仕事でもプライベートでも全国各地を駆け回っている、フリーアナウンサーの宇賀なつみさん。旅慣れた宇賀さんがおすすめする旅の楽しみ方は、その土地の調味料など現地の味を持って帰ること。

「調味料はすぐに使うので物が増える心配もないし、自宅で旅先の思い出の味を振り返られるから」と話す宇賀さんですが、今回の旅先である大分県臼杵市では、しっかり形に残る一生モノの逸品に魅了されたのでした。まずはそんな宇賀さんが惹かれた「臼杵焼」をご紹介します。

古くて新しい、幻の器「臼杵焼」を
買って、使って、つくって。

今から約200年前の江戸時代後期に臼杵市の末広地区でつくられていた焼き物「臼杵焼」。わずか十数年で一度途絶えており、伝統と呼ぶにはあまりにも短い歴史を持つ幻の器がありました。

田園の中に佇む〈うすき皿山〉の外観
のどかな自然の中に佇む、臼杵の食と器のテロワールが楽しめる〈うすき皿山〉。

実はこの器、陶芸家の宇佐美裕之さんにより2015年、現代版にリブランディングされて、「臼杵焼」として復活を果たしました。江戸時代後期につくられていたときは、その地名から「末広焼」「皿山焼」と呼ばれ、残っていた資料をもとに、現代の生活に合わせた器にアレンジして、今は10人ほどの職人により、新しく生まれ変わった臼杵焼がつくられています。

臼杵焼がずらっと並ぶ店内
玄関から見た店内の風景に期待が高まる。

まずは〈うすき皿山〉にある〈ギャラリー皿山〉からお邪魔します。

〈ギャラリー皿山〉で器をながめる宇賀さん

白を基調とした洗練された空間に、さまざまなデザインの臼杵焼がずらりと並びます。

「伝統的な器といっても、まったく渋くないというか、とてもモダンなデザインなのですね。フランスのアパルトマンにおいてあってもインテリアとして馴染みそう」(宇賀さん)

黒い臼杵焼を手にする
黒い臼杵焼はマットな釉薬(ゆうやく)を使用したことで、ぬくもりを感じます。

「器は料理の額縁」という宇佐美さんの考えに基づき、料理を彩るような輪花や稜花のデザインを採用した臼杵焼。どれも可憐な花のモチーフが印象的ですが、これらは江戸時代の資料からインスパイアされてできたといいます。

江戸時代の器の形や模様がわかる資料

大切に保管されていた江戸時代当時の器の様子がわかる貴重な資料を見せてもらいました。

江戸時代当時の皿の図案をまとめた資料

かつては絵付けされているものや、陶器でできたものなど、さまざまあったようですが、器の淵の波模様がどことなく今の臼杵焼を彷彿とさせます。

菊の花のようなデザインの皿
中央の臼杵焼は、臼杵焼の復興プロジェクト初期からあるデザイン。花弁のデザインは花びらを手作業で成形し、一点一点手づくりで仕上げます。

また、この皿山の周辺には蓮の花が咲いていることもあり、現在のデザインにも反映させているといいます。

銀彩釉で仕上げられた皿やお猪口
銀彩釉のデザインは釉薬の出方に個体差があるため、店頭のみの販売。お店で直接選べる楽しさもあります。
すべて白の臼杵焼の皿や水差し、カップなどが並ぶ
電子レンジや食洗機に対応している商品もあり、実用性が高いところも◎。ふるさと納税の返礼品としても展開しており、今注目を集めています。

そんななか、宇賀さんが手に取ったのは……

白のマグカップを手にした宇賀さん

宇賀さんが手に取ったのは、マグカップのホワイト。

「見た目はスタイリッシュなのに、手に持つとしっかりとした重みと安定感がありますね。これからの時期、この臼杵焼のマグでホットコーヒーを飲みたいです!」
しっかり形に残る逸品をお買い上げした宇賀さんなのでした。

