時期。目黒のドラマのスポンサーから外れる可能性もある。

 夏ドラマではSexy Zoneの中島健人(30)もテレビ東京で金曜午後8時台に放送されている「ドラマ8」の主演が内定している。スポンサー問題は目黒と一緒だ。スタート勢はほかの芸能事務所のタレントとは扱いが異なる。

スタート社の若手を重用しても…

 日テレ「シンドラ」の終了については、スポンサー面以外の理由を指摘する声もある。

「各局は深夜帯でスマイルアップ社の主演ドラマを多く流すが、その目的の1つはプライム帯(午後7〜同11時)のドラマに同社の大物を出したいから。同事務所への点数稼ぎです。しかし、大物が相次いで退所したので、その意味が乏しくなってきた」(同・民放幹部)

「相次いで退所した大物」は岡田准一(43)、二宮和也(40)、生田斗真(39)、風間俊介(40)らを指す。局側としてはスタート社の若手を深夜ドラマで重用しても大きな見返りが期待できないのである。

 昨年10月末にスマイルアップ社を退社した二宮は、TBS「日曜劇場」の今年の夏ドラマ「ブラックペアン2」に主演する。「退社理由の1つは、このドラマを含め、『日曜劇場』に出演できなくなるのを危惧したから」(大手芸能事務所幹部)と言われている。二宮は退社前から、このドラマへの出演を打診されていた。

「日曜劇場」のスポンサー4社にはサントリーホールディングスと花王が含まれており、加えて日本生命もスマイルアップ社との取引を中止している。スポンサーの4分の3が同社と決別中。「月9」とは事情が異なる。二宮が不安になっても無理はない。

福田社長の評判

 スタート社勢のドラマの減少が見込まれる第2の理由は、共演者探しがこれまでより難化すると予測されていること。福田淳社長の言動に端を発している。ほかの芸能事務所を辛辣に批判しているため、かなり反感を買っている。

 言うまでもなくスタート社には女優がいない。ドラマは女優がいないとつくれない。男性の俳優の共演者も不可欠。福田氏がほかの芸能事務所と対話する姿勢を見せないと、スタート社勢のドラマ界での立場は厳しいものになる。多数の女優を擁する芸能事務所からも反発の声は上がっている。

 福田氏はまだ1度として記者会見を開いていないが、昨年12月9日に新聞・通信社、テレビ局の記者のみ集め、取材に応じ、こう語った。

「日本の芸能事務所は、口利きでやってきた古い業界」(同12月10日、朝日新聞デジタル)

「日本の芸能事務所は次につながるビジネスモデルが弱い」(同12月9日、読売新聞オンライン)

 ほかの芸能事務所に対する辛辣な批判が相次いだ。こうも口にした。

「本来タレントに選択の自由、移籍の自由があるべきなんです」(同)

 これらの福田氏の発言に既存の芸能事務所関係者が不快感をあらわにするのは、

「タレントの結婚の自由にまで介入し、同時にタレントの移籍を阻んできた最右翼は旧ジャニーズ事務所。その会社の事業を引継ぎながら、負の歴史には触れず、他社の批判ばかりするのでは道理が通らない」(大手芸能事務所幹部)

なぜ記者会見を開かないのか

 福田氏の姿勢そのものを疑問視する声も強い。

「福田氏は批判するばかりで、具体的な改革プランもロードマップも示さない。よその芸能事務所との話し合いもしない。ソニー・グループ(ソニー・デジタルエンタテインメント・サービス社長)にいたことを強調するが、芸能界の現場経験はないに等しく、スターを育てたこともない。もう少し謙虚になってもいいのではないか」(別の大手芸能事務所幹部)

 ドラマの主題歌についての姿勢もほかの芸能事務所から「古い」と指摘されている。たとえば、春から関西テレビ制作で、フジ系で放送される深夜ドラマ「お迎え渋谷くん」はSixTONESの京本大我(29)が主演し、主題歌は同グループの「音色」に決まっている。

 旧ジャニーズ事務所は所属タレントが出演するドラマの主題歌を自社のタレントの楽曲にするよう強硬に主張した。「ゴリ押し」とすら言われた。ドラマと楽曲のマッチングより自社の利益や面子を重んじたわけで、古いと言わざるを得なかった。「お迎え渋谷くん」の「音色」はフラットな状況下でドラマに最適な楽曲が選定されたのだろうか。

 福田氏の言動で最も「古い」のは記者会見を開かないことではないか。それでいてラジオや動画には出る。記者を選別しているわけで、厳しい質問を嫌がっていると見られても仕方がない。福田氏は米国のエンタテインメント界の話をよく引き合いに出すが、米国の常識では考えにくい。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。放送批評懇談会出版編集委員。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。

デイリー新潮編集部