今季がプロ入り3年目となる阪神・森木大智

 ここ数年、日本球界のエースと言える存在だったのはやはり山本由伸(ドジャース)だろう。昨年までは3年連続で沢村賞とMVPを受賞し、チームのパ・リーグ三連覇にも大きく貢献している。また山本に限らず絶対的なエースとなり、メジャーに移籍した選手は圧倒的に高卒の選手が多く、今シーズンメジャーでプレーしている日本人投手を見ても高卒ではないのは今永昇太(カブス)だけである。

 高卒の選手と言えば数年間は二軍で体力をつけてから一軍に昇格するというイメージが強いが、エース格になるような選手に共通しているのは一軍の戦力になるまでの期間が短いということだ。現役の主な投手がブレイクするまでに要した年数と、その年の成績をまとめてみると以下のようになっている(所属は当時)。

・ダルビッシュ有(日本ハム・2年目):25試合12勝5敗 防御率2.89
・涌井秀章(西武・2年目):26試合12勝8敗 防御率3.24
・田中将大(楽天・1年目):28試合11勝7敗 防御率3.82
・前田健太(広島・2年目):19試合9勝2敗 防御率3.20
・藤浪晋太郎(阪神・1年目):24試合10勝6敗 防御率2.75
・大谷翔平(日本ハム・2年目):24試合11勝4敗 防御率2.61
・千賀滉大(ソフトバンク・3年目):51試合1勝4敗1セーブ17ホールド 防御率2.40
・山本由伸(オリックス・2年目):54試合4勝2敗1セーブ32ホールド 防御率2.89
・戸郷翔征(巨人・2年目):19試合9勝6敗 防御率2.76
・宮城大弥(オリックス・2年目):23試合13勝4敗 防御率2.51
・佐々木朗希(ロッテ・3年目):20試合9勝4敗 防御率2.02

 田中や藤浪のように1年目からいきなり二桁勝利をマークするという例は珍しいが、大半の投手が3年目以内に一軍で一流と呼べる結果を残していることがよく分かるだろう。まだ今シーズンは少し苦しいスタートとなったものの、山下舜平大(オリックス)も3年目の昨年ブレイクしている。

 その要因としてはやはり高校時代の完成度の高さが考えられる。ここで挙げた11人の投手のうち千賀、山本、戸郷を除く8人は1位(高校生ドラフト1巡目を含む)指名であり、プロからの評価が元々高かった選手と言えるのだ。ダルビッシュ、前田、大谷、佐々木などは体力的な面には不安があったものの、高校時代から投手としてのセンスはずば抜けたものがあったことは間違いない。

 もう一つの要因は、やはりプロの高いレベルに合わせて自身も急成長したという点である。特に育成出身の千賀や支配下の最下位指名だった戸郷などはその例にピッタリ当てはまる。千賀は全く無名で、戸郷は肘を使わない独特の腕の振りが懸念点となって順位は低かったが、わずか数年でチームの中心選手となっている。彼らのような素材を見抜くことは難しいが、一定数はこのような“大当たり”が潜んでいることは確かだろう。また戸郷は最初から先発だったものの、千賀と山本は一軍のキャリアはリリーフからスタートしており、下位指名の選手が短いイニングで自信をつけて先発に転向するというのも一つのルートと言える。ちなみに平良海馬(西武)も4位指名で入団し、3年目には33ホールドをマークするブレイクを見せ、6年目の昨年から先発転向となった。

 では逆にブレイクが遅くてもエースとなった高卒選手は存在しているのだろうか。数少ない例としては菊池雄星(ブルージェイズ)が挙げられる。6球団競合という目玉として西武に入団したものの1年目は故障とフォーム改造の失敗で二軍暮らしが続き、2年目と3年目もともに4勝という成績に終わっている。4年目にようやく9勝をマークしたが、その後の2年は成績が伸びず、初の二桁勝利は7年目だった。

 菊池と少し近い感じでエースとなりつつあるのが西武の後輩である今井達也だ。1年目は故障で一軍登板がなく、2年目に5勝、3年目に7勝をマークしたものの、なかなか殻を破れず、昨シーズン7年目にして初の二桁勝利にようやく到達した。今年はここまで4試合に先発して2勝0敗、防御率0.64と圧倒的な成績を残しており、覚醒を予感させている。菊池と同様に一気にエースとなることも期待できそうだ。

 ちなみに今年がプロ3年目となる高卒の投手で、支配下での指名でプロ入りした選手は全部で16人いるが、一軍で勝利をマークしている選手は1人もいない。ただそんな中で育成ドラフト出身の福島蓮(日本ハム)が4月17日のソフトバンク戦でプロ初登板、初先発を果たし、勝ち星こそつかなかったものの5回を2失点と好投を見せている。福島の活躍は他の同期入団の投手にも刺激になったのではないだろうか。

 何が何でも3年目までに結果を残さなければならないというわけではないが、近年の例を見ても3年目の高卒投手は今年が重要なシーズンであることは間違いないだろう。福島以外にも、ここからブレイクの兆しを見せる選手が出てくることを期待したい。

※今年高卒3年目の支配下指名で入団した選手
小園健太(DeNA1位)
風間球打(ソフトバンク1位)
達孝太(日本ハム1位)
森木大智(阪神1位)
木村大成(ソフトバンク3位)
羽田慎之介(西武4位)
石田隼都(巨人4位)
泰勝利(楽天4位)
秋山正雲(ロッテ4位)
竹山日向(ヤクルト5位)
黒田将矢(西武5位)
畔柳亨丞(日本ハム5位)
深沢鳳介(DeNA5位)
代木大和(巨人6位)
花田侑樹(巨人7位)
松浦慶斗(日本ハム7位)


西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。