〈皿山喫茶室〉で臼杵焼の魅力を堪能

お買い物を楽しんだら、併設されている〈皿山喫茶室〉で、小休憩を。ここでは臼杵焼のティーカップやソーサーを使ったカフェメニューを楽しめます。

〈皿山喫茶室〉で中国茶をいただく
店員さんに丁寧にお茶を淹れてもらう贅沢なひと時。

いただいたのは、蜜のように甘い香りと、とろりとした質感が特徴の中国茶〈鳳凰単叢蜜蘭香(ほうおうたんそうみつらんこう)〉(1375円)。

「このお茶の茶葉は、同一品種の木から集めた茶葉を使っているので味にまとまりがあります。一般的には、複数の木から採取した茶葉を使うことが多いのですが、それだと味にばらつきが出てしまうんですよ」と教えてもらった宇賀さん。

臼杵焼の皿にのった「カボチャのケーキ」
臼杵焼とスイーツの組み合わせも相性抜群。合わせてオーダーしたのは、臼杵産の有機カボチャを蒸してから裏ごしして練り上げた「カボチャのケーキ」(770円)。

「とてもやさしくてシンプルな味わいだから、カボチャ本来の甘みをしっかり感じられますね。濃厚なんだけど後味さっぱりで、お茶とよく合います」(宇賀さん)

お茶を味わう宇賀さん

臼杵産の食材を使った季節のスイーツを、臼杵焼の器でいただく。地域に根づく食材とものづくりに触れながら、食と器のトータルコーディネートを存分に楽しめるひと時でした。

自分だけのオリジナル臼杵焼をつくれる
〈アトリエ 皿山〉

〈アトリエ 皿山〉の内観
高い天井に大きな窓で囲まれた開放的な工房では、臼杵焼製造の見学や型打ちの体験なども可能。

ティータイムを楽しんだら、併設している工房〈アトリエ 皿山〉へ。
ここでは臼杵焼の豆皿づくり体験ができます。

11種類の豆皿の型
豆皿のデザインは全11種類の型から選べます。

選んだ型に粘土を打ちつける「型打ち」を、粘土が乾燥でひび割れないよう手早く行い、ガーゼを被せてゴムベラで圧をかけて形を整えます。

型に粘土を打ちつける作業中の宇賀さん
鼻歌を歌いながら、リラックスした雰囲気で制作を進めていく宇賀さん。

「お客さまの多くは、粘土を触り慣れていないので、力加減や扱い方がわからない様子なのですが、宇賀さんは迷いがないですね」とその手際の良さを褒める職人さん。

器の裏に「N」の判子を押す

最後の仕上げで、器の裏になつみの「N」の判子を。

型打ちが終わった豆皿を手にする

「この刻印ひとつでちゃんとしたブランドっぽくないですか?」と、その仕上がりにうれしそうです。

最後はエアーコンプレッサーで型と粘土の間に空気を入れて、型から外したら終了。
その後は釉薬を塗り、焼き上げの作業は工房の方にお任せして、1〜2か月ほどしたら完成品が送られてきます。

「普段粘土を触らないから、直接手でこねている触感が気持ちよくて癒されました。こうして一点ずつ手作業で生み出される器は、それぞれの個性も出て、特別なひと皿になりますよね」(宇賀さん)

Information
うすき皿山(ギャラリー、喫茶室、アトリエ)
address:大分県臼杵市深田816-3
tel:0972-65-3113
access:JR臼杵駅から車で約15分、大分空港から車で約80分、東九州自動車道・臼杵ICから約5分、湯布院ICから約60分
営業時間:11:30〜16:00(喫茶室は15:30 L.O.)
定休日:月・火曜
備考:駐車場あり。2023年の営業は12月22日まで。豆皿体験の詳細はホームページをご確認ください。
web:うすき皿山

〈石仏観光センター〉で臼杵の食と器の、
トータルコーディネートを楽しむ

〈石仏観光センター〉の外観

うすき皿山から道路を挟んで向かい側にある〈石仏観光センター 郷膳うさ味〉。
ここでは臼杵焼で提供する臼杵の食文化を楽しめます。

すべて臼杵焼の小鉢に盛られた12品の料理が並ぶ「季節のごはん」セット
「季節のごはん」(1980円)。「モロヘイヤの梅和え」「素麺カボチャの中華サラダ」「トマトの赤出汁」など、臼杵焼の小鉢に盛られて提供されます。

