日本一の真竹の産地から、竹細工の魅力を届ける
しなやかで丈夫。繊細で美しい。実用性と芸術性を兼ね備えた、竹細工。大分県では全国でも有数の竹の産地であり、「真竹(マダケ)」の生産量は日本一を誇り、良質な竹が採れたことから、古くから日用品や工芸品として親しまれてきました。なかでも別府市を中心につくられている竹製品は「別府竹細工」と呼ばれ、伝統的工芸品として経済産業大臣の指定を受けています。
そんな大分が誇る竹細工の技術で、世界初の竹のアクセサリーブランド〈MIKAI BAMBOO (ミカヰバンブー)〉を展開しているのが、麻生あかりさん。ブランド名には「未開の世界を切り拓き、新しい幸せを」という意味が込められています。
麻生さんがつくるのは、竹を使ったアクセサリーやアート作品。伝統的技法の「別府竹細工」を基本にデザインから制作まで一貫して行うのはもちろん、竹林で自ら竹を選び採取するというから驚きです。
「私の作品は竹を選ぶところから始まっています。竹は経年によって色が変化していくので、染めだけでは出せない色の深みが出るんです」
土壌は常に変化しているため、同じ竹林でも時期や環境によって硬かったり柔らかったりするそう。そのため、実際に竹林に入って、見て触って自分の目で選ぶことにこだわり、「竹は、そのままの姿が最もきれいでかっこいい」と感じるという麻生さん。だからこそ竹の傷や、いたみも愛おしく感じるそうで「傷があることを受け入れたうえでの美しさがある」といいます。
そんな麻生さんの手から生み出される作品は、どれもその想いが伝わってくるかのように存在感たっぷり。1点ずつ手づくりのため大量生産はできませんが、少しずつ表情が違う作品は「世界にひとつだけ」のもの。まずは、そんな 〈MIKAI BAMBOO〉の代表的なプロダクトをご紹介します。
竹細工の基本は多くの竹ひごを編んで立体を形成すること。しかし、こちらの〈ICHI〉は1本の竹ひごでつくられているのが特徴的。竹の持つ艶としなやかさを表現した曲面が美しいピアスです。
竹らしい質感を維持しながらも、曲線で折れないよう竹ひごの幅と厚みを計算することに苦労したという、麻生さん渾身の作品です。染色し、漆で仕上げたという色合いもポイントで、同じ編み方でも異なる色味の組み合わせによって印象が変わります。
伝統的な「箍編み(たがあみ)」を用いた〈TAGA RING〉は、竹の温もりと、細やかな編み目でつくられた曲線が美しいリングです。ナチュラルな漆の艶感が手元を美しく見せてくれます。
大分という土地の魅力と、竹細工の伝統を守りながら新しいものづくりを実現している〈MIKAI BAMBOO〉。その作品は日本のみならず、海外でも高く評価されています。
これまでに、ナガオカケンメイ氏が主催する〈D&DEPARTMENT PROJECT〉や、日本の職人が海外で活躍するためのプロジェクト〈LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 2017〉に大分県代表として選出されたほか、パリでのワークショップなど国内外で注目を集め、竹細工を通して確実に“未開の地”を切り開いています。
好きなことで食べていく。伝統技術をアップデート
数々の竹細工を生み出す麻生さんですが、実は出身は兵庫県。そんな彼女が、どのようにして大分で竹藝家を志すようになったのでしょうか?
