陰謀論を本気で唱える人、それを拡散する人、ジョークのネタにする人、それをまた拡散する人――。キャサリン妃の“不在”や陰謀論に関するSNS上での騒ぎは、キャサリン妃の愛称(ケイト)から「ケイトゲート(Kategate)」と総称されている。英国時間22日に「がん告白」動画が公開されても完全鎮火に至っていないが、謝罪や苦しい釈明を選ぶ人たちも現れた。そこにはヘンリー王子とメーガン妃の“関係者”も含まれている。

「Where is Kate?」の大合唱

 現在までに発生した憶測や陰謀論は、整形失敗、ウィリアム皇太子の不倫、離婚危機、死亡、英王室による隠ぺい工作、本当はどこにいるのかといった内容だ。発生時期の特定は難しいが、キャサリン妃と子供たちの家族写真が公開された3月10日頃からの“盛り上がり”が最もひどいものだったと言える。

 この家族写真に画像加工ソフトでの修正疑惑が持ち上がり、キャサリン妃は13日にそれを認めて謝罪した。SNS上では「失敗した」キャサリン妃を揶揄する投稿が増加し、さらには「英王室はキャサリン妃だけに責任を負わせた」「家族写真はフェイク」といった見方もミックスされる。そして「Where is Kate?(どこにいるのかという疑問をフレーズ化したもの)」の声も陰謀論とジョークの双方でそれまで以上の大合唱になった。

 英米メディアは16日、自宅近くの農場で目撃されたキャサリン妃の動画と画像を公開した。だが、この画像もまたジョークのネタになり、「フェイク」との指摘も相次いだ。ついには「がん告白」動画に対するフェイク扱いも始まり、撮影した英BBCが「BBCスタジオのスタッフによる撮影である」と声明を発表している。

永遠に続く絶望のループの一種

 王子時代のウィリアム皇太子夫妻の報道官を務めていたパディ・ハーバーソン氏はBBCの番組に出演し、この騒ぎは「永遠に続く絶望のループの一種であり、今まで私が見た中で最悪のものだった」と述べた。「がん告白」にこの流れを断ち切る意図があったことは推して知るべきであり、ごく一部には効果があったようだ。

「最初に謝罪したセレブ」として注目されたのは、米俳優ライアン・レイノルズの妻で俳優のブレイク・ライヴリー。写真修正の件に絡めたジョークとともに自社の商品をPRした投稿について「馬鹿げた投稿をしてしまった」と謝罪した。ただし、ハートマークで締めくくられた文章を、Instagramの24時間で投稿が消えるストーリーズ機能で公開するという“謝罪”は、受け取り手によって印象が異なるかもしれない。

 英国では左派ジャーナリスト、オーウェン・ジョーンズ氏が「健康状態が深刻である可能性を考えずにこれ(本当はどこにいるのかという陰謀論)を憶測した者として、率直に言ってとても恥ずかしい」と謝罪した。ほかにも英メディア関係者や拡散に加担したインフルエンサーたちが謝罪しているが、後者は日本のSNSでもよくある「謝罪すらネタの1つ」に見えるものも多い。

NPO団体の代表も反省

 気になるのはヘンリー王子とメーガン妃の関係者である。“暴露本”の著者であり「メーガン妃のチアリーダー」とも呼ばれるオミッド・スコビー氏は、「がん告白」動画が公開される少し前に意味深な画像を投稿した。公開予定時刻の午後6時にアラームをセットするというこの画像は、「がん告白」直後から猛烈な批判を受け、その後に削除された。

 次にスコビー氏は「このニュース(キャサリン妃のがん告白)がどれほど深刻か世界と私自身が知ったとき、私はツイート(原文ママ)を削除し、その裏で進んでいる憶測を阻止した」と投稿した。「裏で進んでいる憶測」とは「がん告白のカウントダウンという悪趣味な行為をした」ことだという。

 米NPO団体「ママズ・ファースト」と「ガールズ・フー・コード」の創設者レシュマ・サジャーニ氏は、「インターネットにうんざりし、(陰謀論の)罠にはまった自分自身にもうんざりした」との反省文をInstagramに掲載した。「ママズ・ファースト」は今年3月、メーガン妃と協力したレポートを発表。そのテーマはエンターテインメント作品における母親の描写、いわゆる「母性のステレオタイプ化」に関する内容だった。

無視を決め込むスーパーセレブ

 一方で主張を翻さない人もいる。ウィリアム皇太子とキャサリン妃について「バナナのように早く老化している」と発言し、Netflixドキュメンタリー「ハリー&メーガン」に出演した米IT起業家のクリストファー・バウジー氏だ。近頃は16日の目撃動画についてフェイクを主張しており、「がん告白」動画の公開後も、「彼女の以前の3枚の写真はすべて偽物であり、宮殿がそれを隠蔽しようとしたことも明らかだ」と主張を繰り返した。

 さらに「宮殿は嘘をつき、英国のマスコミは喜んで彼らの嘘を手助けした」「これはまさに北朝鮮/トランプ派のプロパガンダだ」などと発言している。対して英メディアは、バウジー氏の事業はTwitter(現在のX)上の偽情報などを追跡する分析サービスだと指摘し、一連の発言が事業にもたらす悪影響を“心配”しているようだ。

 米セレブタレントのキム・カーダシアンは、ゴージャスなキメ写真に「ケイトを探しに行く途中」とのジョークを添えたInstagram投稿が炎上中だ。「ならばこの投稿を消しなさい。彼女はがんです」といった非難コメントが殺到しているものの、投稿はいまだに放置されている。

 カーダシアン家とメーガン妃の接近は以前から報じられており、2023年8月にLAで開催された慈善イベントではメーガン妃の母ドリア・ラグランドさんとキム、キムの母クリス・ジェンナーさんの3ショットが話題を呼んだ。さらに「がん告白」の前日、「デイリー・メール」が掲載したリチャード・エデン氏のコラムは、クリスさんのパートナー男性とヘンリー王子が3月上旬、グループで高級スキーリゾートを訪れていたと明かした。

発生源は米国? 敵対国家?

 ロンドン拠点のジャーナリスト、エリザベス・ペイトン氏は米紙「ニューヨーク・タイムズ」のコラムで、ケイトゲートは「主に英国国外から、特に大西洋の向こう(米国)からやって来た」とした。一方で英紙「テレグラフ」は、ケイトゲートの裏に中国、ロシア、イランといった英国の敵対国家による工作が存在する懸念を報じている。

 とはいえ、現在明らかな事実は「世界的に有名な女性ががんで闘病している」ということだけだ。陰謀論の専門家で英ウォーリック大学教授のカシム・カッサム氏は英紙「ガーディアン」に対し、「『陰謀論』を唱える人々が新たな陰謀論に移れば、それらは消え去っていく」と語った。ケイトゲートの悪化については英王室の対応ミスなども指摘されているが、今となっては時間による解決しか手はないのかもしれない。

デイリー新潮編集部