「発酵」「質素倹約」「有機農業」の3つによる固有の食文化が評価され、2021年11月、ユネスコの「食文化創造都市」に認定された臼杵市。

「季節のごはん」は、そんな臼杵産の旬の野菜を使った滋味深い味わいの品々が12種類も楽しめます。

「季節のごはん」を味わう宇賀さん

「肉や魚を使っていないのに、色とりどりで見た目が華やか。味つけも素朴なものから甘辛いものまでさまざまあるので、ご飯が進みますね」と箸が止まらないご様子。

臼杵市の食文化を、臼杵焼で堪能する、テロワール体験にどっぷりつかった宇賀さんなのでした。

Information
石仏観光センター 郷膳うさ味
address:大分県臼杵市深田833-5
tel:0972-65-3333
access:JR臼杵駅から車で約15分、大分空港から車で約80分、東九州自動車道・臼杵ICから約5分、湯布院ICから約60分
営業時間:11:00〜15:00(14:30 L.O.)
定休日:月・火曜
備考:現在営業時間が不規則なため、利用前に電話で要確認
web:石仏観光センター 郷膳うさ味

磨崖仏の数日本一・大分県の
謎多き国宝〈臼杵石仏〉

石仏観光センターのすぐ裏手には、小さな集落や穏やかな田園風景が広がる〈深田の里〉があります。ここでは国宝に指定された〈臼杵石仏〉群を見ることができます。

〈深田の里〉の林道を歩く
気持ちのいい林道の緩やかな坂を登っていきます。

1周800メートルの道中に、4つの見どころが点在しています。所要時間約30分なので、腹ごなしにもうってつけ。

「ホキ石仏第二群」の外観
石仏群は4群に分かれ、その数は60体以上。自然の崖に彫られた石仏の姿は迫力満点です。

しばらく歩くと、ひとつ目のエリア「ホキ石仏第二群」に到着。
屋根の下から隠しきれない圧倒的な存在感を放った石仏がお目見えです。

阿弥陀如来像を見つめる宇賀さん
悠然とした佇まいの「阿弥陀如来像(あみだにょらいぞう)」が宇賀さんのお気に入り。「毅然とした表情がいい」とのこと。

臼杵石仏とは、阿蘇溶結凝灰岩でできた岩肌に彫られた「磨崖仏(まがいぶつ)群」のこと。現在、61体あるすべての石仏が国宝に指定されています。

平安時代後期から鎌倉時代にかけてつくられたといわれていますが、誰が何の目的で造営したのか定かではなく、未だ謎に包まれているのだとか。
「なんだか神秘的ですね」と宇賀さん。

〈山王山石仏〉の前に到着

「ホキ石仏第一群」エリアを超えてさらに奥へ進み、急勾配な階段を登ると、〈山王山石仏〉がお出迎え。階段の下から見上げると、陰りもあってか気圧されそうなくらい荘厳なオーラに包まれている石仏に、思わず息を呑みます。

山王山石仏
しかし、よくよく見ると意外にも穏やかな表情の山王山石仏。

さらに登っていくと、最後の見どころである「古園石仏」エリアへ。

大日如来像にお参りする宇賀さん
修復されて現在の姿に復位した「大日如来像(だいにちにょらいぞう)」。以前は仏頭が落ちており、長らく台座の上に安置されていたそう。

中尊の「大日如来像」は、仏教の一種である「密教」において、宇宙の根源となる最高位の仏とされています。
全宇宙を表す大日如来像、なんだかパワーをもらえそうです。

おみくじを開ける
おみくじでは中吉を引いた宇賀さん。「まあまあですね(笑)」と苦笑い。

ここではおみくじや願掛けのお線香などがあるので、ぜひ大日如来像のエネルギーにあやかりましょう。

願掛けのお線香は「家内安全」「商売繁盛」「良縁結願」など7種類の願い別に用意されていますが、宇賀さんが迷わず選んだのは「身体健全」。

「何をするにしても身体が資本ですからね」としみじみする宇賀さんです。

大日如来像の前に立つ宇賀さん
大日如来像を前にうれしそうな宇賀さん。

「臼杵石仏を目の当たりにすると、当時の技術力の高さを感じます。いったいどれくらいの費用がかかって、どれくらいの人が関わったんだろう。迫力もあって、歴史もあって、実際に見ることができてよかったです」と感服したご様子。

