スキャンダルとは無縁だった大谷翔平(29)への評価を瞬く間に変えたのは、1本の新聞記事だった。3月20日(現地時間)、他のメディアに先んじて一連の疑惑を報じたのは、ドジャースが本拠地を構える地元の有力紙「ロサンゼルス(LA)・タイムズ」だ。

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 創刊142年の同紙は、全米の日刊紙として、最大部数である「USAトゥデイ」、2位の「ウォール・ストリート・ジャーナル」、3位の「ニューヨーク・タイムズ」と続く中、国内6位のシェアを誇る。

 大谷がドジャースに移籍した当初は紙面で大特集を組み、以来“大谷ファンクラブ新聞”と揶揄されるほどの蜜月ぶりだった。〈オオタニの神秘性はドジャースの未来を創り上げる〉などともてはやしていたが一転、疑惑を報じる急先鋒となった背景にはどんな事情があったのだろう。

LAタイムズ記者が解説する騒動の裏側

「これまでイッペイはオオタニの忠実な兄弟のようであり、ギャンブル依存症などの悪いうわさは聞いたことがありませんでした」

 そう明かすのは、「LAタイムズ」の記者であるグスタボ・アレラーノ氏だ。

「われわれは、連邦当局が、カリフォルニア州オレンジ郡を拠点とする違法賭博組織に対する捜査を、長年にわたって行ってきたことをつかみました。捜査の標的は複数に及び、その中の一人であったのがマシュー・ボウヤー氏だった。昨年10月、IRS(内国歳入庁=日本の国税庁に相当)が彼の自宅を家宅捜索したところ、オオタニの名前が浮上。オオタニの銀行口座からの送金が、数百万ドルにもなると聞き及んだのです」

 さらに、同紙がボウヤー氏の周辺を取材すると、こんな声まで聞こえてきたというのである。

「ある情報筋がわれわれに語ったところによれば、ボウヤー氏はラスベガスなどで賭博関係者を前にオオタニとのつながりをひけらかし、自らの賭博ビジネスの“広告塔”代わりに使っていたそうです」

地道な周辺取材を進めていたが…

 驚愕(きょうがく)の情報を入手した「LAタイムズ」は、なんとか記事化すべく地道な周辺取材を重ねた末、いよいよ大谷サイドへの確認に移ったが、事態は急転直下を迎える。

 再びアレラーノ氏に聞くと、

「われわれはオオタニ、ドジャース、そしてメジャーリーグベースボール機構(MLB)への取材を始めたのですが、先週水曜日(日本時間3月21日)に唯一届いた球団からの回答は、“水原を解雇した”というものでした。それを受けた直後、われわれは最初の記事を発表したのです」

 実は「LAタイムズ」が第一報を伝える前日、同様の疑惑情報を入手して取材に動いていたアメリカのスポーツ専門放送局ESPNも、大谷サイドに取材を申し込み、水原一平氏(39)への電話インタビューを敢行していたのである。ここで彼は後に「大谷会見」で否定される数々の“ウソ”を証言して、騒動の混乱に拍車をかけたのはご存じの通りだ。

 メディアの問い合わせをきっかけにして、最終的にドジャースは「水原解雇」を決断。それをつかんだ「LAタイムズ」は、わずか10分の差でESPNに先んじてスクープを世に問うたというわけなのだ。

「非常に長く複雑な捜査に」

 気になる捜査の行方について、「LAタイムズ」は今後二の矢、三の矢を放つ予定はあるのか。

「現時点でわれわれが知っていることは、連邦当局による捜査は行われているが、いかなる告発、起訴もされていないということです。何かが違法とされるには検察の判断を待たねばなりませんので、われわれもボウヤー氏を犯罪者だとは断定できない。これは非常に長く複雑な捜査になると思われますから、将来のことについては安易に推測できない。今、われわれが言えることは、刑事告発が提起されれば、スポーツ界はどんな種類の違法賭博も容認しないということです」

 地元紙の意地を見せた記者たちの続報が待たれる。

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「週刊新潮」2024年4月4日号 掲載