和歌山県町村会は4月24日、「次期衆院選では新・和歌山2区から出馬してほしい」と二階伸康氏(46)に要請した。伸康氏は自民党の二階俊博・元幹事長(85)の三男。大学を卒業して全日本空輸(ANA)に勤務していたが、退職して父親の公設秘書を務めている。

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 伸康氏は「熟考を重ねたい」と立候補については明言を避けた。だが、父親の後継が伸康氏であることは確実のようだ。担当記者が言う。

「父親の二階さんは自民党派閥の裏金事件の責任を取り、3月25日に引退を発表しました。かつては長男の俊樹さん(59)が後継だと目されていましたが、2016年に御坊市の市長選に立候補すると落選してしまったのです。さらに『地元関係者の間では横柄な態度が問題視されている』との報道が相次ぎました。一方、三男の伸康さんが父の秘書を務めて注目を集めると、『謙虚で腰の低い姿勢が評判』と関係者が喜ぶ声が伝えられるようになったのです」

 これまでの衆院選で、和歌山県の選挙区は1区、2区、3区の3つだった。だが10増10減の実施で、新1区と新2区の2つに減り、3区は削減されてしまった。

 選挙区の減少に伴い、自民党の和歌山県連は昨年6月に候補予定者を決定した。新1区は参議院の和歌山選挙区から選出されていた鶴保庸介氏(57)の鞍替えが伝えられていた。ところが鶴保氏は4月28日に会見を開き、鞍替えを断念すると表明した。

 新2区は旧3区から選出されていた二階俊博氏が“スライド”することになっていたが、これも二階氏の引退で三男の伸康氏が“世襲”する可能性が高いことは冒頭で触れたとおりだ。

二階氏の狙い

 さらに旧2区から選出されていた石田真敏氏(72)は参議院に鞍替えすると報じられてきたが、鶴保氏の出馬断念が影響を与えるのか、これも注目を集めている。

「二階氏が引退を早めに決断した理由の1つに、参議院の和歌山選挙区から選出されている世耕弘成氏(61)を牽制する狙いもあったはずです。世耕さんは月刊誌『Hanada』のインタビュー取材に応じ、2月号に『首相就任に意欲』という記事が掲載されました。参議院議員は首相になれないため、衆議院議員に鞍替えする必要があります。そして世耕家のルーツは新宮市にあり、ここは新2区に含まれているのです」(同・記者)

 裏金事件では二階氏だけでなく、世耕氏にも厳しい批判の声が相次いだ。このため二階氏は「新2区の地盤を三男に譲るには今がチャンス」と判断した可能性が高いという。

「いくら世耕さんが新2区からの鞍替え出馬を狙っていても、大先輩である父の二階さんの出馬に文句は言えません。一方、三男の伸康さんが相手だと話は違ってきます。世襲の問題に懸念を示すなど、色々な“妨害策”が考えられます。ところが、今の世耕さんは裏金事件で批判が集中しているので、なかなか動きにくい状況です。そこで二階さんは引退という“先手”を打ち、世耕さんが横槍を入れられないタイミングで世襲を実現しようと考えたのではないでしょうか」(同・記者)

“世耕包囲網”の可能性

 その世耕氏は4月、裏金事件の処分として自民党から離党勧告が出たため、離党届を提出して受理された。

 こうなると二階氏の圧勝と見るのが自然なのだろうが、和歌山の選挙区事情に詳しい自民党関係者は「まだまだ決着はついていません」と言う。

「二階さんにとっての“決着”は、世耕さんが衆院への鞍替えを諦めることです。世耕さんは来年、改選を迎えます。参院選に無所属で出馬し、自民党が配慮して対立候補を立てないのなら、当選して復党というシナリオも描けます。ところが党内では『次の参院選の和歌山選挙区では、世耕さんの対立候補を擁立するのが筋だろう』という意見が出てきているのです」

 もし自民党の候補が出馬すれば、世耕氏は正真正銘の対立候補となる。自民党にとっては敵だ。その世耕氏が自民党の候補者を返り討ちにしたとなると、復党には暗雲が立ちこめる。「自分たちの仲間を落選させた世耕氏を、なぜ自民党が迎え入れなければならないのか」という議論が党内で起きる可能性が高いという。

 過去に似た例がある。2005年の郵政選挙では、自民党の造反議員は公認が与えられなかったのだ。さらに党公認の対立候補が同じ選挙区で立候補し、こうした候補者は“刺客”と呼ばれた。

進むも地獄退くも地獄

「無所属の造反議員として厳しい選挙戦を制し、なおかつ自民党に恭順の姿勢を見せ続けた衆議院議員は全部で12人いました。彼らは2006年11月に復党届を提出。党内で激しい議論が起きましたが、最終的には11人の復党が認められました。これに世論は反発し、当時の首相は安倍晋三氏でしたが、就任当初は70%近くあった支持率が50%台に急落してしまったのです」(前出の記者)

 自民党にとっては今も“悪夢”として記憶されている。これを和歌山県で繰り返すわけにはいかないと考えても不思議はない。

 参院選で対立候補を立てない時点で、世論が自民党を批判する可能性がある。世耕氏が当選したとしても、復党を認めると内閣支持率が急落してしまうかもしれない。一方の世耕氏にとっては、自民党に復党できなければ元も子もない──。

「改選を果たしても自民党に戻れないのであれば、世耕さんにとって参院選は意味がないことになります。ならば思い切って無所属で新2区から出馬し、三男の伸康さんに戦いを挑むという手があるのです。もし世耕さんが当選したとしても、自民党にケンカを売ったことに変わりはありません。しかし一度は衆院への鞍替えを公言し、総理を目指していたのです。初志貫徹、有言実行という強いイメージを有権者に示すことができます」(前出の関係者)

意外な票田

 もし二階伸康氏と世耕弘成氏が新和歌山2区で立候補したならば、有権者にとっては災難だろう。何しろ「裏金の息子」と「裏金の本人」が激突するのだ。

「地元関係者の多くは、伸康さんが優勢と見ています。これは父の二階さんが権勢を誇ったというだけが理由ではありません。周囲の国会議員もポイントです。参院からの鞍替えを断念した鶴保さんは二階派に所属していました。参院への鞍替えを報じられた石田真敏さんは無派閥ですが、二階さんとは良好な関係を築いていると言われています。文字通り“多勢に無勢”なのです。こんな状況下で世耕さんは無所属で出馬するわけですから、大変な選挙になるのは言うまでもありません」(同・関係者)

 しかしながら、世耕氏も参院選で5回の連続当選を成し遂げている。選挙に弱い政治家ではない。そのため“善戦”を予想する関係者もいるという。

「世耕さんの祖父にあたる世耕弘一さんは旧敷屋村、現在の新宮市に生まれました。衆議院議員を務め、第2次岸内閣では経済企画庁長官に就任しています。そのため今でも新宮市には世耕さんを応援する有権者が少なくありません。さらに新2区の南側に位置する串本町などには、近畿大学の関連施設が建てられています。世耕さんは近畿大学の理事長ですから、このあたりも票田だと言われています。『伸康さんが相手だと、いくら世耕さんでも勝負にならない』という声もありますが、私はそんなことはないと思っています。衆院選で当選となれば、世襲候補に勝ったということで復党の道も拓けてくるかもしれません。ですから世耕さんがイチかバチかの勝負に出る可能性は、まだ残っています」(同・関係者)

デイリー新潮編集部