巨人移籍の機は熟していたが

 米大リーグ、ジャイアンツを自由契約になった筒香嘉智外野手(32)の5年ぶりの日本球界復帰はDeNAで果たすことになった。当初、一部報道で巨人入りが決定的とされていたが、パ・リーグ球団を含む複数球団による争奪戦の末、古巣で落ち着いた。かねてラブコールを送ってきた球団フロントには大願成就となったものの、現場のユニホーム組の思いとは温度差があるようだ。

 争奪戦を巡る一連の動きを振り返ると、一時は巨人の優位が動かなかった。他球団をしのいだとみられる条件面以上に、阿部慎之助監督と筒香が特別な関係にあったからだ。

 阿部監督は現役時代、当時DeNAに在籍していた筒香と試合前に野球談議に花を咲かせるなど、同じ左のスラッガー同士としてシンパシーを感じていた。2015年のオールスター戦のホームラン競争で筒香の打撃投手を務めたエピソードは関係を端的に示している。

 在京球団編成担当が明かす。

「アメリカに行ってからも2人の連絡は絶えなかったようです。原(辰徳)前監督の時代から巨人が筒香を調査してきた中で、いつか一緒にやりたいと思っていた慎之助が1年、前倒しで監督になった。巨人移籍の機は熟していました」

 巨人では今季の開幕直前、ルーグネット・オドーア外野手がオープン戦での不振を理由に2軍調整を命じられ、これを拒否して米国に帰って行った。その際、巨人が強く慰留することはなかった。

「この時既にフリーになっていた筒香と巨人の交渉は進んでいました。そして獲得の手応えを感じていた。大物とはいえ、オドーアを特別扱いする理由はなかったということでしょう」(同編成担当)

 複数の球界関係者によると、筒香も巨人入りに傾いていたという。

「DeNAでの入団会見でも話していましたが、日本復帰に前のめりだったわけではありません。あれだけマイナー暮らしが続いていてもメジャーを諦めなかったわけですから……。それでも、全く新しいチームなら日本でモチベーションを高く持ってプレーできる、と。それでメジャーへの思いを断ち切ったところが大きかったです」(横浜高校関係者)

風向きを変えた誤報

 その新しいチームが巨人だったのか。しかし、一部スポーツ紙の「巨人入りが決定的」との報道で風向きが変わる。DeNAファンを中心に、同一リーグのライバル球団、しかもそれが巨人であることに猛烈なハレーションが巻き起こったのだ。

「筒香の野球に対する真摯な姿勢は本物です。しかし、巨人に行ってしまうと、どんなに阿部監督と関係が深かったとしても裏切り者のレッテルを貼られてしまい、それまで培ったものまでもが説得力を失ってしまう。DeNAに帰るしか選択肢がなくなっていきました」(同前)

 DeNAは巨人に水をあけられていた条件面で、最終的には年俸3億円の3年契約(3年目は変動制)のオファーで誠意を示した。特に今季年俸は、シーズン途中からの加入にもかかわらず、DeNAの日本人野手では牧秀悟内野手の2億3000万円、宮崎敏郎内野手の2億円をしのぎ、山崎康晃投手と並んでチーム最高額となる。萩原龍大チーム統括本部長は「日本に戻ってくるときは全力を尽くすというのは(ポスティングシステムでメジャーへ)送り出すときから決めていたので、ぶれることなく邁進しました。これでさらに優勝に近づいたと確信しています」と万感の思いを込めた。

首脳陣は起用法に苦悩か

 球団は本拠地の横浜スタジアムで入団記者会見を開き、ファンを無料招待した。雨中で異例と言える約9600人もの観客を集めた。2軍戦に出場しただけで、球場では早くもフィーバーが起きている。

「渡米前の実績への期待感があるのはもちろん、横浜高校出身で極めて地元色が強い選手です。毎日出場する可能性がある野手ですし、集客に大きく寄与することが期待できます。これだけのインパクトがある選手ですから、球団は(主砲だった)以前のような活躍ができなかったとしても、決して高くない投資と分析済みだったのではないでしょうか」(元パ・リーグ球団社長)

 一方で現場の首脳陣、選手はもろ手を挙げての歓迎ムードばかりではないようだ。

 ちょうど一塁を守っていたタイラー・オースティン内野手が負傷離脱したばかりで、筒香は代役に適任だ。しかし、いずれオースティンが1軍復帰すれば、筒香を外野に回さざるを得ない事態が起こり得る。外野は売り出し中の度会隆輝、佐野恵太らがひしめく。筒香の存在はチームの新陳代謝を阻害しかねない。

「今のDeNA打線は得点力不足で、未知数の新外国人選手を獲得するより、筒香の方が計算できることは確かです。ただ実績も影響力もある元主将だけに、ベンチは結果が出なくても、ある程度使わないといけないとあって起用に頭を悩ますことになるかもしれません」(元NPB球団監督)。

「若手から歓迎の声を聞いたことがない」

 三浦大輔監督は筒香がジャイアンツを退団した直後に電話し「おい、帰ってこいよ。じゃあ、またな」と15秒ぐらいで切ったという。そんなやり取りに表れていたのは複雑な胸中だったのか。

 今のDeNAの主力野手は、筒香が在籍した当時とは大きく顔触れが変わった。

「アメリカで所属球団を退団となるたびにDeNA復帰かと言われてきましたが、若手から歓迎する声を聞いたことがありません。歳が近い選手同士でやりやすかったところに、立てなければいけない選手が来るのですから……。最初は戸惑いがあるでしょうし、ベンチが起用法を誤れば、出番を奪われた選手たちからは不満が出かねません」(DeNAのチーム関係者)

 筒香は入団会見で「勝負の世界に“はい、ポジションどうぞ”はない。自分のパフォーマンスでポジションをとりにいくだけと思っています」と言い切った。まさにこの言葉通り、かつて本塁打と打点の2冠に輝いた打棒で雑音を封じ込めていくしかない。

デイリー新潮編集部