東京・浅草でホテルとマンションを経営する夫妻が、昨年3月に自宅で4歳の次女に致死量の薬物を摂取させて殺害した容疑で逮捕された。一家では5年前にも夫の姉が似た症状で死亡しており、警察は夫妻の関与を疑っているという。逮捕3カ月前、取材班は夫妻が仲睦まじく高級車に乗って「お出かけデート」する姿を目撃していた。

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2、3歩下がり、黙って夫についていく妻

 昨年11月7日の午後3時過ぎ。浅草駅からほど近い10階建てマンションのエントランスに大柄のカップルが姿を現した。

 齢40くらいの銀縁メガネの男は、上下揃いのパジャマのような装い。背は180センチくらいで相撲取りのような体格をしている。不機嫌そうな面持ちで、スーツケースを引きながらマンション裏手の小道をずんずんと歩いていく。

 そんな男を追いかけるように、マタニティウェアのようなチェック柄のワンピースを纏った女は2、3歩下がって黙ってついていく。男と同い年くらいに見える女も太めで、顔はスッピン、胸の辺りまでかかる長い髪はボサボサだ。

 やがて、2人は近隣の神社の中へ。居住するマンションから徒歩3分くらいの神社の敷地内に、契約している駐車場があるのだ。

自宅マンションで我が子を…

 男は人気のない境内に入ると、歩を緩め、優しい表情で女に話しかけた。女も笑みを浮かべてうなずいている。「縁結び」と書かれた幟がはためく中、恋人のような雰囲気で歩く2人。そのままトヨタの高級車「アルファード」に乗り込むと、男の運転でどこかへ出かけていった。

 この男女こそが、2月14日、実子である次女の美輝(よしき)ちゃん(当時4歳)を殺害した容疑で逮捕された細谷健一(43)と志保(37)両容疑者である。2人は共謀し、自宅で美輝ちゃんに何らかの方法でオランザピンなどの薬物を摂取させ、殺害した容疑がかけられている。

 事件が起きたのは昨年3月13日。現場は2人が居住していたマンション最上階の室内だった。夫妻は浅草駅から徒歩数分圏内に10階建ての賃貸マンションと9階建てホテルを所有する資産家で、約120平米あるマンションのペントハウスを自宅にしていた。警視庁担当記者が解説する。

「事件は健一容疑者からの『娘の容体がおかしい』という119番通報で発覚。救急隊員が自宅に駆けつけると、美輝ちゃんは瀕死の状態で倒れており、病院に運ばれましたがその日のうちに息を引き取った」

子供が誤飲するはずのない「薬物」

 だが、夫妻の説明には現場の状況と比べて不自然な点があった。

「警視庁は事件性があると疑い、遺体の司法解剖を実施。すると子供が誤飲するはずのない、オランザピンという抗精神薬の成分に加え、エチレングリコールという毒性物質まで検出されたのです」(同)

 エチレングリコールは不凍液やブレーキ液などに使われるアルコールの一種で、人が大量に摂取すると腎障害を起こすなどして死に至る危険な毒物。水に溶けやすく甘味があり、過去に殺人や動物虐待事件で使用されたことがある。

 さらに美輝ちゃんには児童相談所に一時保護を受けた過去があることもわかった。数年前、志保容疑者は美輝ちゃんのいる前で、自宅に火をつけるボヤ騒ぎを起こしていた。

 夫妻には他に2人の子供がいたが、事件後に児童養護施設に保護された。警視庁は夫妻以外に美輝ちゃんに薬物を摂取させた犯人はいないとみて捜査を開始。昨年8月末頃、自宅などを家宅捜索するとともに夫妻の任意聴取に踏み切った。だが、2人とも関与を認めず黙秘。そのまま自宅で2人きりの生活を送っていた。取材班が夫妻のお出かけデートを目撃したのは、任意の事情聴取があった約2カ月後のことである。

次女の死で浮上した「第二の事件」

 警視庁が時間をかけて捜査してきたのにはワケがあった。

「18年4月にも、実家で暮らしていた健一容疑者の姉であるMさんが薬物中毒のような症状を起こして亡くなっているのです。警視庁がMさんの死にも2人が関与した可能性があると見て、並行して捜査を続けていた」(同)

 Mさんは不審死した当時は事件性がないと判断され、行政解剖しか行われなかったという。

「それもあって『第二の事件』として着手できるかどうかはまだ分かりません。一方、美輝ちゃんの事件については、警視庁は様々な状況証拠を固めており、起訴に自信を持っている」(同)

 気になるのは犯行動機だが、警察は美輝ちゃん殺害については志保容疑者の育児ノイローゼが原因とみているという。一方、Mさんの不審死にも夫妻が関与していたとするならば、考えられる動機は「相続」だという。

「18年の1月と6月に、健一氏の父母は立て続けに亡くなっていますが、Mさんが不審死したのはその合間の4月です」(同)

働かずに暮らせる悠々自適な暮らし

 二つの「金のなるビル」を所有する夫妻は、悠々自適な暮らしを送っていた。一つは事件現場にもなったマンションだが、

「浅草駅から徒歩5分ほどの好立地で、家賃収入は月に200万円以上はあるのではないか」(地元不動産業者)

 もう一つは、このマンションから3キロほど離れた、浅草駅から徒歩2分の9階建てのホテル「浅草ホテル 旅籠」。30室ある部屋は全室畳張りで、障子や文机などの設備もある和風の内装になっている。そう聞くと旅館のようなイメージが湧くが、実態は朝食に軽食が出るだけのビジネスホテルだ。

「料金は変動式で、8000円から1万5000円くらい。最近は浅草観光を目的としたインバウンド客でほぼ満室状態と聞いています。こちらも月に800〜1,000万円くらいの売り上げがあったと推定できる。どちらのビルも収益性が高く、8〜10億円くらいの価値がある」(同)

 マンションは02年、ホテルは12年に、いずれも健一容疑者の父・勇氏が建てた。マンションは18年に勇氏が死去した後、健一容疑者が相続。ホテルは「ホソヤ産業株式会社」が所有しており、勇氏の死後、健一容疑者が同社の代表を務め、志保容疑者も取締役に名を連ねている。

ゴミ屋敷

 ホソヤ産業は67年に健一容疑者の父・勇氏が創業した会社だ。

「もともとは浅草に多い皮革の卸や加工業を手がける会社でしたが、徐々にホテル・不動産経営へシフト。皮革業は数年前に畳んだ」(同)

 健一容疑者は姉が2人いる長男で、Facebookには、東京都北区のミッション・スクールの男子校を経て、東洋大学経済学部に進学とある。05年にホソヤ産業の取締役に就任。志保容疑者と結婚したのは09年で、その後、1男2女が誕生。美輝ちゃんは最後に生まれてきた末っ子だった。

 近隣住民は一家の暮らしぶりをこう振り返る。

「健ちゃんは結婚してからしばらく実家を離れていたんですが、数年前にお嫁さんと戻ってきて家業を手伝うようになった。お母さん(註・健一容疑者の母親)は健ちゃんのお嫁さんについて、『あんな片付けができない女性はいない。健一が可哀想で仕方ない』と話していた。そのくらいゴミの山で家の中はぐちゃぐちゃだったみたいです」(同)

 おぞましい事件の内容を知ると、夫唱婦随な様子で肩を寄せ合っていた2人がただ不気味に見えてくるのである。

デイリー新潮編集部