嵐が「株式会社嵐」(東京都渋谷区)を設立した。今後、メンバーの5人はどこへ向かうのか? リーダー・大野智(43)の引退、グループの解散という見方が強かった昨年8月の段階で、大野の復帰とクループの活動再開を報じた本稿が、再び同じ関係者たちを取材した。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

「株式会社嵐」設立は独立への布石

 大野の復帰とグループの活動再開を本稿が報じたのは昨年8月24日。当時、芸能界を離れてから2年半が過ぎていた大野は、生活拠点を沖縄県宮古島に置いていたため、そのまま引退し、嵐は解散するという見方が有力だった。

 しかし、旧ジャニーズ事務所の元スタッフは当時の本稿の取材に対し「大野さんと嵐は活動を再開する」と断言。その元スタッフにあらためて嵐の今後について尋ねると、こう答えた。

「秋にファンのためのデビュー25周年コンサートをやる。会場は既に押さえられた。それを済ませたら独立する。会社設立はその布石」(旧ジャニーズ事務所の元スタッフ)

 二宮和也(40)は昨年10月に既に独立済み。ほかの4人は福田淳氏がCEOを務めるSTARTO ENTERTAINMENT(以下、スタート社)とエージェント契約を結んだが、やはり独立するという。

 その兆しは既に目に見えているという。新会社の社長には弁護士の四宮隆史氏が就任した。慶應大卒業後、NHK傘下で最大手の制作会社・NHKエンタープライズ21(現・NHKエンタープライズ)に入社したが、海外のスターの代理人や映画プロデューサーらの多くが弁護士資格を持っていることから、自分も弁護士になった人物である。

わざわざ四宮氏を頼った理由とは

 四宮氏は嵐の5人と深い関係があったわけではない。一方で、やはり四宮氏が代表を務めるエージェント会社・CRGには、櫻井翔(42)が主演した日本テレビ「先に生まれただけの僕」(2017年)の脚本を書いた福田靖氏が所属している。また、二宮とフジテレビ「フリーター、家を買う。」(2010年)で共演したベテラン俳優・矢柴俊博(52)もいる。

 CRG社には、タレントのエージェント業務とマネージメント業務を行うスタート社と似た面がある。福田氏が社長を務め、のん(30)や芸術家らが所属するエージェント会社・スピーディとはほぼ同業だ。

「スタート社にいる4人が現状に不満を抱いていたり、将来を危惧したりしていなかったら、わざわざ四宮氏を頼らない」(同・旧ジャニーズ事務所の元スタッフ)

権利争奪戦で頼りになる四宮氏

 注目すべきは四宮氏がエンタテインメントに関する法律(著作権法、商標法、意匠法など)のエキスパートである点。法廷での実績がある一方、関連著作も多数あり、日本の第一人者と言って良い。

「嵐が四宮氏を頼ったのは独立シフト」(大手芸能事務所幹部)

 たとえば、嵐の楽曲の音楽原盤権は現在、スタート社とスマイルアップ(旧ジャニーズ事務所)が共同所有するブライト・ノート・ミュージック(旧ジャニーズ出版)が所有する。

 原盤権とは著作隣接権の1つで、CDなどを制作した者が持ち、この音源がCMやゲームソフト、ネット上などで使用されたり、複製されたりした際に原盤使用料(原盤印税)が請求できる権利である。

 ブライト・ノート・ミュージックの代表はスマイルアップ取締役の藤島ジュリー景子氏(57)。嵐の独立時には原盤権の行方をめぐって、譲渡条件などで意見の相違も予想される。その時、嵐にとって四宮氏の存在は心強いに違いない。

ファンクラブが譲渡されなかった理由

 ファンクラブ「ファミリークラブ」の問題もある。重複加入者も含め、同会には現在約1400万人の会員がいる。年間会費は4000円だから、売り上げは同約560億円。担当社員は10人に満たず、多くの業務は印刷会社の子会社に外注しているから、利益は途方もない。夏をメドに分社化されるものの、現時点ではスマイルアップが運営している。

 会員数のトップは嵐。約300万人の会員がいるから、売り上げは年間120億円。この譲渡問題も簡単には片が付きそうにない。スマイルアップから嵐の会社への譲渡がたとえすんなりと決まろうが、数億円は下らない法人税、消費税の問題が浮上する。双方がどう負担するか。

 ファンクラブがスタート社に譲渡されなかった理由も、税金の問題にほかならない。ブライト・ノート・ミュージック社についても一緒。設立直後のスタート社が巨額の税を負担するのは難しい。

 嵐の会社とて資本金500万円なのだから、億単位の税負担は容易なことではない。譲渡を円滑に進めるためには、四宮氏のようなエンタテインメント界に精通した弁護士の存在が欠かせない。

