「小池さんはうそをつかないでほしい」

 小池百合子東京都知事(71)の任期も残りあと3カ月。そのタイミングでかつての側近の実名告発により再燃した学歴詐称疑惑は、3期目を目指す都知事の選挙戦略に重大な影響を及ぼしつつある。加えて、小池都政下での各種問題も噴出。女帝の座が揺らいでいる。【前後編の前編】

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 日本列島が春の陽気に包まれた今月13日、小池百合子都知事の姿は東京・豊洲のホームセンター前にあった。衆議院東京15区補欠選挙に立候補し、都民ファーストの会が推薦を出した乙武洋匡候補(48)の選挙応援のために駆け付けたのだ。

 小池都知事といえば、4月10日発売の「文藝春秋」5月号で学歴詐称疑惑を元側近に実名で告発されたばかり。12日の定例会見で「卒業証書や卒業証明書は公にし、記者会見や都議会などでも説明してきている」と反論したが、騒動は収まる気配を見せていない。

 実際、冒頭の応援演説でも聴衆の間から、

「学歴詐称しているのか」

 とやじる声が上がった。

「小池さんはうそをつかないでほしい」

 とは、文藝春秋に告発手記を寄せた、元都民ファーストの会事務総長で弁護士の小島敏郎氏(75)本人である。

 小島氏は東大法学部卒業後、1973年に環境庁に入庁している。小池氏が環境大臣だった時代に、地球環境審議官として共にクールビズを推進。2016年に小池氏が都知事に就任すると、都の特別顧問に抜てきされた。17年から21年までは都民ファの事務総長も務めた、紛うかたなきかつての最側近の一人だ。

 

「相談したいことがあるの」

 小島氏は20年6月6日、彼女から突如こう告げられたという。

「相談したいことがあるの」 

 学歴詐称疑惑にいかに対処すればよいかと助けを求められたのだ。そこで小島氏が彼女に、カイロ大を卒業しているのか念を押すと「しているわよ」と即答。ならば、卒業証書類を公表すればいいだけではないかと小島氏が述べると、彼女は「それで解決しないから困っているの」と口にしたという。

「カイロ大学に新しい卒業証明書の発行を申請することとし、それが届くまでは卒業を証明する他のものを大学からPDFなどでもらえばいいと小池さんに助言しました」(小島氏)

 翌日、小池氏から〈カイロ大学長や関係政府当局から、どのような書類が必要か、確認お願いします〉とメールが届く。小島氏は、カイロ大学の学長から証拠類が届くのを待ってはいられないと判断。とりあえず、外部に対しては手元にある関係書類を示しておくことを提案した。

 しかし一方で、都議会自民党や共産党などは学歴詐称疑惑を追及しようと、「小池都知事のカイロ大学卒業証書・卒業証明書の提出に関する決議案」を提出する動きを見せていた。だからであろう、彼女は小島氏が考えた声明を公表することに固執した。結果、

「あとで知ったのですが、自分ではなく、(元ジャーナリストで当時は小池氏のブレーンの一人であった)A氏に声明文づくりのお鉢が回ってしまったのです」(同)

「樋口さんも本件に深く関わっていました」

 そして実際にはA氏が日本語で文案を書いたというのである。もっとも、声明文の作成に関わったのは小島氏とA氏だけではなく、

「樋口さんも本件に深く関わっていました」

 当時、都議で小池氏の右腕として知られた樋口高顕千代田区長(41)。その樋口氏が、A氏に声明文案の作成を依頼したというのだ。

 さる都政関係者も、声を潜めて言う。

「2年前にも、樋口氏が小池氏の学歴詐称疑惑の隠蔽(いんぺい)に加担したとの告発文が都政関係者の間に出回ったことがありました。そこには樋口氏が小池氏にメールで送った英訳の声明文案が“証拠”として記載されていたのです」

 つまりは樋口氏がA氏の日本語の文案を下敷きに自身、ないし第三者の手で英訳を作成。それを確認のために、彼女に送付していたということになろう。

「疑惑は決定的なレベルになった」

 こうして20年6月9日午後2時、エジプト大使館のフェイスブックに学長の署名入りの声明文が掲載される運びとなったわけだが、

「(声明文が公表されるまでの時間があまりにも)“早い”とは思ったものの、その時はそれほど気になりませんでした」(小島氏)

 9日、決議案が提出されるも、翌日には声明文公表を受けて、自民党と共産党が提出者から離脱。決議案も否決され、小池氏は再選に弾みをつけたのである。

 以前から小池氏の学歴詐称疑惑を追及してきた作家の黒木亮氏は、

「今回の小島氏の実名告発で、疑惑は決定的なレベルになったのでは」

 と指摘する。黒木氏は銀行員時代にカイロ・アメリカン大学に留学し、修士号を取得している。当然、アラビア語に通じているが、

「私が最初に小池氏がカイロ大学を卒業していないのではと疑念を持ったのは、彼女のアラビア語を聞いた時です。アラビア語にはコーランにも用いられる文語と文字にできない口語の2種類があるのですが、彼女の文語は初歩的で、文語を話す際にも口語が交ざる。カイロ大を卒業できるレベルでないのは明らかです」

 さらに続けて、

「彼女は20年6月15日に卒業証書類を公開しましたが、それらにも複数の不審な点がある。例を挙げれば、卒業証明書の敬称・動詞・形容詞・人称代名詞がすべて男性形で書かれており、学部長のサインも文学部の同じ年度の卒業生が受け取った卒業証明書のサインと異なっています」

 葵の紋の印籠のように掲げる卒業証書にすら、疑念の目が向けられているのである。

 後編では、学歴詐称疑惑だけにとどまらない、小池氏が抱える“爆弾”について報じる。

「週刊新潮」2024年4月25日号 掲載