世帯視聴率は好調も

 テレビ朝日系のトークバラエティ「ポツンと一軒家」(日曜午後7時58分)のマンネリ化が、放送業界で話題になっている。4月7日放送の世帯視聴率は12.1%と裏番組の日本テレビ系「世界の果てまでイッテQ」の9.6%を抑えて同時間帯の1位となるなど、人気は高く好調だ。しかし、ある懸念がささやかれているという。(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区・世帯)

 都会の喧騒を離れ自然に囲まれた一軒家で暮らす人々の姿を追った同番組。様々な人生や生活スタイルを持つ出演者たちが、一軒家でシンプルに暮らしながら自身の故郷や幸せについて考える様子が描かれている。世帯視聴率は好調なのだが、民放関係者はこう話す。

「実はテレビ局やスポンサーは最近、世帯視聴率の指標をほとんど参考にしていません。重視しているのは13〜49歳の個人視聴率であるコア視聴率です。この世代は購買意欲が高いため営業的に欠かせない指標となっています。しかし、『ポツンと一軒家』はこのコア視聴率が極端に低く1%台の時もあります。いくら世帯視聴率が高くても、実態は若者から敬遠され高齢層ばかりが見る番組になっています」

 山奥に住み続ける高齢者が自然豊かな環境の中で食事を手作りし代々受け継いできた土地と家と墓を守る姿にエールを送る、といった番組のストーリー性が受け入れられ、一軒家での暮らし方やDIYのアイデアなども紹介されるなど視聴者にとっては参考になる情報も多い。一見、感動的な番組のように見えるが、都市計画や地域経済に詳しい社会学者は専門家としてこう疑問を呈する。

「能登半島地震で孤立集落の救援活動が難航したように、過疎化や住民の高齢化が深刻化している地域の課題に対処するための政策作りをこれからの日本では急がないといけません。具体的には散在する住宅を一カ所に集め、集落をコンパクトにまとめることで、地域の持続可能性や賑わいを取り戻す必要があります。『ポツンと一軒家』はこの流れに逆行しているような気がしてなりません」

「コンパクトシティ」構想

 こうした地域政策は「コンパクトシティ」と呼ばれている。高齢化や過疎化が進む地域に散在する住宅を一カ所にまとめる住宅の集約、住宅地域と商業地域、施設を結ぶ交通の整備、住民が近隣住民との交流を深める地域コミュニティの形成などが主な柱だ。実際に新潟県柏崎市ではコンパクトシティ構想が進められており、既存の都市機能集積を活かした街の核作りや市街地の拡大抑制、適切な土地利用誘導などに取り組んでいる。

 バラエティ番組に詳しい放送ライターもこう問題点を指摘する。

「『ポツンと一軒家』が田舎暮らしを過度に感動的に描写することで、解決すべき過疎化地域の課題をスルーしてしまう点が問題として挙げられます。番組では過疎化や高齢化、インフラの老朽化など地域の住民が直面する厳しい現実を真正面から取り上げることはほとんどなく、電線、ガス、水道などのインフラ維持やコスト負担、大地震など災害時の救援対策の問題からも目をそらしています。『ポツン』と暮らしている住民をどうすれば自治体の中心地に移住させることができるのか。番組のマンネリ化が指摘されるなか、今後はそういう取り組みも番組作りの中で期待したいですね」

 先祖が守ってきた土地や墓、生まれ育った家への愛着を否定することはできないが、最近は南海トラフ地震の発生リスクが議論されており、日本列島の南海沿岸地域、特に四国や九州、関西地域を中心に大きな被害が予想されている。コンパクトシティ構想は日本の防災や減災策の重要な対策として注目されており、万が一の備えにもなる。

 非常事態時に高齢者が「ポツン」と孤立することのないような社会的雰囲気を作ることもテレビの大きな仕事のひとつだろう。

デイリー新潮編集部