「もともと自分で手を動かして何かを生み出すことが好きだったのですが、『手仕事でごはんを食べていくのは難しいだろうな』と思って会社員をしていたんです。でも会社員があまり向いていないと感じて退職し、一旦クールダウンしようと思ってパリに留学しました。その当時、趣味で江戸の伝統工芸『つまみ細工』を作っていたのですが、ホームステイ先の方にプレゼントしたらめちゃくちゃ喜んでくれて。ただの布切れを立体物に構築しただけの簡単なものだったのに、すごくうれしかったですね。それで『ものづくりってやっぱりいいな、一生の仕事にしたいな』と思ったのが最初です」
そこで、日本の伝統技術への関心が高かった麻生さんが辿り着いたのが、竹工芸の知識と技術を学べる、日本で唯一の公立校〈大分県立竹工芸訓練センター〉でした。
しかし、現実はそう甘くありません。入学前には「竹細工はニッチな世界で技術も高度。技術さえ身につければ職人として食べていける」と思っていましたが、職人さんの現状は麻生さんの想像とは異なるものでした。
「高い技術があっても、作品とコストのバランスが見合っておらず、正当に価値が反映されていなかったんです」
そこから自分の作品をどうマネタイズしていくかを考えた末、2016年に竹のアクセサリーブランド〈MIKAI BAMBOO〉が誕生しました。
今年で7年目を迎えた〈MIKAI BAMBOO〉。「未開の世界を切り拓き、新しい幸せを」というブランド名に込められた想いを体現すべく、現在はアクセサリーのみならずオブジェやアート作品など、幅広いかたちで竹の新しい世界を開拓しています。
ブランド立ち上げからここまでの間、「時にはプレッシャーを感じることもありました」と話す麻生さんですが、今は「シンプルに自分がつくりたいものをつくることが良いのかも」と思うようになったと、7年間の気持ちの変化を語ります。
「最初、想像していたよりも早くにいろんな方に見て頂ける機会があり、大変ありがたかったです。その分有名な作家さんの作品と同じ場所に自分の作品が並ぶことにプレッシャーを感じたというか……。でも月日を重ねて、アクセサリーでもアートでも『すごくすてき!』『こういうのが欲しかった』という感想を丁寧に伝えてくださるお客様にたくさん出会い、そういったリアルな声が積み重なって、少しずつですが自信につながっているように感じます。だから今は、自分がつくりたいものに集中すべきだなと思っているんです」
現在は、「とにかくどんどん作品をつくっていきたい」と意欲的に話す麻生さん。近い将来には、これまで考えたことがなかった個展の開催も考えているといいます。
シンプルで潔い。発想次第で無限に広がる竹細工の魅力
「とにかくどんどん作品をつくっていきたい」という麻生さんの言葉通り、工房の所々にさまざまな竹細工や、制作中の作品が飾られています。
自身の制作スタイルについて「集中してひとつの作品に取り組むよりは、並行していくつもつくるのが好きなタイプ」と分析。「この技法を使ったらどうなるかな?」「こんなことやってみたい!」と頭に浮かんだアイデアを自由に形にしていく過程でさらにアイデアが浮かび……といったかたちで作品を編んでいくことが多いといいます。
しかし、想いを形にするのは大変な作業。何百種類もある竹細工の編み方や技法から作品によって適切な技を選び抜くのです。必要な長さや幅にカットした竹は専門の刃物で不要な部分を削り落とします。この作業は「ひご取り3年」と呼ばれるほど、竹細工で重要であり、1本つくるだけでも技術と時間が必要になります。
実際に、麻生さんに制作の様子を見せてもらいました。こちらは、「網代編み(あじろあみ)」という代表的な技法。太めで平たい竹ひごを選び、縦横を交差させ、目をずらしながら丁寧に編んでいきます。
制作には時間も根気も必要ですが、必要な道具は意外にもシンプル。麻生さんも、その“潔さ”が竹細工を生業にしたいと思った理由のひとつだといいます。
「竹細工は鋸(のこ)と刃があればつくれる。極端にいうと、『刃物一本でやっていける』というところが自分の性格に合っているなと思ったんです。 例えば自分が急に江戸時代とかにタイムスリップしても、刃物一本あったら多分暮らしていけるだろうな……って」
まさに竹を割ったような、まっすぐで気持ちの良い潔さ。その一方で、「竹の持つ特性は自分の思考と相性が良いような気がします」と語ってくれました。
竹細工の伝統と技術を守りながら、新しい世界を切り開いていく〈MIKAI BAMBOO〉。ブランド名の通り、制作における麻生さんのモットーは「同じことをやり続けないこと」だといいます。
「同じことを続けることはもちろんすごいことだと思うのですが、私はひとつのことに執着せずに、視野を広くもって変わり続けていきたい。同時に、いろいろな人の仕事を見て尊重して、うまく融合させていけたら良いなと思っています」
頭の中には「やりたいことや、つくりたいものが常にある」という麻生さん。今後も竹細工を通して、私たちに新しい世界を見せてくれるに違いありません。
兵庫県生まれ。2016年に大分県竹工芸訓練センターを卒業後、〈MIKAI BAMBOO〉を立ち上げる。豊後高田の工房を拠点に、世界初の竹のアクセサリーブランドとして、日本の職人が海外で活躍するためのプロジェクト「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 2017」に大分県代表として選出されたほか、「ミラノデザインウィーク」への出展、パリでのワークショップなど国内外で注目を集めている。web:MIKAI BAMBOO Instagram|@mikaibamboo
*価格はすべて税込です。
credit text:大西マリコ photo:黒川ひろみ