精神科医の藤野智哉さん

 会社での転職や異動、はたまた育休復帰や引越しなど、春は何かと環境に変化が生じる時期だ。「早く慣れて、仕事を覚えなきゃ」「仕事も育児もちゃんと両立しないと」「まわりに迷惑かけないように」……とがんばっている人も多いだろう。だが、新しい環境にすぐ適応しようとして無理をしすぎると、心身ともに疲れてしまう。そうなる前にうまくやるコツはあるだろうか。テレビやSNSで人気の精神科医・藤野智哉さんが提示する「たった一つのこと」とは? <藤野智哉氏『「そのままの自分」で生きてみる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)から一部を抜粋、再編集しています>

*  *  *

「変わらなきゃ」「このままじゃダメ」「できるようにならないと」というように、「変わりたい気持ち」を話される人は多いです。

「ミスして職場の人に迷惑をかけてしまった。早くきちんと仕事を覚えて、できるようにならないと」
「またイライラして子どもに怒ってしまった。こんなママじゃダメ。子どものためにもしっかりしなきゃ」
「ちゃんと今の職場に慣れないと。もっとがんばろう」

 このように話して、「だから変わりたい」と言ったりしがちです。

 けれども、「変わりたい」ときって、実は、たいていよくない状況にいて、「つらい」「しんどい」と感じるときだったりします。

 たとえば仕事でミスして落ち込んでるときだったり、つい誰かと比べて「自分はできてない……」と凹んでるときだったり、人間関係でうまくいかないことがあって悩んでいるときだったりするのです。

 あるいは、友人から「そんなことでいいの?」と批判されたり、まわりの人の行動を見て、「私もちゃんとしないと」なんて思ったりするときだったりします。

 新しい環境で生活するようになって、慣れよう、しっかりやろうとあせっているときなどもそうかもしれませんね。

■ごろんと横になってみる

 だから、「変わらなきゃ」「このままじゃダメ」となっています。「成長しなきゃ」「がんばらないと」と言いながら、無理して自分をすりへらしちゃってないですか? 「成長する」のも「がんばる」のも大切ですが、でもね、無理して自分をすりへらしてしまったらもったいない。

 いちばん大切なのは「自分」です。

「変わらなきゃ」「このままじゃダメ」「できるようにならないと」と思ったときは、がんばったり努力したりする前にやることがあります。

 それは、自分に無理をさせてないか、自分をすりへらしてしまってないか、って自分のことを考えてあげることです。

 自分のことを気づかってあげるのです。そして、そんな自分をまずは癒す、ケアする。

 そこから始めてほしいと思います。

 もしも、「自分は変わらなきゃ、もうダメだ」みたいに思いつめてしまっているような場合は、ちょっと落ち着いてください。

 ベッドでもソファでも、ごろんと横になってみてもいいかもしれません。

 がんばりがちで疲れてしまう人には、「ちゃんとできている自分」と「ぜんぜんできていない自分」の二択で考えていたりする人も多いんですよね。

 でも、実際は、「がんばっている」「がんばっていない」の間には、果てしないグラデーションが広がっています。そんな単純に2つに分けられないものです。

 それに「家でダラダラする自分なんて許せない」と思うかもしれませんが、人にはがんばれない時期だってあるんです。

 バリバリがんばれる時期もあれば、しんどくてただただ一日をしのぐ時期もある。そのタイミングは、人それぞれなんです。

■惰性で生きる自分も認める

 しんどくなるのはあなたが弱いからじゃない。人として当たり前のこと。人生でそれぞれ時期が違うだけだから、安心して弱って、安心して休息してほしいな、なんて思います。

 がんばっても報われない努力もありますし、努力しないほうがいいパターンだってありますしね。

 あんまり自分に「がんばり」を求めすぎないであげてほしいのです。残念だけど僕らは「普通の人」なんです。何も完璧にはできないし、すべては手に入れられません。完璧じゃない自分を受け入れてからが人生本番です。できないことも助けてもらうこともたくさんあるんです。

 だって僕らはスーパーマンじゃないんですから。

 僕はよく「人生の主役は自分だ」って言うんですけど、主役だからといってスーパーヒーローを目指さないでください。

 弱くていいし、かっこ悪くていいし、がんばれなくていい。時には惰性で生きる自分も認めてあげてください。そんな自分を認めることで見える景色は変わります。そこから変わっていけることもあると思います。

 まずは、

「変わらなくても、生きていける」
「惰性で生きたっていい」
「がんばるだけが人生じゃない」

 そんなことに気づいてほしいなと思います。