大活躍で日本人投手の評価を上げている今永昇太(USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

ドジャースに移籍した大谷翔平が話題のメジャーリーグで、強烈なインパクトを与えている日本人投手がいる。DeNAからポスティング・システムでカブスに移籍した左腕・今永昇太だ。

 4月26日(現地時間)のレッドソックス戦では7回途中まで5安打1失点、7奪三振の快投で4勝目をマークした。いまだ負け知らずで、防御率は0.98(記録は4月30日現在)。

 メジャーを取材するスポーツ紙記者は、こう証言する。

「今永は熱狂的で知られるカブスファンの心をがっちりつかんでいます。地元メディアは『イマナガを獲得できたことは最大のファインプレー。彼はエースになれる』と絶賛しています」

 今永の直球の平均球速は140キロ台後半だが、27回2/3で28奪三振、奪三振率9.11をマークしている。ストライクゾーンに直球をどんどん投げ込むと、打者のバットが空を切る。昨季、DeNAで自身初の最多奪三振のタイトルを獲得したが、その投球は米国でも十分に通用している。

■剛速球がなくてもメジャーで通用する

 メジャーを取材する通信員はこう分析する。

「直球の質が非常に良いことが活躍のポイントだと思います。MLBが公表しているデータ解析システムのスタットキャストによると、今永の直球の平均回転数は2400を超えている。これは昨年の大谷翔平の直球の平均回転数2260を上回ります。この数値が高いほど、初速と終速の差がないため、打者からは球が伸びて浮き上がるように見える。直球の質が良いことに加え、制球力が抜群に良いことも大きな強みです。今永は捕手が要求する高さ、コースにきっちり投げられる。特に、メジャーではフライボール革命で長打力を重視してアッパースイングの打者が多い中で、高めの直球が効果的です。打者の視線が上がることで、チェンジアップ、スライダーも効果的に使えます。剛速球がなくても、球質と制球力を磨けばメジャーに通用する。この投球スタイルは他の投手も参考になる部分が多いと思います」

「大谷翔平を超える逸材」とも評価される佐々木朗希

 オリックスの絶対的エースとして活躍し、昨オフにポスティング・システムでドジャースに移籍した山本由伸も、日本で投手タイトルを総ナメにしてきた本来の姿を取り戻しつつある。メジャー初登板となった3月21日のパドレス戦では1回5失点KOを喫したが、その後の5試合の登板では5イニング以上を投げ切り、防御率3.54まで改善した。

■“右腕”に多い注目選手

 昨年のWBCでは日本の強力な投手陣が世界一の原動力になった。現在、メジャーのスカウトや編成担当が、NPBの試合を視察する姿が日常の風景になっている。「次の今永を探せ」とばかり、バックネット裏から熱視線を送っているのは各球団の主力投手たちだ。メジャーが注目するのは、どの選手だろうか。

 今永は左腕だが、これまでの日本人メジャーリーガーを振り返ると、右腕の活躍が目立つ。メジャー挑戦の道を切り拓いた野茂英雄を筆頭に、黒田博樹、上原浩治、岩隈久志、田中将大、ダルビッシュ有……。
 左腕が相対的に少ないことも影響しているかもしれないが、阪神のエースとして活躍した井川慶はメジャー通算2勝に終わり、ソフトバンクで最多勝のタイトルを取って渡米した和田毅も相次ぐ故障に見舞われ、メジャーでは通算5勝に終わった。現役左腕ではブルージェイズの菊池雄星がいるが、メジャー5年間で2ケタ勝利は昨季のみ。150キロを超える直球がいとも簡単にはじき返される光景は日本ではあまり見られなかった。

 だからということでもないだろうが、メジャーが注目する日本人投手には右腕が多い。
 選手の代理人を務める関係者は、昨年12月のウインターミーティングに参加。NPBの日本人投手で最も注目度が高かったのは佐々木朗希(ロッテ)だったという。

「直球の平均球速が160キロ近くで、140キロを超えるスライダーとフォークを操る。こんな投手はメジャーでもなかなかいない。米国メディアでは『大谷翔平を超える逸材』と評価されています。今年は三振をなかなか取れていないが、長いイニングを投げ切るために色々模索している部分があると思う。まだ開幕して1カ月だし、これからどんどん良くなるでしょう」

 佐々木は昨オフにポスティング・システムによるメジャー挑戦の可能性が報じられたが、ポスティングは球団の理解を得る必要がある。佐々木は史上最年少の完全試合や13者連続奪三振のプロ野球記録など、投手としての能力は申し分ないが、ここまで規定投球回数に到達したシーズンが1度もなく、2ケタ勝利を挙げた実績もない。山本、今永はエースとしてチームに長年貢献したことでメジャー挑戦の夢を実現している。佐々木も海の向こうで躍動するのは、日本球界で確固たる実績を築いてからになるだろう。

頑丈な体も評価される平良海馬

■メジャーですぐに通用する

 米東海岸のメジャー関係者は、「最も完成度が高い投手」として、平良海馬(西武)の名を挙げる。

「非常にクレバー。きっちり投げ分ける制球力があるし、変化球が多彩で質も高い。メジャーですぐにでも通用する。リリーバーを務めていた時から肘や肩のケガがなく、体が頑丈なことも魅力です。イニングイーターとして計算できるし、個人的には1年稼働した経験がない佐々木朗希より欲しいですね」

 この関係者は、ほかにも注目する投手の名前を挙げた。

西武の高橋光成

「高橋光成(西武)、戸郷翔征(巨人)も直球の力強さが年々上がっている。馬力もあるので先発で計算ができます。若手で楽しみなのは高橋宏斗(中日)、山下舜平大(オリックス)、宮城大弥(オリックス)。今年は思い描いた活躍ができていないが、潜在能力の高さは球界トップクラス。球界のエースになれる逸材です。あと、北山亘基(日本ハム)も興味深い。制球力を磨けばさらに進化する。山本由伸みたいに投手タイトルを独占しても不思議ではない投手です」

    巨人の戸郷翔征
       オリックスの宮城大弥

 日本ハムの北山亘基

 日本球界からメジャーを夢見る選手が増えているのも事実だ。名前が挙がった佐々木、高橋光、平良のほか、田口麗斗や高橋奎二(ヤクルト)、大関友久(ソフトバンク)が将来のメジャー挑戦を目指していることがメディアで報じられた。

 ただし、スポーツ紙デスクは「日本で結果を残していない選手が輝けるほど、メジャーは甘い世界ではない」とくぎを刺す。

「今はソフトバンクの大黒柱である有原航平がメジャーでは通算3勝のみに終わったように、日本のトップクラスの投手でも通用しなかった現実があります。WBCのメンバーに選出された高橋奎二は確かに素晴らしい才能を持っていますが、22年の8勝が自己最多で、昨年は4勝9敗と負け越し、今年も制球が不安定で1勝のみとファームで調整しています。将来的な夢としてメジャー挑戦を掲げるのは良いと思いますが、先発ならNPBで規定投球回到達、2ケタ勝利を複数年でクリアしないと通用しないでしょう」

 日本の選手たちがメジャーで活躍する姿を見るのはうれしいが、日本球界がメジャーの草刈り場になってしまう懸念もある。ファンの理解を得るためにも、まずはチームで結果を残すことが求められる。

(今川秀悟)