再生可能エネルギー導入に向け「規制見直し」を検討する内閣府の会議資料から中国国営企業のロゴの透かしが多数見つかった問題で、政府が本格的な調査に乗り出した。そもそも“ロゴ入り”資料を作成するような人物がなぜ、日本のエネルギー政策を占う会議に出席していたのか――。メンバー選定に関わった内閣府の“キーマン”に話を聞くと、意外な答えを口にした。

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 批判の高まりを受け、資料を作成・提出した内閣府タスクフォースの民間構成員で公益財団法人「自然エネルギー財団」事務局長の大林ミカ氏は3月27日、辞任を表明。その際の会見で「あまりに不注意だったと反省している」と深く陳謝した。

「大林氏は資料にロゴが入った理由について『パソコンの操作ミスで、編集ソフトのテンプレートに残ったのが原因』だったと説明し、財団と中国企業・政府との間に金銭・資本・人的関係はないと話しました。ただ林芳正・官房長官は28日、『河野(太郎)氏のもとで、内閣府において、中国政府からの不当な影響を受けていなかったか調査を行う』と述べ、政府として疑惑の解明に乗り出す方針を示しました」(全国紙社会部記者)

 大林氏は自らの構成員就任の経緯について、「河野大臣の推薦があったと聞いている」と話し、問題発覚以降、河野氏の認識や脇の甘さに批判が集中。ところが、当の河野氏は国会で野党から追及されても「所管外」を理由に答弁回避を連発し、頬かむりを決め込んだままだ。そこで問題のタスクフォースの人選や立ち上げに関わった内閣府の規制改革・行政改革担当大臣直轄チームの中心メンバーA氏に話を聞くと、こう話し始めた。

「大林氏について言えば、私が彼女に白羽の矢を立て構成員に推薦し、それを河野氏が了承したというのが正確な流れです。大林氏は再生可能エネルギーの世界では高名な方で、その知見とともに大手電力会社などから独立した立場にあることなどを考慮して『適任者』と判断しました」(A氏)

政府の実施計画に反映

 問題の“ロゴ入り”資料が配られた会議とは、内閣府「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」を指す。内閣府によると、同タスクフォースが設置されたのは菅義偉政権発足にともなう2020年。同年10月の所信表明演説で菅総理(当時)は「2050年、カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言し、温室効果ガスの排出削減に取り組む決意を表明した。

 菅政権下で、内閣府特命担当大臣として規制改革の「旗振り役」を務めた河野氏は、再エネ分野における規制改革でも司令塔的な役割を担い、今回のタスクフォースの責任者に就任。A氏が続ける。

「ただ当時の内閣府の規制改革推進会議では『押印廃止』などデジタル面の課題に対処するメンバーが中心で、再エネ分野の専門家はいませんでした。そのため河野氏が号令をかけ、新たなメンバーを集めることになった。同タスクフォースが規制改革推進会議から独立した形に位置付けられているのは、そういった経緯によります」(A氏)

 それゆえ、タスクフォース内で出された結論は規制改革推進会議の答申に盛り込まれない反面、政府の規制改革実施計画には反映される「“抜け道”のような奇妙な構造」(前出・記者)が生まれたという。

エネルギー版「一帯一路」

 内閣府の資料にあったのは中国の国営電力会社「国家電網公司」のロゴだが、元会長の劉振亜氏は中国共産党中央委員を務める人物で知られる。

「劉氏は“中国による一帯一路政策のエネルギー版”とも称される、東アジアの電力網を結ぶ計画〈アジアスーパーグリッド構想〉の推進機関である『グローバル・エネルギー・インターコネクション発展協力機構』の元会長を務め、自然エネルギー財団も同機構の理事会メンバーを務めていた。同構想については以前から、中国に電力供給の主導権を握られ、“日本のエネルギー安全保障を危険にさらす”との指摘が絶えませんでした」(前出・記者)

 これら懸念についてA氏に訊ねると、こう反論した。

「大林氏の推挙に当たっては当然、公開情報の範囲となりますが、財団に関することなども調べました。ご指摘のスーパーグリッド構想についても承知しておりますが、日本から韓国や中国に電気を売ることも可能となる点など、総合的に判断して“問題ない”と考えた。もともと自然エネルギー財団は孫正義氏(ソフトバンクグループ会長兼社長)が私財10億円以上を投じて設立したもので、中国政府との関わりを疑うに足る痕跡は見られなかった。ただ一方で(中国のチラつく影を)“気持ち悪い”と感じる気持ちは分かるので、きちんと調査して明らかにする方針です」(A氏)

 杞憂であれば問題ないが、政府には徹底した調査を期待したい。

デイリー新潮編集部