新たに「実行役」と見られる2人が逮捕されたことで、那須2焼死体遺棄事件の捜査は急展開を迎えつつある。一方で警視庁はすでに“その先”を見据え、最終ターゲットに「本当の黒幕」ともう一つ、その周辺にたむろする「トクリュウ」の存在を挙げているという。

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 5月1日未明、警視庁は元俳優の若山耀人容疑者(20)と姜光紀容疑者(20)を死体損壊の疑いで逮捕。2人は栃木県那須町で遺体となって発見された飲食店経営・宝島龍太郎さん(55)とその妻・幸子さん(56)の遺体に火を付け、遺棄したと見られている。

「若山容疑者は子役として大河ドラマへの出演歴もあり、韓国籍の姜容疑者とは知人関係にあったといいます。先に逮捕された平山綾拳容疑者(25)と佐々木光容疑者(28)と合わせ、これで逮捕者は計4名にのぼりますが、捜査関係者の一人は“事件解決に向けたスタートラインに立ったに過ぎない”と厳しい表情を崩していません」(全国紙社会部記者)

 若山・姜容疑者の2人は平山容疑者から事件前日に車を借り、都内・品川区から那須の現場に向かったことがすでに判明。その2人について、平山容疑者は「年末か年明け頃、渋谷のクラブで知り合って、その後、何度か飲んだ」と供述している。

「平山容疑者は若山容疑者らに車を引き渡す前、品川区の居酒屋で佐々木容疑者と会っており、“ヒカルから結束バンドやガソリンの携行缶(の準備)、遺体の処理などを指示された”と話しています。報酬として1000万円以上を佐々木容疑者から受け取ったとされますが、この2人も今年の2〜3月に渋谷で会ったばかりの関係でした」

「トクリュウの特徴と一致」

 4人とも「宝島夫妻とは面識がない」と話しており、「カネ目当てで集まった“即席のチーム”」だと捜査当局は見ているという。

 一連の犯行において「指示役」と報じられた佐々木容疑者だが、逮捕後に「(自分より)上の立場の別の人物から指示された」と話し、みずから“下請け”に過ぎないことを明かしている。

 2018年に警視庁組織犯罪対策部の管理官(警視)を退官するまで、約40年にわたってヤクザと対峙してきた元“マル暴刑事”の櫻井裕一氏がこう話す。

「4人の関係性は基本、知り合ってから日が浅く、互いの“フルネームも知らない”と伝えられる希薄なもの。また犯行の手口についても、稚拙さと残忍さばかりが目立ちます。“完全犯罪”を狙うなら、本来は遺体を埋めるなどの方法を取りますが、遺体を焼いてそのまま放置するなどお粗末そのもの。カネ以外に“接点”が見いだせず、“ド素人”を窺わせる手口などは『トクリュウ』の特徴と一致するものです」

 トクリュウとは「匿名・流動型犯罪グループ」の通称で、振り込め詐欺や闇バイト事件の背後で暗躍。昨年には警察庁の露木康浩長官が「壊滅」に向けて号令を発するなど、警察当局にとって「治安上の新たな脅威」として認識される犯罪集団だ。

「使い勝手のいい存在」

 櫻井氏が続ける。

「犯罪という“案件”によって離合集散を繰り返すトクリュウは組織を持たないため、全体像を捕捉することは至難の業。世間を震撼させた一連のルフィ事件でも明らかなように、彼らは“カネ欲しさ”にいとも簡単に凶悪事件を引き起こす。ただしイメージが誇張されている部分もあり、その実態は“使いパシリ”に近い存在とも言えます。ヤクザや反グレ集団にとって、トクリュウはカネを出せば最もリスクの高い仕事を引き受けてくれる“使い勝手の良い存在”に過ぎない。おまけに彼らがいくら逮捕されようと組織との接点は遮断しているため、自分たちに累が及ぶこともない。つまり“使う側”の存在と需要の増大に伴って、トクリュウがにわかにクローズアップされてきた側面がある」

 櫻井氏によれば、今回逮捕した4人から“上”に向かう突き上げ捜査には限界もあるため、警視庁は宝島さん周辺のトラブルの精査などにも注力しているはずという。

「本当の黒幕に辿り着かないと事件の全容解明に繋がらず、ヘタをすると“トカゲのシッポ切り”になりかねない。それは佐々木容疑者に指示を出した人物らの思うツボだということは、警視庁も重々分かっています。ただし本当に憂慮すべきは、これまで特殊詐欺事件などで主に『受け子』や『出し子』として登場してきたトクリュウが、今回のようにいまや殺人など凶悪犯罪にも当たり前のように関与し始めている点。犯罪のボーダーレス化とともに、事件解決に向けた捜査の難易度は今後、ますます上がる可能性がある」(櫻井氏)

 逮捕された4人の背後で“高みの見物”を決め込む連中に迫れるか。警視庁の威信を懸けた捜査は続く。

デイリー新潮編集部