自身の将来と生活設計を考える上で決定的に重要なのが「住宅」だ。その際、誰しも直面する大きな問題がある。不動産を購入すべきか、賃貸で住み続けるべきか――。日本人にとって永遠のテーマといっても過言ではないこの命題にどう答えを出せばいいのだろうか。この4月に『やってはいけない「ひとりマンション」の買い方』(青春出版社)を上梓した、不動産事情に詳しいファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢氏に訊いた。

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中長期的に見れば購入の方が得

「不動産を購入するケースと賃貸のケースで結果的にどちらが金銭的に得かといえば、それは諸条件によって異なります。ただ、中長期的に見て、同じ場所に住み続けるなら、購入の方が得になることが多いのではないかと思います」

 と、風呂内氏が語る。

「貸主の立場で考えてみた場合、貸主にローンが残っていれば、そのローンと修繕積立費、固定資産税などを勘案した上で、賃料を設定するので、購入者が支払う額に上乗せされた額が賃料になります。つまり、賃貸の家賃の方が毎月のコストは高くなる傾向にあります」

 ただし、ライフスタイルが変わることが想定されるなら話は変わってくる。

「結婚や出産などで家族が増え、広い部屋が欲しい、部屋の数を増やしたい、子供が独立したらスリムな部屋に住みたい、などという希望があって、住み替えていく前提なら、購入よりも賃貸で引越していく方が安くつくこともあります」

 そうした例は別として、同じ条件の部屋に長く住み続ける場合、賃貸と購入でかかってくる支払いの累積金額はどう推移していくのか。

 風呂内氏に、3つのケースで購入と賃貸で支払う累積金額がどう変化していくのか、シミュレーションをしてもらった。ただし、注意せねばならないのは「あくまで参考値であって、条件が変われば、シミュレーションの結果はいくらでも異なります」(風呂内氏)という点だ。

単年度の支払いで考えると

 一つ目のシミュレーションは単身者向けのマンションに40歳から住むことを想定してみる。賃貸の場合は共益費込みの家賃は月に9万円、2年に1度の更新料として、1ヶ月分の家賃がかかると仮定する。購入の場合、同じ物件を約2500万円で購入したとする。金利は1%の35年ローンで月々の返済は約7万1000円、管理費修繕費が月額1万7000 円。固定資産税を5万円とする。

「40歳で購入する際に初期費用がかかります。その費用をおおよそ250万円だとして、計算していくと、累計支払額は45歳の時点(注・6年目)で賃貸が675万円 、購入が約913万円と賃貸の方が安く抑えられています。そして、74歳でローンの支払いが終わり77歳の時に購入の方が賃貸よりも累積支払額が安くなるという形になります」

 これだけみてしまうと「35年以上経たないと購入の方が安くならないのか」と思ってしまうかもしれない。しかし、

「初期費用を別にして、単年度の支払いで考えると、賃貸は更新料のある年で117万円、ない年で109万円、平均は112万5000円です。一方の購入は年間110万6000円で、購入の方が若干安くなる想定です。実際には、エリアによって賃料がもっとかかるケースがあると思うので、もっと早い段階で“購入の方が得”となるケースもあるでしょう」

賃料相場は不動産価格に比べて動きにくい

 2つ目のケースは地方都市のファミリータイプの物件を想定してもらった。

 販売価格が4000万円相当のマンションだとして、購入の場合は管理費など込みで月の支払いが11万3000円、固定資産税が10万円とする。賃貸の場合は家賃が13万円。こちらも2年に1度、更新料がかかる設定とする。いずれも先と同じように40歳から住み始めたとした。

 すると、45歳の段階で累積支払金額は賃貸が975万円、購入が約1273万円。60歳の段階では、賃貸が3406万円、購入が約3457万円とかなり近接する。そして、63歳の段階で賃貸が3900万円、購入が約3894万円と逆転するという結果になった。

「このケースですと、64歳以降は購入していた方が得だった、という形になります。ただし、こうしたシミュレーションはエリアによってだいぶ違ってきます。例えば、東京都内、特に湾岸部など好立地では不動産価格が高騰し、1億円以上の物件も普通にあります。では、賃貸価格もそれに連動して上がっているかといえばそうでもありません。賃料相場というのは不動産価格に比べて動きにくいという特徴があります」

 そのため3つ目のシミュレーションは都内の高級住宅街である湾岸部にあるマンションを想定した。

 不動産価格は1億円、購入の場合の月々の返済額と管理費などを含めて月額28万円。ローン完済後は維持費や固定資産税だけがかかる。賃貸価格は月額22万円と仮定した。

 すると45歳の段階で累積支払金額は賃貸が1650万円、購入が3106万円、60歳の段階で賃貸が5764万円、購入が8371万円といつまで経っても金額が近接していかないのである。

東京は14.81倍

「結局、賃貸より購入の方が得となるのは91歳の時でした。これは物件価格に比して賃料をかなり安く想定していますが、実際、物件価格が急上昇しているエリアでは起こっている組み合わせと言えます。東京では特に他のエリアに比べてこうしたことが起こっています」

 日本では現状、東京都内の不動産価格が突出して高い。年収の何倍で新築マンションを購入できるかという指標となる年収倍率で見ても東京は他の地域に比べて 群を抜いている。東京カンテイ によれば、2022年の新築マンションの年収倍率について、全国平均は9.66倍、東京は14.81倍となっている。

「東京の不動産価格の高騰は円安の影響もありますし、海外からの投資の影響も大きい。海外からみれば、日本の不動産といえばまず東京ですから」

 では、だからといって、購入の方が損なのか、といえばそんなことはなく、

「そうしたマンションは資産という点では極めて高い評価となります。将来の売却を考えれば、購入した物件の価格が上がる期待値もあります。不動産を購入してからどの段階で“得になるか”は賃料相場との見合いや資産としてどう考えるかによるので、こうした試算はあくまで参考程度でしかありません。どうするかの判断にはもっと別の指標、例えば損得ではなく、自分が自宅に何を求めているかという視点が重要でしょう」

購入すべきか賃貸であるべきか

 結局、購入すべきか賃貸であるべきか、については、

「購入した時のメリットは老後も含めた人生全体の住居費の算段をつけられることです。保証人の必要な賃貸のままであれば、高齢になった時に住宅を借りることができるのか、という問題も発生します。購入するか賃貸とするかは、同じ場所に住み続けるのか、住み替えていくのか、全体の住居費をどうするのか、など自身のライフスタイルを考えた上で検討すべき問題ではないでしょうか」

風呂内亜矢(ふろうちあや)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R) 認定者。独身時代に貯蓄80万円しか持たずマンションを購入したことをきっかけに、お金の勉強を始め、マンションの販売会社に転職。自身の購入体験を元に年間売上1位の実績を挙げる。現在は夫婦で複数の物件を所有し賃料収入を得る一方で、テレビ、ラジオ、雑誌、新聞などで「お金に関する情報」を精力的に発信している。『コツコツ続けてしっかり増やす! 誰でもできるNISAの教科書』(ナツメ社)他、お金に関する書籍は約30冊。日常の記録に交えてお金のTipsを伝えるYouTubeチャンネル「FUROUCHI vlog」も更新中。

デイリー新潮編集部