かつてワールドシリーズを舞台に八百長が行われて以来、野球賭博に関わる行為は大リーグ最大の禁忌になった。だがそのタブーを1989年、最多安打記録保持者が破ってしまう。野球ファンが当時、「水原ショック」に比されるほどの衝撃を受けた事件とは。

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 米国メディアが「水原ショック」を報じる際に、なにかと引き合いに出す男がいる。シンシナティ・レッズなどで活躍した往年の名選手、ピート・ローズ(82)その人である。

〈世界一有名な野球選手の通訳が絡んだことで、既に1989年のピート・ローズ以来となる球界最大の賭博スキャンダルだ〉(米ニュースサイト「ポリティコ」)

闘志あふれるプレーでファンを魅了

 今般、このように言及されるローズの毀誉褒貶相半ばする野球人生について、MLBに詳しいジャーナリストが以下のように語る。

「現役時代のローズは技巧を要するスイッチヒッターである一方で、闘志あふれるプレーでもファンを魅了しました。特にヘッドスライディングは彼の代名詞。積極的な走塁で観客を沸かせました。大リーグ通算4256安打は、今なお破られていない金字塔です」

 その負けん気が災いしてか、イチローが2016年に日米通算でローズの安打記録を抜いた際には、

「(日米の)野球のレベルが違うのは明白。それなら私のマイナー時代の(安打の)数字も加えてほしかった」

 などと暴言を連発。日本の野球ファンからひんしゅくを買ったこともあった。

永久追放処分

 だがしかし、ローズが日本だけではなく、米国の野球ファンからも総スカンを食らったのが、冒頭の引用でも触れられている野球賭博の一件である。先のジャーナリストが言う。

「ローズは85年、45歳でレッズの選手兼監督に就任すると、次のシーズンで現役を引退。翌87年からは監督業に専念するようになります。ですが、89年のシーズン前にローズが野球賭博に手を染めていたことが発覚。しかも、自身が監督を務めていたレッズの試合に賭けていたことまで露呈してしまったのです」

 続けて言うには、

「1919年にシカゴ・ホワイトソックスの選手がワールドシリーズを舞台に八百長を行った“ブラックソックス”事件以来、大リーグで野球賭博に関わる行為は禁忌とされてきました。ローズは“関係者が野球の試合に賭けた場合は1年間の資格停止、自分のチームの試合に賭けた場合は永久追放”という規則に則って、89年8月、永久追放処分の憂き目に遭ったのです」

 その後、ローズは永久追放の解除を嘆願しているが認められてはいない。それほど野球賭博に対する目は厳しく、その汚点は拭いきれないのである。

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「週刊新潮」2024年4月4日号 掲載