カブス・今永昇太

 今季のメジャーリーグの話題と言えば、オフに10年総額7億ドル(約1084億1000万円)でドジャース入りした大谷翔平だが、負けじと活躍している日本人プレイヤーがいる。今季からカブスでプレーする左腕の今永昇太(前DeNA)だ。

 契約額は4年総額5300万ドル(約82億1000万円)と、同じく今シーズンから海を渡った山本由伸(ドジャース)が結んだ12年総額3億2500万ドル(約503億3000万円)には遠く及ばないが、シーズン開幕からのパフォーマンスは山本を上回っていると言ってもいいだろう。

 ここまで8試合に先発登板して、防御率0.96はメジャー全体でもトップ。勝利数(5)は同5位タイ、四球率(1.54)は同11位、WHIP(0.94)は同8位など、メジャートップクラスの数字を残している。

 特に現地で注目されているのは平均92マイル(約148キロ)ながら相手打者を抑え込むストレートだ。

 現地5月7日にはメジャーリーグ公式サイト『MLB.com』も「どのように92マイルのストレートが最も価値のあるものになったのか」という今永の特集記事を掲載。今永のストレートが失点を防ぐ割合(runs prevented)がメジャー屈指であることに触れつつ、強打者揃いのリーグで素晴らしいパフォーマンスを披露できている理由を2つ挙げている。

 1つはライジングボール(球の浮き上がる角度)がリーグトップクラスであること、2つ目としては左投手としてはレアなスプリットの使い手であると分析。低いリリースポイントから回転の効いたストレートを高めのストライクゾーンに投げ込み、同じフォームから繰り出される回転数がストレートの半分以下である低めのスプリットのコンビネーションが打者を“幻惑”させていると評している。

 また、先発投手として優位なカウントで勝負できる割合が高く、それも2つの球種が生きる理由の一つとしている。他にも様々な角度から今永がメジャーで成功している要因を事細かに分析しているが、ストレートの平均球速が遅い部類に入るのにも関わらず打者を抑え込む今永はメジャーリーグでは不思議な存在なのだろう。

 記事の冒頭にも「2024年シーズンのメジャーリーグで最も価値のあるボールは92マイルのストレート。そんなことは無理のように感じるが、今永は球速がただの数字であることを証明している」と書いてあるように、“好奇の目”が今季からメジャーに移籍した左腕に向いているのは間違いない。

 そして、これだけの結果を残している今永の評価は当然急上昇。開幕前の先発投手を評価するランキングではトップ10に入っていなかったものの、5月9日にアップデートされたものではドジャースのタイラー・グラスノーに次ぐ4位に。「評価する人間は彼を無視できなくなった」と6位の山本よりも高い位置につけている。

 また、開幕してから1カ月半しか経っておらず早い話ではあるが、素晴らしい投球を見せていることでサイ・ヤング賞の候補としても上位に位置するようになっている。米『FOX SPORTS』のウェブサイトではナ・リーグの投手として、ザック・ウィーラー(フィリーズ)、グラスノーに次ぐ3番目のオッズとなっている。

 今季は開幕前に“大本命”とされていた昨季の最多勝&最多奪三振のスペンサー・ストライダー(ブレーブス)が右肘の手術で今季絶望となっており、混戦模様の予感もする同賞の行方。粘り強いピッチングを続けていけば、日本人初の快挙のチャンスがありそうでもある。

 また、新人王の候補としては1位に挙げているサイトが多い。公式サイトの『MLB.com』(5月7日付)、『ジ・アスレチック』(5月10日付)、『ニューヨーク・ポスト』(5月3日付け)などがトップの評価。いずれも山本よりも上の候補となっている。

 米国の掲示板サイト『Reddit』では現地ファンが今永の活躍について「彼をチームに迎えられたことはかなりラッキーだ」といったものや、「彼は良いスタートを切れたね。新人王やサイ・ヤング賞もあるかも」といきなりのエース級の活躍に驚きと喜びが感じ取れるコメントが多い。

 また、“投げる哲学者”と日本時代から呼ばれているようにウィットに富んだコメントも好意的に受けれいられている。7日のパドレス戦でピンチを切り抜けた際の本拠地ファンの大歓声について「歓声を受けたあの瞬間は幸せ。あと最近寝起きが悪いので、あの歓声をアラームにしたらスッキリ起きれるかなと思います」というコメントに対しては、

「ショータはMLBにとって良い存在。好投手であるのはもちろん、それ以上に素晴らしい性格をしているね」

「彼はいつも平常心を保っているよね。彼が発する言葉は常に価値のあるものだし、性格が大好きだ」

「オリオールズ以外の選手として、この男は早くも自分のお気に入りになった」

と今永も自認する“風変わりなキャラ”もファンの間で話題となっているようだ。

 どうしても日本では大谷の報道の量が多くなってしまうが、今永も現地で大きな話題となっている。これからは研究もされてくるだろうが、同時に今永自身もメジャーリーグの環境により慣れてくる。このままのピッチングを続け、シーズン終盤に日本人初のサイ・ヤング賞の候補として大谷に負けない注目を集める存在になって欲しいものだ。