ジャイアンツでオープン戦に出場していた筒香(AP/アフロ)

 ジャイアンツを退団してフリーエージェントとなり、去就が注目されている筒香嘉智。日本球界復帰の可能性が取り沙汰されているが、その実現度はどうなのだろうか。

 筒香に近い関係者はこう語る。

「本人はできる限り、米国で長くプレーしたいという思いを持っています。今までも日本の複数球団から獲得のオファーが来たが、首を縦に振らなかった。メジャーの舞台にもう一度立ちたいという思いが大きなモチベーションになっている。その可能性が年々、厳しくなっている現実とどう折り合いをつけるか。相当悩んでいると思います」

 米国に渡ったのが20年。21年のシーズン途中に移籍したパイレーツで活躍した期間があったが、苦しんだ時期の方がはるかに長い。昨年はレンジャーズ傘下3Aでプレーしたがメジャー昇格は叶わず、その後は米国の独立リーグに所属した。今年は招待選手としてジャイアンツのメジャーキャンプに参加していたが、腰痛が影響してオープン戦6試合出場で打率.100、0本塁打、2打点。マイナーに降格となり、退団を決断した。

■古巣DeNAでもレギュラーは厳しい?

 日本球界復帰の道を選ぶなら、古巣のDeNAが本命視される。在籍時に背負っていた背番号「25」は退団した20年以降空き番号となっており、筒香が復帰するまで他の選手にはつけさせないという球団の敬意が込められている。ただ、中心選手として所属していた5年前と置かれた立場が変わることは間違いない。左翼、一塁、三塁と複数のポジションを守れるが、左翼は佐野恵太、三塁は宮崎敏郎、一塁はタイラー・オースティンと強打者で埋まっている。筒香が復帰した場合はバックアップ要員からスタートすることが考えられる。

 ただ、レギュラーの座を確約されていないのはDeNAに限った話ではない。獲得に興味を示していると昨年から報じられてきた巨人も一塁・岡本和真、三塁・坂本勇人と不動のレギュラーがいる。外野も左翼は丸佳浩のほか、ファームに若手成長株の秋広優人が控えている。巨人を取材するスポーツ紙記者は、「阿部慎之助監督が現役時代から筒香の実力を高く評価していたことは間違いないが、現在のチーム編成を考えた時に必要な選手かと言われると疑問が残る。若手を育てながら勝つ方針にシフトしている中で、獲得してもプラスになるとは限らない」と疑問を投げかける。

 その中で、意外な球団が獲得レースに参戦するという情報が飛び込んできた。米国に駐在する通信員が語る。

「昨年、筒香が3Aや独立リーグでプレーしている時から、ソフトバンクが動きをチェックしていると聞きました。獲得に乗り出すなら豊富な資金力で好条件を提示することは間違いない。現場が獲得にどこまで携わっているかは分かりませんが、小久保裕紀監督は侍ジャパンの監督を務めた時に17年のWBCで筒香を4番に抜擢しています。野球に取り組む姿勢を高く評価しており、獲得が実現すれば頼もしい戦力になるでしょう」

■優勝から遠ざかり戦力補強に本気

 ソフトバンクは昨オフ、西武から山川穂高、巨人からアダム・ウォーカーの両主砲を獲得。外野は近藤健介、周東佑京、柳田悠岐で埋まっており、指名打者はウォーカー、一塁は山川、三塁は栗原陵矢とタレントがそろっている。「筒香が必要なのか」というと疑問があるが、福岡のテレビ関係者は違った見方を示す。

「打者としてのタイプは違うが、周東は規定打席に到達したシーズンがないし、栗原も好不調の波が激しい。昨年にほとんど試合に出ていない山川、ベテランの柳田は故障のリスクを抱えており、今後のチーム構想を考えると選手層を厚くしたい思惑はあるでしょう。筒香は複数のポジションを守れるし、32歳とまだまだ老け込む年ではない。日本球界に復帰すれば、まだまだできますよ」

 

 筒香に関しては150キロを越える直球に対するコンタクト率の低さが、米国で結果を残せなかった一因と言われている。剛速球を武器とする投手が多いパリーグでプレーするのは厳しいという声も聞かれる。これについても、パリーグ球団の編成担当は違った見方を示す。

「大谷翔平(ドジャース)のようなトップクラスの選手は別ですが、球速が上がれば上がるほど打者の対応が難しくなる。筒香が速い球に極端に弱いという印象はないですね。メジャーで活躍できない理由はコンディションに問題を抱えていたのが大きな理由だと思います。状態が万全なら日本で十分に通用する。指名打者制度のパリーグの方が起用法の幅が広いのでは。貧打が悩みの球団が多いですしね。あの長打力は魅力です」

 なによりソフトバンクは20年に日本一になって以後、リーグ優勝からも遠ざかっている。チームに必要なピースであると判断すれば、豊富な資金力を惜しまないだろう。22年6月に秋山翔吾がパドレスを退団した際にも獲得に名乗りを上げ、秋山は広島に入団を決断したが、条件面では「ソフトバンクが最も好待遇だった」と球界関係者は証言する。

 戦力補強の本気度は強まっており、昨オフには山川、ウォーカー獲得のほか、オリックスからFAとなった山崎福也(日本ハム)の争奪戦にも参戦した。それだけに筒香とともに「ソフトバンクが獲得に乗り出すのではないか」とささやかれるのが、昨年DeNAでプレーしたトレバー・バウアーだ。

昨シーズン、DeNAで実績を残したバウアー

 ソフトバンクの一番の補強ポイントは先発の柱だろう。昨年は規定投球回数に達した投手がゼロ。千賀滉大(メッツ)が退団以降、絶対的エースがいない。そこで、日本で実績があるバウアーだ。今年はメジャー復帰を熱望してメキシカンリーグのレッドデビルズに期間限定で入団している。

 だが、メジャーを取材する記者は、女性トラブルから出場停止処分を受けたこともあるバウアーについて、
「メジャーの球団が獲得する可能性は低い。そうなるとシーズン途中に日本球界でプレーが現実的な選択肢となります。条件面がネックとなりますが、資金力で言えばソフトバンクが最も有利です」
と分析する。

 4年ぶりのV奪還を目指すソフトバンクが、筒香、バウアーを両獲りするような展開があるのだろうか。
(今川秀悟)