 四宮氏は第86回キネマ旬報ベストテンで1位になった映画「かぞくのくに」(2012年)や、第43回日本アカデミー賞の最優秀作品賞を受賞した映画「新聞記者」(2019年)を製作・配給した映画会社・スターサンズの代表でもある。四宮氏自身、プロデューサーも務める。

「嵐はこれ以上ない人に社長を引き受けてもらえた」(大手芸能事務所幹部)

旧ジャニーズ事務所へのペナルティがカギ

 一方、この大手芸能事務所幹部は「先に独立した二宮のCMが復活しているから、残っている4人は焦燥感を募らせているのは間違いない」と語る。

 二宮は2010年からJCBのCMに出演していたが、旧ジャニーズ事務所が故・ジャニー喜多川氏による性加害を謝罪した時点で打ち切りになってしまった。しかし、独立を背景に今月から再びCMが流れ始めた。

 松本潤(40)は第一三共などのCMがストップしたまま。相葉雅紀(41)のエバラ食品、櫻井のアフラックなどもそう。NHKもスタート社タレントの新規起用はしない方針を継続している。テレビ東京もスタート社と距離を置いている。

 スタート社にいると、旧ジャニーズ事務所へのペナルティから逃れられない。舵取り役の福田氏らの運営にも不透明な部分がある。たとえばスタート社は「スマイルアップと資本関係を全く有しない企業として発足した」と声明したが、それでは福田氏自身が億単位と認めている当座の運営費はどうしたのだろう。

 同社の資本金の1000万円は福田氏ら役員で持ち寄ったそうだが、これではスマイルアップ社から移籍した社員185人の1カ月分の給料も出せない。

 昨年12月、福田氏は一部マスコミを集めた取材会で、億単位の運営費は銀行からの借り入れると話していたが、それでは債務保証は誰が行ったのか?

「影の支配者」債務保証の主は誰か

 スタート社は創業したばかりでめぼしい資産がない。音楽原盤権などの諸権利はブライト・ノート・ミュージック社が押さえている。無担保で億単位の金を貸す奇特な金融機関が存在するとは考えられない。

 債務保証を行ったのは、福田氏が元ソニー・デジタルエンタテインメント社長であることから、ソニー・グループなのか、それともジュリー氏か、あるいは第三者か。

 債務保証を行った側は、仮にスタート社の返済が行き詰まったら、弁済しなくてはならない。一方でスタート社のスポンサーに近く、同社の経営に対し、極めて強い影響力を持つ。「影の支配者」とも言える債務保証の主はスタート社の社員も知らされていないという。

「知っているのは福田氏と役員だけでしょう」(旧ジャニーズ事務所の元スタッフ)

 これでは嵐やタレントたちも不安になるに違いない。昨年10月、旧ジャニーズ事務所が開いた記者会見で、同社顧問だった木目田裕顧問弁護士は、ファイナンス(資金調達)面については追って発表するとしていたが、その約束は福田氏によって反故にされた。

 そもそも福田氏は昨年12月にスタート社の社長就任が決まった後、1度も会見を開いていない。債務保証の件などを聞かれたくないのか。

 国辱的な性加害問題を起こした旧ジャニーズ事務所には世界中から視線が集まったが、その後継組織であるスタート社が会見を行わないのは奇異と言わざるを得ない。

ジュリー氏が去り足並みを合わせやすくなった嵐

 皮肉なことだが、大野が嵐に戻りやすくなったのは、ジャニー氏の性加害の社会問題化に伴い、ジュリー氏が旧ジャニーズ事務所のトップから退いたから。

 大野とジュリー氏には長らく溝があった。対立が決定的になったのは大野に関する女性誌記事へのジュリー氏の対応が理由だ。大野の意向が酌み取られず、失望したという。これが活動休止の決定打になった。

 一方、ジュリー氏の秘蔵っ子と言われた相葉の場合、ほかの4人と足並みを合わせやすくなった。もしもジュリー氏が退任していなかったら、ジュリー氏とメンバーとの板挟みになり、動きにくかっただろう。

 スタート社に残っている4人はエージェント契約。同社の役割は仕事の獲得とギャラなどの条件の交渉ぐらい。4人の立場は限りなく個人事業主に近い。

 エージェント契約は独立とほとんど変わらないのである。エージェント(交渉人)役の人物が異なるだけ。それなら、CMやNHKなどの仕事がしやすくなる独立を選ぶのが自然な流れではないか。ファンへの裏切りとは次元が違う。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。放送批評懇談会出版編集委員。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。

デイリー新潮編集部