ベンガルインタビュー、続編があれば「僕はもう死んでいるか、違う設定を考えなきゃいけない」

 舘ひろし(74)&柴田恭兵(72)主演の8年ぶりの最新映画『帰ってきた あぶない刑事』(5月24日公開、原廣利監督)で、俳優のベンガル(72)が「落としのナカさん」こと田中文男役で登場する。名バイプレーヤーが語る『あぶ刑事』の魅力とは?(取材・文=平辻哲也)

 1986年の放送以来、ドラマに加え、劇場版7作品が製作された『あぶない刑事』。最新作は、刑事を定年退職し、ニュージーランドで探偵をしていたタカこと鷹山敏樹(舘)とユージこと大下勇次(柴田)が8年ぶりに帰国し、横浜で探偵事務所を開業。母親を捜してほしいという永峰彩夏(土屋太鳳)の依頼を受ける中、殺人事件、爆弾テロに巻き込まれていく……。

 ナカさんは港署捜査課の最古参。独特な空気で容疑者を追い込み、自白させるのが得意なキャラクター。前作『さらば あぶない刑事』(16年)ではラーメン屋だったが、本作では情報屋として登場。タカにヒントを与えるという役回りだ。

「みんなと同じシーンがあれば良かったんですけど、今回は舘さんとの共演となりました。前回はラーメン屋で、今回は情報屋。作家さんも頭を絞って、田中文男の立場を悩んだんじゃないですかね。次の作品があれば、僕はもう死んでいるか、違う設定を考えなきゃいけないですよ」と笑う。

 町を歩いていると、「ナカさん」と声をかけられることもあるそうで、役には特別な思いもある。

「僕を知ってもらうきっかけになった役ではあると思います。ただ、自分でこういうキャラクターにしようというのはなかったので、ずっと探り探りやってきて、こういう風になった感じがするんです。そもそも、『あぶない刑事』では役作りをしようなんていう人はいなかったんじゃないかな。ほとんど素の状態で、月日がたてばたつほどだんだん個々のキャラクターが立ってきた」

 トレードマークになった扇子はベンガルが持ち込んだアイデア。

「一応僕が提案したんだけど、スタッフさんが『こんな扇子を見つけたんですけど』と持ってきて、いつのまにかトレードマークみたいになったのかな。いろんな絵柄、文字が書いてあるものがあったけど、個人的に気に入ったものはなかったですね」

 役作りはしないのがベンガル流だという。

「最初から役をイメージして現場に入ってくる俳優さんもいるし、全然決めてこない人もいる。周りとの兼ね合いでだんだん(キャラを)立てていく人もいますが、それは個々の作り方だと思います。僕はどんなものでも役作りはしない。役を作っていると思われるとすごく恥ずかしい」

 役は作るものではなく、周囲によって作られるものと考えている。

「映画、ドラマには衣装があるし、メイクがあるし、セットもある。その上にさらに自分が作ってくると、ちょっとイヤなんです。作ってくると、画面に出ちゃうから。8割は衣装とメイクで決まっている。その中で、自分の素を自然と出していく感じですかね。田中文男という役は現場で作られた気がします。最初はキャラが弱かったけど、だんだんみんなが話しかけてくれたり、面白がってくれ、役が立ち上がっていった。みなさんのおかげだと思います」

 設定ではタカ&ユージよりの先輩の役だが、実年齢は同年代。舘と柴田のコンビはどう見ていたのか。

「2人は仲が良くて、その雰囲気が現場にも出ている。どちらも相手を立てているから、2トップになっている。じゃないと、長いこと持たないですよ。しかも、2人は周りへの目配せがあるので、ナカさんというキャラクターも立ち上がっていったんだと思います」

『あぶない刑事』は1986(昭和61)年にドラマとしてスタートし、平成、令和と3つの時代を駆け巡ってきた。

「こういうドラマは他にはないですよね。よくここまで見てくださったなと思います。ドラマは2シーズンで70回ちょっとと、スペシャルドラマ。映画は8本目かな。ドラマの頃は地元の警察の方々が通行を仕切ってくれて、カーチェイスも銃撃戦もできましたけど、今ではそんなこと絶対にやってもらえませんね。撮影もてっぺん(午前0時)を越えるのは当たり前で、移動も結構ありました。当時はケータイもないので、撮影隊とはぐれてしまったこともありました」

 シリーズが38年間続いた長寿の秘訣(ひけつ)は何か。

「現実的じゃない世界だからかな。こんな刑事がいるわけないですよね。最初の頃は視聴率が20%を超えたというのも信じられなかったです。僕の若い頃の刑事モノと言えば、『七人の刑事』(1961〜69年)です。僕が刑事役で呼ばれたことも驚いたし、キャストも刑事になるような感じの人はいないですよね」

 俳優業は生涯現役と考えている。

「そのためには健康でいないといけないですね。僕が住んでいる辺りは散歩する場所がいっぱいあるんで、ちょっと長い舞台がある前には集中的に歩いています。でも、舞台がない時はちょっとダメです。酒ばっかり飲んでしまう(笑)。やっぱり、仕事があると、きっかけになりますよ」。今後も、味わい深い演技を見せてくれそうだ。

■ベンガル 1951年8月17日、東京都出身。自由劇場を経て、1976年に柄本明、綾田俊樹ともともに劇団東京乾電池を結成。ドラマ、映画で活躍。近作は『ツユクサ』、『N―紫の天使―』(23)、『鬼平犯科帳 血闘』(公開中)など。平辻哲也