日本は諸外国に比べて女性議員が少なく、女性議員比率は世界で166位(衆院、2022年末)と「ジェンダー・ギャップ指数」が著しく低い。そんななか、衆院東京15区(江東区)の補欠選挙には、4人の女性が立候補(全9人)した。選挙戦も後半戦。それぞれの陣営をまわり、候補者の考えなどを聞いた。
「蓮舫さんや私も最初はこんな感じだったんです。酒井菜摘も大丈夫ですので、一緒に頑張ります」
告示日の4月16日。立憲民主党の酒井菜摘(なつみ)氏の応援に駆けつけた辻元清美参院議員がそう力強く話すと、集まった聴衆からは笑いが起きた。
■「帰れコール」にもかまわず
そのときは順調な滑り出しに見えたが、後半戦に入った23日。筆者が午後6時ごろ、東陽町で酒井氏の街頭演説の取材をしていたところ、突然、諸派の根本良輔氏が乗った街宣車が現れ、マイクを片手に大音量で声を上げながら、立憲の選挙カーの後方に車を止めた。
根本氏が車を降り、人混みをかき分けて酒井氏に近づこうとしたため、立憲陣営の複数のスタッフが止めに入った。聴衆からは「あんたの話を聞きに来たんじゃない」「警察を呼べ」などの声が上がり、現場は騒然としたが、根本氏は「これ、規制する法律ないですよ。ちゃんと警察官と連携とってやっているんです」などとまくしたてた。
聴衆からは「帰れコール」が起きたが、根本氏はかまわずがなり立てたため、ついには立憲陣営から「本人の街頭演説会は中止とさせていただきます。誠に申し訳ありません」とアナウンスがあり、酒井氏は車に乗り込み、走り去った。
根本氏のこうした動きについては、他の陣営でも話題になっていた。
■「あと一歩」の位置に
その後、門前仲町駅前の交差点に向かうと、日本維新の会から立候補した金沢結衣(ゆい)氏の陣営が街頭活動をしていた。
維新のスタッフは、
「(根本氏陣営からの)『襲撃』がひどくて。私たちの選挙カーについてきて、ワーワー言ってくる。今日もカーチェイスしました。後ろからずーっとついてくるので。あおり運転に近いくらいです」
とここでも根本氏陣営の話が出ていた。
元江崎グリコ社員という経歴の金沢氏。トレードマークの白のスーツを着て、交差点の歩道で丸いビラを通行人に手渡していた。記者も金沢氏から1枚受け取った。
記者が「これは、うちわではないですか?」と質問すると、そばにいたスタッフは「違います。円形ビラです」。金沢氏本人は「穴が開いていたらウチワ」と笑顔で答えた。確かに、円形ビラには穴は開いていなかったが、自分で穴を開けさえすればウチワに早変わりしそうな形ではある。
金沢氏はこの日、選挙カーの上に立ち、
「現在、9人の候補者の中で(情勢調査では)2位。1位は“立憲・共産党”。あと一歩のところまで追いついています。いつも自民党だったけど、じゃあ立憲民主党でいいやではダメです。よく見てください。立憲・共産党いままで何をやってきたか。それぞれの候補がどんな政策を掲げているか、しっかりと見ていただきたいんです。あなたの力が必要なんです」
と語りかけた。そして、安全保障について立憲や共産との考え方の違いを述べ、
「私、金沢結衣は自衛隊の憲法9条明記を掲げております」
と強調した。経済については、
「消費税の減税と社会保険料の減額を行って、みなさまからお金を取らない。みなさまの手元で使えるお金を増やしていく。こういった税金の抜本的な改革が必要であります。これらの改革を推し進めることができるのは、しがらみがないからです」
などと主張した。
■主婦目線で政策に
翌24日、参政党の吉川りな氏は、雨の中、傘を差して街頭演説をしていた。看護師をしながら3人の子育てをしているという。
演説後に直撃し、まず日本のジェンダーギャップや子育て政策について聞くと、
「欧米では女性議員がたくさんいます。アメリカでは私と同じような看護師だとか、お母さんの議員が多く誕生しています。私は普通の主婦ですので、普通のみなさんと同じ感覚の声を主婦目線で訴えて、子どもたちを思う気持ちを国政に届けたい。子育て対策が機能していないので、国民が求める支援策を訴えていきたい」
と話した。学校教育についても、
