千葉県東方沖を震源とし、銚子市で震度5強を記録した2014年3月14日の地震=気象庁(震度データベース)より

 千葉県東方沖で地震が多発している。首都直下地震との関連性を懸念する声も上がるが、政府の地震調査委員会などは「現時点で結びつくとは考えていない」と否定的な見解を示している。しかし、この地域は過去に大きな地震が発生した歴史があり、2011年の東日本大震災後から続く地震リスクも潜むとして、専門家が警鐘を鳴らしている。

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 千葉県の東方沖を中心に、2月下旬から地震が頻発している。

 気象庁の震度データベースによると、2月27日から3月17日までに、最大震度1以上の地震を46回観測。2月26日以前の1カ月間では3回しか起きておらず、地震が増えているのは明らかだ。

 最大震度4の地震が4回、最大震度3の地震も7回と、比較的大きな揺れも観測している。
 

 気象庁によると、この地域では「スロースリップ」と呼ばれる現象が起きているという。「スロースリップ」とは、断層がゆっくりと動く現象だ。この断層の動きで地震が起きるのではなく、新たにできたひずみによって地震が起きていると見られている。

 政府の地震調査委員会(委員長=平田直・東京大名誉教授)によると、この地域では1996年、2002年、07年、11年、14年、18年と数年おきにスロースリップが起きている。07年には最大震度5弱の地震が起きており、同じ程度の地震が今回の地震活動でも起きる可能性があるという。
 

■周期的に起きている地震

 報道によると、近い将来起こると懸念されている首都直下での巨大地震との関連について、平田委員長は「過去にも活動がある場所であり、現時点で結びつくとは考えていない」との見解を述べたという。

 しかし、警鐘を鳴らす専門家もいる。

「もう一つの地震リスクが見過ごされている」

 こう指摘するのは、東海大、静岡県立大の客員教授で、日本地震予知学会会長の長尾年恭氏だ。この場所では、少し長い周期で見ると大きな地震が起きてきたという。
 

 長尾氏が指摘するのは、およそ40年周期で起きている地震だ。

 千葉県東方沖では1987年に最大震度5(M6.7)の大きな地震が起きている。この地震では死者2人、負傷者161人、住家は全壊16棟に半壊102棟、一部破損が7万2580棟という大きな被害が出た。

 この地震から37年前にあたる1950年に最大震度4(M6.3)、さらに38年前の1912年にもM6.2の地震が起きている。37〜38年に1度、地震が起きていることがわかる。

 そして、今年がちょうど前回の地震から37年というタイミングにあたる。過去の事例をふまえれば、千葉県東方沖では今後、M6.5前後の地震が起こるおそれがあるということになる。

 M6以上の地震が起きれば、房総半島の震源近くでは震度6弱から6強、東京都内でも震度5強ほどの揺れが襲う可能性がある。
 

■国が言及できないリスク

 なぜ政府の地震調査委員会は、今回の地震活動について警鐘を鳴らさないのか。長尾氏はこう説明する。

 スロースリップは、地面の揺れとして観測できないほど、ゆっくりとした動きのため、どれぐらい動いたかはGPSのデータを分析して計測する必要がある。

「GPSを使った地殻変動の観測は1995年の阪神・淡路大震災後に始まっており、1987年以前の地震でスロースリップが関係していたか、わかっていません。そのため、地震調査委員会はスロースリップと大地震の関連性とリスクについて、言及できないのだと思います」
 

 では、なぜ今回の5〜6年周期の地震と40年周期の地震が関係していると言えるのか。

「地殻変動のメカニズムは数十年程度で大きく変わるものではありません。となると、以前から短期的には5〜6年の周期でスロースリップが起きており、長期的には37〜38年の周期で大きな地震が起きてきたとも考えることができます。つまり、スロースリップが6〜8回発生するとM6.5前後の地震が起きていた可能性がある、ということです。地震学者としてこのリスクは看過できません」(長尾氏)
 

■動かなかった断層が今

 しかも大地震リスクはこれだけではないと、長尾氏は指摘する。

 千葉県東方沖には、巨大地震の際に動かなかった断層、「割れ残り」が二つあるのだ。

 懸念されている一つが、2011年に東日本大震災を起こした断層の割れ残りだ。東日本大震災は、岩手県沖から茨城県沖にかけての日本海溝沿いが震源となったが、震源の南端にある千葉県東方沖の断層は動かず、割れ残りになったと考えられている。

 千葉県が2016年に発表した被害想定によると、この割れ残りが動いた場合、最大でM8.2の地震になるという。最大8.8メートルの津波が銚子市を襲い、建物の全壊は約2900棟、半壊が約6700棟。死者は最大約5600人も出ると想定されている。
 

 そしてもう一つの割れ残りが、1923年に関東大震災(M7.9)を起こした相模トラフにある。

 相模トラフは1703年にも元禄地震(M7.9〜8.2)を起こしている。元禄地震の震源域は関東大震災よりも広く、房総半島の東側にも及んでいたことがわかっている。裏を返せば、元禄地震では動いたが、関東大震災では動かなかった割れ残りが、房総半島にあるということだ。

 長尾氏はこう語る。

「M6.5もしくはM7程度の地震が起きると、割れ残りを刺激し、M8クラスの巨大地震を引き起こすことも考えられます。この地域では古い建物が残っていたり、ライフラインが老朽化していたりする。能登半島地震のように壊滅的な被害を受けるおそれもあります。また、房総沖の地震が首都直下地震に連鎖していくことも考えられる」

 巨大地震はいつ起きてもおかしくない。最悪のシナリオを想定し、今からできる準備をしておくべきだろう。

(AERA dot.編集部・吉崎洋夫)