あまりのノーコンにチームが切れた

 トラ帰還への布石か――。日本時間5月14日、メッツ3Aシラキュースの藤浪晋太郎(30)が、メジャー昇格と同時に15日間のIL(負傷者リスト)入りするという、奇妙な情報が飛び込んできた。

「その2日前、FUJI(=藤浪)はマイナーで7日間のIL入りをしています」(現地メディア関係者)

 マイナーと違い、メジャーリーグには60日間という長期のILもあり、そこに藤浪を移行させると見られる。藤浪もメジャー昇格の可能性を持つ40人枠(ロースター)の選手である。藤浪を長期IL入りさせれば、“41人目の選手”をメジャー昇格させられるからだ。

 しかし、気になる点もある。シラキュースでのIL入り発表のときもそうだったが、ケガの内容が一切明らかにされていない。一部では右肩の不調とも伝えられているが、メジャーリーグではケガの具合も同時に発表されるのが一般的だ。

「とはいえ、IL入りさせることで他の若い選手を試合で起用することができるようになりました。今後、去就問題に影響してくるという見方もあります」(現地メディア関係者)

 藤浪は5月3日、ナショナルズ傘下のロチェスター戦以降、登板がない。ここまで登板間隔が空いているということは、ケガもさることながら、別の可能性もある。

 ロチェスター戦でのことだ。39球を投げ、半分以上が「ボールカウント」という大荒れぶりは日本でも報じられた。しかし、試合の詳細を聞くと「制球難」などという生易しいものではなかったのだ。

 藤浪は6回・二死満塁の場面で起用され、先頭打者にいきなりの四球を与えた。イニングをまたいだ次の7回でも四球2つを出した。8回にもまた四球を出すと、ベンチから監督が出て右腕を大きく横に振った。守っている野手に向かって、「誰でもいいから代わりに投げろ」の意味である。シラキュースのベンチは藤浪を見放したようだ。

「臨時登板した野手も打たれて、藤浪が四球で出した走者が帰ってきました。藤浪に『失点2』が記録されました。試合は序盤でロチェスターが主導権を握っていましたが、野手をマウンドに行かせる事態になったのは藤浪のせいです」(米国人ライター)

 藤浪はこれまで9試合にリリーフ登板し、0勝0敗、1ホールド、19四死球で、15失点(自責点は12)、防御率は14.09。

日本へ戻るのか

 筒香嘉智(32)がDeNAに復帰して以降、日本では「次は藤浪」という声が聞かれるようになった。

「メッツとは1年335万ドル(約5億1900万円)で契約しました。活躍すればボーナスの出るオプション(最大で85万ドル=約1億2750万円)も加えられていますが、メジャー昇格を保障する契約ではありません。マイナーで悶々としているのなら、日本の一軍マウンドで投げてもらいたいという期待論は高まっています。関西の球団の間では近くメッツを退団するという情報も交錯しています」(在阪スポーツ紙記者)

 その退団情報だが、米メディアの伝えるニュアンスは日本とはかなり異なっていた。ロチェスター戦での醜態もあるが、藤浪は30歳だ。「年齢的に見て、2A、1Aに降格させられない」というのである。

「メッツは世代交代の過渡期にあり、ペナントレースでも厳しい局面が続いています。藤浪がIL入りした11日時点で、ナ・リーグ東地区の3位。首位・フィリーズとのゲーム差は6。若手投手をテスト登板させる余裕もありません。藤浪はいつお払い箱になってもおかしくはない」(前出・米国人ライター)

 ロチェスター戦から3日が経過した6日、藤浪の代理人であるスコット・ボラス氏(71)が一部米メディアの取材要請に応じていた。

「記者たちは、ボラス氏が担当するブレイク・スネル(31)=ジャイアンツ、ジョーダン・モンゴメリー(31)=ダイヤモンドバックス、コディ・ベリンジャー(28)=カブスなど、大物選手について質問していました。とくに昨オフ、大型契約を結んだのに不振に喘いでいるベリンジャーについて質問が集中しました」(前出・米国人ライター)

 多くはないが、藤浪についても言及している。スポーツ専門TV局・ESPNや米TV局MLBネットワークの番組「MLBセントラル」などによれば、ボラス氏は「FUJIは今、これまで経験したことのなかったような環境で投げている」と擁護していた。さらにこうも語っていた。

「リズムが戻ってくれば、昨年後半の良いときのようなピッチングができる。FUJIはメジャーレベルの球威を持っているんだ」

 球威に関して問題はない。とはいえ、「リズムが戻ってくれば」とする“擁護論”に共鳴するMLB球団はないだろう。

肘の位置を下げたのが原因?

「ボラス氏の今後の出方に注目が集まっています。不振に喘いでいるベリンジャーは3年8000万ドル(約120億円)の大型契約でカブスに残留しました。得点圏打率が4割を超えているのはさすがですが、打率は2割5分5厘(13日時点)。一昨年、不振でドジャースを戦力外となり、昨年、カブスに拾われました。その23年の成績だけで、ボラス氏が強気な大型契約を迫り、カブスが交渉で負けた形となりました。氏が担当するレッドソックス・吉田正尚(30)も出場機会が激減しています。今後のクライアント獲得のためにも、ボラス氏が担当している選手を移籍させるなどし、活躍の場を与えようとするのではないかと予想されています」(前出・同)

 そのため、藤浪のメッツ退団もあるのではないかとも予想されているのだ。藤浪にチャンスは残されているのか。

「6月8〜9日、ロンドンでメッツとフィリーズの海外公式戦が行われます。7時間強の飛行機での移動時間に、時差が8時間もあります。メッツが登板過多の救援陣を疲れさせたくないとし、この遠征期間中に藤浪を帯同させてくるかもしれません。もしもロンドン・スタジアムで好投すれば、評価が変わるかもしれません。もちろんケガが回復していればの話ですが」(前出・同)

 ロンドンでも四死球連発なら、ジ・エンドだろう。その上、日本球界に復帰すれば一軍マウンドに帰ってこられるという単純な話でもない。藤浪はマイナー降格後、肘の位置を少し下げた新しい投球フォームもテストしているが、今回のIL入りには「肘の位置」が影響しているのかもしれない、という情報もある。

 阪神帰還も根強く囁かれているものの、岡田彰布監督(66)が制球難の投手は使いにくいと公言しているのは有名な話だ。NPBで他球団入りを模索するのではないかとの見方もあるが、周囲が思っている以上に藤浪は“阪神愛”が強く、1月の自主トレ期間も鳴尾浜球場でかつての同僚と行動を共にしていた。

 藤浪晋太郎は、正念場を迎えつつある。

デイリー新潮編集部