4月30日をもって、千葉県船橋市のコンビニ「スリーエイト」行田店が閉店しました。これで現存する「スリーエイト」の店舗は、東京都杉並区にある永福北口店の1店を残すのみとなりました。セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートの3大ブランドへの統合が進む昨今、コンビニの“多様性”が、これでまた少し減じるという見方もできるかもしれません。

「スリーエイト」は、1983年に誕生したコンビニチェーンです。当初は、酒類食品卸の廣屋を親会社とする「ヒロマルチェーン」が母体で、セブン-イレブンのフランチャイズ店舗が、本部の方針に反発するかたちで始めた、といわれています。今のコンビニのように、どの店舗でも同じような品揃えの“かっちり”としたチェーンではなく、個々の店の自主性に任せる「ボランタリー」形態だったのは、そんな背景があるからかもしれません。

「スリーエイト」の店舗数を大きく減らす契機となったのは、まず2003年のポプラによる買収でした。この年の5月に、ポプラは前述の「ヒロマルチェーン」と系列の「エフジーマイチャミー」の株式を取得。広島発のポプラの首都圏進出の足掛かりとしました。そして2020年には、ポプラは共同するローソンへブランド転換を進め、運営していた「ポプラ」と「生活彩家」そして「スリーエイト」のほとんどが、「ローソン・ポプラ」と「ローソン」へと変わりました。

 スリーエイトの規模はどれほどだったのか。はっきりとした資料は残っていませんが、2003年のポプラによる買収を伝える記事には〈首都圏にコンビニエンス店「スリーエイト」「エフジーマイチャミー」などを展開し、店舗数は昨年(※2002年)十二月現在で計二百六十一店〉(2003年5月22日付「中国新聞」)という記述があります。

“最後の1店”を訪れると…

 「スリーエイト」の最後の1店となった永福北口店に、編集部を通じて取材を申し込みました。あまり詳しいお話を伺うことは叶わなかったものの、現在の店長さんのお爺さまが営まれていた酒屋を、お父さまの代にコンビニへ業態転換し、いまは3代目とのこと。最後のスリーエイトであることはご存じではありませんでした。実際にお店を視察してみましたが、ワインや日本酒などを豊富に取り揃え“先祖返り”して酒屋さんになっていました。

 お父さまの代にスリーエイトに代わったということは、1990年頃のことと推察されます。今でこそコンビニを始めるとなると、脱サラしたオーナーに、本部が物件や什器やレジなどを用意し、売り上げから数十パーセントの「ロイヤリティ」を回収していく形が一般的です。

 他方、コンビニ創世記の90年頃は、まさに酒屋から転身したコンビニが多く、オーナー自身が物件を用意し、今よりも低いロイヤリティで経営するケースが多くありました。これは、スーパーなどの安売り店に押され、酒屋が業態として成り立ちにくかったこと、酒を扱う免許が規制で取りづらかったことが背景にあると思われます。

 ちなみに、今はどこのコンビニにも酒は置いてありますが、当時は半分ぐらいの店舗でしか取り扱いはありませんでした。酒があるとないとでは、1日の売上が8万円も違うと言われていました。

新鮮組、コミュニティストア、スリーエフ、サンエブリー…多様だったコンビニ

 私は元ローソン勤務の人間ですが、大学進学のために静岡県の浜松市から上京したのが1986年と、当時を客側の立場から体験しました。まだ浜松には、デイリーヤマザキとサークルKがポツリポツリとあるのみで、コンビニというもの自体が広く認知されていませんでした。上京にあたり、初めての独り暮らしを心配した母親は私の好物のミートソースを凍らせたものを20個ぐらい持たせてくれましたが、いざ東京に来てみれば、コンビニが当たり前にあり、弁当やおにぎりなど売っていて食事に困ることはなかったのを覚えています。

 当時の私の“マイコンビニ”は、近所にあったニコマート。おにぎりと惣菜の焼き鳥を食べる貧乏学生でした。ニコマートは、24時間営業コンビニの先駆けだった「キャバレーハワイ」をルーツにもつサンチェーンから派生したコンビニで、1989年にローソンと合併し、サンチェーンは無くなりました(くわしくは別記事「35年前には1000店舗もあったコンビニ「サンチェーン」 元店長が語る“キャバレー発”ゆえの戦略」を参照)。

 このように、昔はセブン-イレブンやローソン、まだ“太陽と星”マークだったファミリーマートのほかにも、新鮮組やコミュニティストア、スリーエフ、ヤマザキ製パングループのサンエブリー、ホットスパー……などなどいろんなコンビニブランドがありました。現在ほど冷凍食品が進化していない時代でも、カウンターで温めてくれる「レンジアップピラフ」など、面白いサービスもありました。このほかにも、酒屋などが自分で屋号を決めて経営する単店のコンビニも多くありました。

 こうして個性豊かなコンビニがあった時代を振り返ると、ブランドが統一されることによって得られる便利(コンビニエンス)な恩恵と共に、失われてしまったコンビニへの “わくわく”や“おどろき”についても考えてしまいます。多様性を求めてしまうのはわがままでしょうか。近年は、独自の仕入れで野菜を販売するコンビニが意外に盛況という例もあります。ブランドを増やすとまではいかないまでも、画一的ではない多様な売り場作りが、今後のコンビニの戦略として、一考の余地があるのではとつねづね考えています。

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
消費経済アナリスト、流通アナリスト、コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、TOKYO FM『馬渕・渡辺の#ビジトピ』パーソナリティ。近著『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)。

デイリー新潮編集部