名物コラムニストも「存在価値ない」

 米大リーグ、ドジャースの大谷翔平(29)の通訳だった水原一平容疑者(39)が違法賭博による借金返済のため、大谷の口座から胴元側に1600万ドル(約24億5000万円)以上を不正に送金し、銀行詐欺容疑で訴追された。これで米メディアの矛先は潔白となった大谷から、水原容疑者に不正流用を許した大谷の代理人事務所「CAAスポーツ」や同事務所で大谷の代理人を務めるネズ・バレロ氏に向いた。さる米大手マネジメント会社の代理人がこう指摘する。

「CAAによる大谷の金銭絡みの失態は、今回が初めてではありません。さすがに大谷も代理人契約の打ち切りを考えるのではないでしょうか」

 大谷とバレロ氏は、2018年のエンゼルスでのメジャー挑戦時から二人三脚で歩んできた。昨オフにはプロスポーツ選手として史上最高額の7億ドル(約1090億円)でドジャースとの契約をまとめ上げた。水原容疑者に続き、メジャー生活を支えてきた相棒とのコンビ解消が米球界関係者の間では囁かれている。

 37ページにも及ぶ訴状で浮かび上がったのは水原容疑者の悪質な手口とともに、バレロ氏ら大谷周辺の杜撰な対応だった。バレロ氏と経理担当、財務アドバイザーが大谷の口座情報の開示を何度か求めた際、水原容疑者の「本人が私的な口座なので、誰にも見せたくないと言っている」との嘘に、まんまとだまされた。

 バレロ氏は大谷とは直接話さず、水原容疑者を通じてコミュニケーションを取っていたとされる。他に日本語ができるスタッフを雇うこともなかった。大谷の言葉の壁を悪用し、事実上のマネジャーとなった水原容疑者に権限の集中を許した結果、21年11月から24年1月まで、水原容疑者により大谷の口座から胴元に1600万ドル(約24億5000万円)以上の送金が行われた。ロサンゼルスタイムズの名物コラムニスト、ビル・プラシュケ氏は「大谷のチームが口座を放置していたことは信じられない。存在価値がない。チームを入れ替えるべきだ」と切り捨てたのだった。

格安契約で代理人交代説も

 さらにスポーツ専門サイト「ジ・アスレチック」の敏腕記者ケン・ローゼンタール氏は「水原が口座情報の開示を拒んだら警報のサインが出ていたのではないか。大谷を不機嫌にさせると他の代理人に代えられるとでも思ったのか」とCAAサイドの無策を痛烈に批判した。

 大谷はエンゼルス時代の21、22年と総額850万ドル(約9億円=レートは当時)で契約していた。大谷の成績は21年が「9勝、46本塁打」、22年は「15勝、34本塁打」で、二刀流で投打に大車輪の活躍を演じることになる。

「エースと主砲、2人分の働きになったにもかかわらず、バレロは20年のオフに、こんな格安の契約しか結べなかった。われわれの世界では、この2年間の大谷の契約は『代理人の失態』と言われていました。大谷はフリーエージェント(FA)になり、巨額契約が望める23年オフを見越し、代理人をバレロから代えるのではないかとみていました」(前出の代理人)

 大谷の代理人契約を巡っては、渡米時から辣腕代理人で「吸血鬼」の異名を取るスコット・ボラス氏が虎視眈々と狙っていた。バレロ氏との契約後も、大谷の恩師である岩手・花巻東高校の佐々木洋監督に接近しようとするなど、大谷の周辺の切り崩しを図っていたという。

FTX破綻でアンバサダー報酬がパーに

「CAAもボラス側の動きは把握していたようです。あることないことを吹聴し、ライバルを追い落とそうとすることなどは代理人の世界の常です。この頃はCAAに危機感がなかったはずがありません」(前出の代理人)

 CAAの失態はさらに続いた。

 22年11月、大谷がアンバサダーの一員だった暗号資産(仮想通貨)大手交換所「FTXトレーディング」が杜撰な経営手法により経営破綻したことがあった。直後に、損害を被った投資家たちが同社の宣伝に関わったことで賠償責任があるとして大谷らアンバサダーに対し、集団提訴する事態に発展したのだった。

「結果的に、FTXの件は大ごとには至らなかったものの、大谷のイメージに大打撃を与えかねませんでした。FTXとのアンバサダー契約を取ってきたのはCAAです。しかも大谷の報酬は仮想通貨や同社の株式だったようで、全て失うことになったそうです。お金に無頓着な大谷も、これでは不信感を抱くだろうと思っていたのですが……」(同代理人)

 それでも、大谷はバレロ氏との代理人契約を継続した。一方でこの時既に、水原容疑者による不正送金が行われていた。

「FTXの時に代理人事務所が代わっていれば、新たなチームが大谷の口座管理に乗り出していた可能性は少なからず、あったでしょう。不正送金の被害を拡大させない最後のチャンスだったのかもしれません」(同)

無関心ぶりは日ハム時代が起点

 思い返せば、大谷の金銭管理への無関心ぶりは日本ハム時代が起点だった。プロ入り当初、年俸は全て両親に預け、小遣い制だったという。栗山英樹監督(当時)からは外出の際に同監督の許可を得るよう指導を受けていた。

「プロに入ったときから野球に全てを捧げる生活でした。普通の選手ならチームメートと合コンしたり、記者と食事に行ったりすることで世間一般の感覚をつかみ、良くも悪くも“大人”になっていくものです。しかし、大谷は純粋培養のまま、ベースボールマシンのようになっていった。グラウンドでのプレーには無駄な時間を割いてこなかったからこそ、二刀流でこれだけのパフォーマンスを残してきたとも言えるのですが……。ただ今回、こういう事件が起こったからには何かを変える必要性に迫られているのではないでしょうか」(元NPB球団監督)

 大谷はドジャース10年契約を締結した。一方で当面、年間100億円とも言われるスポンサー契約が見込まれる。今後もさまざまなリスクと隣り合わせの中で、大谷が「バレロ氏解任」という大ナタを振るう日は来るのか――。

デイリー新潮編集部