深田の里の遠景

また、このエリアは一番見晴らしの良い場所にあるので、景観も良好。大日如来像を背にすると、深田の里を一望できます。

この里を吹き抜ける穏やかな風を感じて、何かに思いを馳せる宇賀さんなのでした。

Information
国宝臼杵石仏
address:大分県臼杵市大字深田804-1
tel:0972-65-3300
access:JR臼杵駅から車で約20分。臼杵ICから車で約5分
営業時間:9:00〜17:00(最終入館16:30)
定休日:無休
拝観料:大人550円、小人270円(ともに税込)
web:国宝臼杵石仏

至極の一杯で、ゆったりとした時間を過ごす
〈suzunari coffee〉

臼杵石仏から車で約5分ほどの場所に位置する、
スペシャルティコーヒー専門店〈suzunari coffee〉。

旅の締めくくりをするべく、ここでひと息つくことに。

〈suzunari coffee〉の外観
同店周辺は、山々に囲まれたのどかな風景のなかにあります。

ここでは店主・匹田貴明さんが惚れ込んだ個性を感じるシングルオリジンや、同店でしか味わえないオリジナルブレンドをメインに、季節によってさまざまなバリエーションのハンドドリップのコーヒーをいただけます。

ビンテージコーヒーロースターを説明する匹田さん
店内でひと際存在感を放つビンテージコーヒーロースター(probat UG15)を見せてくれた匹田さん。
店内販売されている8種類のコーヒー
今回いただくのは、左の「El Salvador La Pedrera(エルサルバドル ラ ペドレラ)」(800円)。

エルサルバドルの首都・サンサルバドルから約95キロメートル離れた山中にあるペドレラ農園で生産された、世界的に評価の高いスペシャルティコーヒーを浅煎りでいただきます。

「果実感をしっかり感じつつ、ブラウンシュガーのような優しい甘みを感じます。さわやかな酸味ですっきり飲めますね」と宇賀さん。

窓際の臼杵石で作ったカウンターテーブルでコーヒーを味わう

臼杵ののどかな風景を見渡せる大きな窓に、臼杵石で作ったテーブル。重厚感があるシックな店内に、やわらかな光が差し込んできて、穏やかな時間が流れます。

窓の外を眺める宇賀さん

地元の学生たちが自転車で通り過ぎていく様子を窓から眺めている宇賀さん。

「コーヒーって、つい仕事のお供としてせわしなく飲みがちだけど、こうやってぼんやりしながら、ゆっくりコーヒーを飲む時間って大切だなってあらためて思いました」と日々多忙な宇賀さんもほっとひと息つけたようです。

Information
suzunari coffee
address:大分県臼杵市野田持田120
tel:0972-86-9005
営業時間:11:00〜18:00
定休日:水曜
備考:駐車場あり。テイクアウトあり
web:Instagram|@suzunaricoffee
〈suzunari coffee〉で休憩する宇賀さん

最後に今回の旅のハイライトをうかがいました。

「一番印象に残っているのは臼杵焼の豆皿体験ですかね。全国津々浦々旅して、いろんなところで陶芸体験をしてきましたが、こんなに洗練された場所はなかなかないなと思いました。できあがった豆皿には、おにぎり1個置いてもいいし、チョコレートひとかけらでもいいし、どんな食事シーンにも寄り添ってくれそうです。届くのが待ち遠しいです」

credit text:藤田佳奈美 photo:ただ hair & make:永田紫織(Nous) styling:近藤和貴子

衣装クレジット ジャケット41800円、オールインワン30800円(ともにランバン オン ブルー/レリアン)︎、イヤリング15400円(ヴァンドームブティック/ヴァンドームブティック 伊勢丹新宿店)︎、リング29700円(エテ)︎
以上、価格はすべて税込み