韓国観光公社の発表によると、2023年に韓国を訪れた日本人観光客数は231万6000人と、中国や米国を抑えトップだった。東京から2時間半ほどのフライトで、週末を利用して気軽に訪れることができるだけに、ソウルを訪れるだけでは物足りなくなってきた人もいるのではないだろうか。新しい韓国の一面が見られる“地方都市”への旅をオススメしたい。

歴史ドラマの舞台となった地方都市

 韓国通には、少し足を延ばして韓国東南部・慶尚北道に位置する安東(アンドン)や大邱(テグ)を巡る旅をオススメしたい。自然の豊かさやノスタルジーを感じられる地方都市では、ソウルや第2の都市・釜山(プサン)とはひと味違った韓国文化の奥深さを感じられるはず。

 慶尚北道が歴史ドラマ「善徳女王」や「花郎<ファラン>」の舞台と聞けば、ドラマ好きには、ピンとくるだろう。

 ソウルから安東までは、KTX(韓国高速鉄道)を使えばソウルから安東までは約2時間、同じくソウルから大邱は約1時間40分、釜山からは約45分。さらに、日本から大邱空港への直行便も運行しているため、アクセスも難しくない。大邱から安東までは高速バスが出ており、約1時間半でアクセスできる。

 実は、世界的に話題になった韓国ドラマのロケ地も、このエリアに点在している。

伝統的な家屋が並ぶ村

 韓国には世界文化遺産が13カ所あり、そのうちの1つが2010年に世界遺産登録された安東河回村(アンドン・ハフェマウル)である。

 茅葺きや藁葺きの伝統家屋が並ぶ街並みを歩けば、歴史ドラマの世界に迷い込んだような気分を味わえる。村を一望できる芙蓉台(プヨンデ)は、朝鮮時代中期が舞台のドラマ「チュノ〜推奴〜」や時代劇とゾンビものの異色の組み合わせでヒットしたドラマ「キングダム」のロケ地として知られ、ファンの聖地になっている。

 現在も、朝鮮王朝時代の特権階級である両班(ヤンバン)の子孫が住み、伝統的な家屋を維持しながら暮らしている。2004年に放送されたドラマ「美しき日々」に出演した、歌手で俳優のリュ・シウォンの実家も、ここ河回村にある。

 村に伝わる「河回別神グッ仮面劇」の仮面をはじめ、国内外の仮面を集めた世界仮面博物館もあり、散策するだけで1日楽しむことができる。

ムーンボートでゆったり

 夕方から夜にかけて訪れて欲しいのが、象牙洞と城谷洞をつなぐ安東湖にかけられた「月影橋(ウォルヨンギョ)」だ。

 2003年に開通した、長さ387メートル、幅3.6メートルの木造の橋で、韓国の伝統的な建築が再現されており、こちらもまさに時代劇の世界観。音楽とともに始まるダイナミックな噴水ショーも定期的に開催され、ソウルの漢江の噴水ショーとはひと味違った趣がある。

 あたりが暗くなってからは、橋全体がライトアップされて幻想的な雰囲気に包まれる。

 湖の上を漂う、スワンボートならぬ、ムーンボートが若者や家族連れに人気とのこと。珍しい三日月型のボートに乗れば、月影橋や橋の真ん中にあるあずまや「月映亭」を水上からゆったりと眺めることができる。

新鮮な牛肉を味わう

 韓国旅行で外せないグルメも紹介したい。最近は、様々な韓国料理を提供するレストランが日本でも増えているが、「チムタク」があるお店は意外と少ない。

「チムタク」とは、鶏肉とじゃがいもや玉ねぎなどの野菜、太めな春雨を甘辛いタレで煮込んだ料理で、実は安東の郷土料理である。ご飯が進むこってり感がある醤油ベースのたれは辛すぎず、辛い韓国料理が苦手な人にもオススメしたい。

 もう1つ安東の特産品である「安東韓牛」も是非、味わってほしい。

 安東カルビの特徴は、しっかりとした厚みがあるものの驚くほど柔らかいこと。醤油ダレの味が付いた肉を強めの炭火で一気に炙ることで、うまみが凝縮される。韓国焼肉らしく、コチュジャンをつけてサンチュやエゴマの葉で巻いて食べるとさらに美味しい。

 新鮮な牛肉を使った「ユッケビビンバ」もオススメ。ごま油とニンニクの風味がほんのりついた赤身肉は、生で食べることで肉本来のうまみを余すところなく味わえる。野菜やあまり熱くないご飯としっかり混ぜて食べるのが美味しく味わうポイント。

K-ウエルネスの最新スポット

 大邱にある今話題のヒーリングスポットにも、ぜひ訪れて欲しい。

「大邱美人」という言葉があるくらい、韓国でも美人が多いことで知られるこの地域。日本でもファンが多い俳優クォン・サンウの妻、ソン・テヨンを筆頭に、2020年に日本で大ヒットしたドラマ「愛の不時着」のヒロイン、ソン・イェジン、さらに「ザ・グローリー〜輝かしき復讐〜」で新境地を開いたソン・ヘギョも大邱の出身だ。ちなみに、BTSのメンバー、SUGAとVもここ大邱で育った。

 そんな大邱にある話題のスポットが「大邱思惟園(テグ・サユウォン)」という樹木園である。2024年に放送され大ヒットした「涙の女王」のロケ地として使われたことで、ますます有名になった。

 鉄鋼会社の創業者によって50年以上かけて整備され、2021年9月に開業。10万坪ほどの敷地に、樹齢300年以上のカリンの樹をはじめ、珍しい樹木が美しく造成される。散策路の合間には、ポルトガルの建築家のアルヴァロ・シザや韓国人建築家のスン・ヒョサンなど、世界的な建築家が設計した施設が点在し、自然と建築・アートが融合した庭園となっている。

 麻の布が敷かれた道を靴を脱いで歩けるエリアがあり、程よい刺激を足裏に感じながら歩く体験が観光客に人気だという。瞑想スペースも多数あり、昨今注目される体にも心にも心地の良いウエルネス(健康的な生活を実践しようとする態度)を体験できる。いまや定番となった韓国コスメやエステといったK-ビューティーの一歩先、K-ウエルネスを知るにはうってつけのスポットだ。

 歴史や自然、グルメもたっぷり楽しめる地方都市。今年の夏休みには少し足を延ばして、大邱、安東を巡る韓国旅行を計画するのはいかがだろうか。

取材・撮影協力:韓国観光公社

旅行ライター/宮田ゆたか

デイリー新潮編集部