安田大サーカスのクロちゃん(写真:本人提供)

 安田大サーカスのクロちゃんが、気になるトピックについて"真実"のみを語る連載「死ぬ前に話しておきたい恋の話」。今回のテーマは「独立」。ここ最近、タレントの独立のニュースが話題となっているが、クロちゃんは「ボクにとって独立はリスクしかない」と語る。その言葉の裏には、松竹芸能への特別な思いが隠されていた。クロちゃんが芸人の独立について思うこと、そして自身が独立しない理由とは?

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 毎年、この時期になると、タレントの独立に関するニュースを目にする機会がすごく多いよね。ボクの感覚だと、年々増えているような気がする。

 少し昔であれば、独立ってタレントにとってはマイナス要素のほうが多かったよね。大手の事務所を離れたりすると、仕事が減ってしまうみたいなことはあっただろうし、世間からも「事務所ともめたんじゃないか」「なんか悪いことしたんじゃないか」って、変に詮索されてしまうことも少なくなかった。

 もちろん、今でもそういうケースはあるのだろうけど、時代の移り変わりとともに、事務所の対応も世間の見方も少しずつ変わりはじめているんじゃないかな。だって、芸能界かどうかにかかわらず、いまや会社や団体に属さず、フリーで働いている人や起業する人なんて決してめずらしいことじゃないからね。仕事の増減に関しても、なかやまきんに君さんのように、独立後にブレークするケースも出てきているし。

 そもそもタレントって、事務所に所属していたとしても、そこの社員ってわけじゃないんだから、個人事業主っていう点では、独立してもしなくても一緒。結局どちらもバクチみたいなものなんだよね。

 だから、ある程度、個人やグループだけの力でやっていける算段がついたら、独立を考える人がいてもなんら不思議じゃない。事務所に所属していたら挑戦するのは難しかったであろう仕事に幅広くチャレンジしたいとか、逆にもっと仕事の幅を狭めたいとか、目的もそれぞれだと思うし。たとえタレントであっても、今後自分が描きたいキャリアによって、好きに選べる時代になってきたっていうのはとても良いことだよね。

 ただ、もちろん、事務所に所属していることでのメリットもたくさんある。スケジュール管理、ギャラの交渉、細かい事務手続き、仕事のオファーをくれた企業がはたして信用できるのかどうかのチェックとか、一つの仕事が決まるまでには大変な作業がいろいろある。それらをすべて担ってくれるのは、タレントにとってはほんと心強い。

 ギャラの交渉なんて、絶対難しいと思うんだ。ボクには、タレントのギャラの相場がどれくらいなんて全然分からないし。というか、そんなの知っているタレントのほうがきっと少ない。だから、いざ、独立して自分がそういう交渉の席についても、うまく伝えられる人ってごくわずかなはず。しかも、相手はそういう交渉を何度もやっているプロだったりもするから、ギャラ交渉の初心者であるタレントが勝てるわけがない。

 奇跡的にうまく交渉が進んだとしても、そういうお金の話って嫌な印象としてすぐに周囲に伝わっちゃう気がするし。相手が納得するような絶妙なラインをつかないと、結果的に「二度目のオファーがこない」などの失敗につながる可能性のほうが高い。きっと、ボクだったら、法外なギャラを要求してしまったりして痛い目を見るだろうな(笑)。

 もちろん、ギャラ交渉だけじゃなくて、そのほか、いろんな請求書やら税金やら、お金にまつわるいろんな書類にも目を通さないといけないんだから、独立ってほんと頭が痛くなるね。

 ここまで読んでくれたらだいたいお分かりだろうけど、ボクには独立なんて絶対できない。そもそもボクは引っ越しすらも一人でできないんだから、そんな人間ができるわけがないよね(笑)。

 独立すると、自分で仕事を取りに行けなきゃいけないケースもあるだろうけど、きっとボクの性格上、そういうのは面倒くさいから絶対後回しにしちゃう。仕事相手とのメールや電話も、最初は頑張るだろうけど、そのうちだんだんおろそかになるのも目に見えている。メールとか一斉送信を多様しすぎて、宛名などをいつかは絶対ミスするだろうな。あー、ボクには無理無理。

 まあ、それに、ボクの場合、事務所である松竹芸能に不満があるわけじゃないから、独立する理由がそもそもないんだ。マネージャーとも、もう10年以上の付き合いだし、仕事に関してもすごく信頼している。何でも気兼ねなく話せる関係性だから、ダメ出しもしてくれるし、ボクもそれを素直に受け入れることができる。そんな存在の人に、また出会えるかっていったら、なかなか難しいのも分かっているからね。

 東銀座にある松竹芸能の事務所の雰囲気も、ボクはけっこう好き。もう24年も在籍しているんだから、知っている社員さんも当然多いし、打ち合わせなどでたまに足を運ぶと、いろんな人が話しかけてくれるのもうれしい。社長に「キャバクラいきたいんで、お小遣いくださいよー」とかって気軽に絡んだりしても、全然怒られないし。

 ちょっと小恥ずかしい話だけど、ボクにとってもう松竹芸能は、家族や実家みたいな存在になっているのかもしれない。家族なんだから、たまに嫌だなって思うことはあるよ? でも家族ってそういうものだからね。良いところもあるし悪いところもある。そんなのを全部ひっくるめて、ボクにとって松竹芸能はとても居心地の良い場所なんだ。

 そんな環境を手放すなんて、ボクにとってはリスクしかない。正直、松竹芸能を離れようと思ったことなんて一度もないからね。この先、考えることも多分ないと思うよ。

 ただし……大谷翔平くんのような「10年1000億」の契約がふってきたら、たぶん辞める(笑)。もう即決。どんな事務所であってもゴリゴリに移籍するよ。退社会見などがもしあったら「松竹芸能は優しくボクの背中を押してくれました」とかって勝手に適当なことを言って締めるかも(笑)。「松竹芸能は家族だから」とかって調子のいいことを言っておいて、こんな対応していたら怒られるね(笑)。

 松竹芸人として、これからも頑張るしん!

(構成/AERA dot.編集部・岡本直也)