「日本人としての当事者意識を持つ国民性をもう一度、取り戻して、戦後レジームの過去の古い歴史教育ではなくて、正しい歴史教育をもう一度、学び直すこと。本当の歴史を教えて、自分たちが地域を支える一人、国を支える一人であるという当事者意識を持つことを教えていき、人づくりをもう一回、頑張っていかないと思っています」
と述べた。
立憲の酒井氏のときにあった根本氏の妨害については以前からあったといい、
「今も来ますよ。だけど、スルーするんですよ。相手しちゃダメなんですよ」
とのこと。
■区議の経験生かす
25日、亀戸駅前で開かれていた立憲の酒井氏の街頭演説会に顔を出すと、2日前のような根本氏の妨害が入ることなく順調に進んでいた。
酒井氏は、
「私は困ったときに役に立つのが政治であると信じてこれまでやってまいりました。私自身はがんの闘病を経験し、経済的に苦しい思いをしました」
とがん治療を乗り越えて母になった話をしながら、
「江東区議のときから女性や子ども、障害のある方、困難を抱えている方の声をたくさん耳にしました。それを政策に落とし込んで実現をする。そのプロセスやスキルはしっかりと学べたと思っています。だからこそ、国政でまっとうな政治を実現する。みなさんが困った時に役に立つのが政治です。それをみなさんに実感いただける社会を作りたいんです」
と訴えた。
酒井氏は看護師、助産師の仕事をした後、江東区議を2期務めた。酒井氏を応援する江東区議の男性は、
「酒井さんは区議会の中で女性の権利を主張してきました。今、この日本でも65歳以上の一人暮らしの女性は約4割が貧困状態にあるんです。酒井さんは女性の貧困、女性の権利について一生懸命やってまいりました。女性、子ども、障害のある方々、そういった立場の弱い方々に対して支援をする。それが酒井さんの言うまっとうな政治です」
と語り、女性議員の誕生に期待を込めた。
■「保守というのはかっこいい」
翌26日、門前仲町駅前で、選挙カーの上で声を上げていたのは、日本保守党の飯山陽(あかり)氏だった。イスラム思想研究者という飯山氏の脇を、党代表で作家の百田尚樹氏らが固める。100人くらいの聴衆が熱心に見守るなか、飯山氏がこう話し始めた。
「みなさん、私の応援演説にやって来てくださる方はみんなメチャメチャかっこいい。イケオジですね。みんなかっこいいでしょう。うちの百田代表だって、なかなかのイケメンじゃありませんか。結構シュッとして、みなさん、いいでしょう?」
百田代表が黒い帽子を取って笑うと、聴衆からは拍手が起こった。
「なんで、かっこいいかわかりますか。保守だからなんです。きょう、中学2年生の女の子2人が私の話を聞いてくれた。その子たちに『あなたたち、家族を守る男と捨てる男、どっちの男がかっこいいですか』と聞きました。そしたら、2人の女の子はこう言いましたよ。『守る男だ』と。家族を守る人間。国を守る人間。こっちの方がかっこいいんですよ。保守というのはものすごくかっこいいと思いませんか」
飯山氏はそう話し、こう続けた。
「大事なものを守るという生き方はすごくかっこいいもの。だから人の心を打つんだと思います。今回、東京15区で立候補しているのは9人います。私以外、みんな保守ではありません。あの人たちは守る人たちではない。家を、国家を、壊す人たちだと思います。日本の国会には保守の政党がない。そして、保守の政治家が一人もいないんです。しかし、私たちは本当の保守です」
そして、やはり街頭演説の際には妨害にあっているという。
「きょう、例の連中に妨害されて、何回も何回も、私たちつけ回されて、何回も街宣のチャンスを逃しました。きょうの大事な数時間、無駄にしましたよ」
「四者四様」の選挙戦。投票は4月28日に行われる。
(AERA dot.編集部・上田耕司)
■衆院東京15区補選の候補者
福永活也 43 N国・新顔
乙武洋匡 48 無所属・新顔
吉川里奈 36 参政・新顔
秋元 司 52 無所属・前職
金沢結衣 33 維新・新顔
根本良輔 29 諸派・新顔
酒井菜摘 37 立憲・新顔
飯山 陽 48 諸派・新顔
須藤元気 46 無所属・新顔