“ややこしいプレー”に巻き込まれたソフトバンク・今宮健太

 野球のルールは、ある程度理解しているつもりでも、時には「えっ、そんなのがあるの?」と目を白黒させられることも少なくない。これまでに実際にあった珍プレーの中から、改めて「野球のルールは難しい」と実感させられたエピソードを紹介する。

 打者と投手の両方がルール違反を犯した場合は、どうなるのか?

 そんな疑問を解き明かしてくれるシーンが見られたのが、2020年9月23日のソフトバンク対オリックスだ。

 0対9とリードされたソフトバンクは5回に甲斐拓也と川島慶三の安打で2死一、二塁のチャンスをつくるが、次打者・グラシアルはカウント1‐1から田嶋大樹の3球目をファウルして、1-2と追い込まれてしまう。

 すると、グラシアルは田嶋が4球目を投げようとしているにもかかわらず、突然右手を挙げてタイムをかけ、打撃姿勢をやめた。田嶋の間合いの長さを嫌ったようだが、このようなケースでは、目にゴミが入るなどのアクシデントがあっても、ルール上、タイムは認められない(野球規則5.04b・2)。

 ところが、これを見た田嶋もうっかりグラシアルにつられ、投球を中断してシャドーピッチングのような動作をしてしまう。この場合、当然ボークになる。柳田昌夫一塁塁審がボークを宣告し、2人の走者も進塁しかけた。

 だが、森健次郎球審は「打者が打撃姿勢をやめたので、投球を中断した。双方がルール違反を犯しているので、元に戻して再開します」と場内説明。2人の走者は元の塁に戻され、カウント1-2から試合再開となった。

 グラシアルのタイムが認められていないのだから、田嶋はそのまま投球すれば良かったのだが、ボークを取られた結果、“過失相殺”でノーカウントになったという次第。森球審の“名裁き”といったところだが、野球のルールは本当に奥が深い。

 内野ゴロを処理した直後、ボールがグラブに挟まって抜けなくなった。そこで、仕方なくグラブごと一塁にトスしたが、これはルール上、許されるのだろうか?

 そんな疑問に対する答えが明らかになったのが、12年10月18日のセ・リーグCSファイナルステージ、巨人対中日の第2戦だった。

 巨人の先発・ホールトンは1回、先頭の大島公平を投ゴロに打ち取ったが、ボールがグラブの網の部分に引っ掛かり、なかなか抜けない。このままでは内野安打になってしまう。

 そこで、ホールトンは一か八かでグラブごと一塁手の亀井善行目がけて、「エイヤーッ!」と放り投げた。

 タイミングはアウトだったが、橘高淳一塁塁審は「セーフ!」をコールした。

 その理由は、亀井が投げつけられたグラブを脇の下に抱える形になったため、「正規の捕球」と見なされなかったのだ。

「野手が、インフライトの打球、投球または送球を、手またはグラブでしっかりと受け止め、かつそれを確実につかむ行為であって、帽子、プロテクター、ユニフォームのポケットまたは他の部分で受け止めた場合は捕球とはならない」(野球規則2.15)。

 もし亀井が手、またはグラブでしっかりキャッチしていれば、判定はアウトになっていたはずだ。

 ちなみに15年6月7日のDeNA対西武でも、3回にDeNA・飛雄馬の一、二塁間の打球を処理したメヒアが同様のシチュエーションからファーストミットごとトスしたが、一塁ベース手前でボールとミットが空中分解。こぼれ落ちたボールは本塁方向に転がっていったため、セーフになった。

 また、13年7月24日のヤクルト対阪神では、2回1死、西岡剛の投ゴロを処理したヤクルト・八木亮祐がグラブごと一塁に送球したところ、畠山和洋がグラブの中のボールを右手で掴むようにしてキャッチ。見事アウトを成立させている。

 ルールでは認められていても、実際に成功させるのは、なかなか難しいようだ。

 振り逃げというと、空振り三振に倒れた打者のみに適用されると思われがちだが、実はさにあらず。

 21年4月11日の楽天対ソフトバンクでは、思わずビックリの見逃し三振による振り逃げが成立しかける珍事が起きた。

 1対0とリードしたソフトバンクは6回、先頭の今宮健太がカウント0-2から早川隆久の3球目、140キロ直球を見逃し。柳田昌夫球審は三振をコールした。

 ところが、このボールを捕手の太田光がポロリと落球したことから、話がややこしくなった。

 ボールの行方を完全に見失い、足元付近をキョロキョロ見回す太田を尻目に、今宮は一塁に向かってスタコラサッサ。前代未聞(?)の珍振り逃げが成立するかに思われた。

 だが、ボールが三塁線を転がっていることに気づいた早川が素早くマウンドを降り、猛ダッシュで拾い上げると、すぐさま一塁に送球し、今宮をアウトにした。

  野球規則にも「(A)走者が一塁にいないとき、(B)走者が一塁にいても2アウトのとき、捕手が第3ストライクと宣告された投球を捕らえなかった場合、打者は走者となる」(6.09b)とあり、見逃し三振でも捕手がボールを捕球できなかった場合は、振り逃げが成立することがわかる。

 たとえ見逃し三振に倒れても、何があるかわからないので、打者は後方確認が必要?(文・久保田龍雄)