『猫の恩返し』がなければ、人気の名作も生まれていなかった?

 2024年5月3日の金曜ロードショーでは、2002年に公開された「スタジオジブリ」制作の長編アニメーション映画『猫の恩返し』が放送されます。本作にはさまざまな裏話があり、他のジブリ作品に影響を与えた事実もあります。放送前に知っておくと、より一層楽しめる豆知識を振り返りましょう。

『猫の恩返し』は、ごくごく普通の女子高生のハルが、トラックに轢かれそうになっていた黒猫のルーンを救出したことがきっかけで、猫の国へ行くことになってしまうファンタジー作品です。同じスタジオジブリ作品『耳をすませば』の原作マンガを描いた柊あおいさんが、宮崎駿さんの依頼を受けて描いたマンガ『バロン 猫の男爵』を原作としています。

 2023年6月16日に発売された書籍『スタジオジブリ物語』(編集:鈴木敏夫)では、ハルという少女のキャラクターについて、興味深い裏話が紹介されています。『猫の恩返し』は、企画を宮崎さん、監督を森田宏幸さんが務めており、ハルのキャラクターを造形したのは森田さんだったそうです。森田さんの作ったハルを見た宮崎さんの第一声は、「なんで森田にいまどきの娘の気持ちがよくわかってるんだ」というものでした。

『猫の恩返し』で総合プロデューサーを務めた鈴木敏夫さんによると、その後、宮崎さんは、ハルに負けないようなヒロインを生み出すため『ハウルの動く城』のソフィーを描いたそうです。同書で鈴木さんが「『ハウル』って、『猫の恩返し』がなかったら生まれていない可能性があるんですよ」と語っているように、ハルというキャラクターが宮崎さんに与えた影響は、それほどまでに大きかったのかもしれません。

 ハルの他にも、その誕生に驚きの裏設定があるキャラクターもいます。それは、ハルを「猫の事務所」という場所に案内する、大食漢の大きな白猫「ムタ」です。このムタという猫は、1995年に公開された『耳をすませば』にも登場しています。『耳をすませば』では、雫たちから「ムーン」という名前で呼ばれていました。

 これは、原作の『耳をすませば』に「ムーン」と呼ばれる黒い猫が登場していたためです。ジブリ版では白猫になったムーンでしたが、原作者である柊さんにとっては、ムーンはあくまでも「黒猫」であったことが、同じく『スタジオジブリ物語』で明かされています。そんなムーンが『猫の恩返し』で改めて活躍するために、「ムタ」という新しい名前がつけられたのでした。

 そのほか、2002年9月に出版された『ロマンアルバム 猫の恩返し』では、『猫の恩返し』のストーリーについて、柊さんの考えが明かされています。『耳をすませば』の作中では、主人公の月島雫が猫の男爵である「バロン」が出てくる小説を書く場面がありました。そして、柊さんは宮崎さんから『猫の恩返し』の原作の執筆を依頼された際に、本作のストーリーを「雫が書いた物語」という設定にしたのです。

 この設定の理由について、柊さんは同じ『ロマンアルバム 猫の恩返し』のインタビューのなかで、「雫は中学生の時にバロンの話を書いたけれど力が及ばなかった。でもその後、勉強して、またきっと書き直すに違いないと思っていましたから」と語っています。

『猫の恩返し』が雫の書いた物語であると知ったファンからは、「『猫の恩返し』には、雫が書いた物語が動き出したんだ、って特別な感覚がある!」「雫が書いた物語だと思うと、余計エモいなあ」などの声の声が出ており、まさかのつながりに喜ぶ人も多いようです。

 こういった豆知識を知った上で『猫の恩返し』を鑑賞すると、より一層作品を楽しめるかもしれません。また、あわせて『耳をすませば』を見返すきっかけにもなるのではないでしょうか。