高年齢労働者を活用しようという流れの中、定年年齢を引き上げる会社も増えているようです。定年の引き上げは、従業員にどのような影響を及ぼすのでしょうか? 本記事では、定年が引き上げられたときの退職金の扱いについて解説します。

定年の引き上げで退職金はどうなる?

高年齢者雇用安定法には「従業員が希望した場合は、65歳まで雇用しなければならない」との決まりがあります。
 
この決まりを受けて、多くの会社では「60歳で定年退職とし、65歳まで再雇用する」という制度が設けられています。この場合、60歳でいったん退職するため、通常、退職金も60歳時点で支払われます。
 
一方、定年の年齢を変更する会社もあります。例えば、以前は60歳だった定年を65歳に引き上げるようなケースです。
 
では定年が引き上げられると、引き上げ後の定年年齢になるまで、退職金は支給されないのでしょうか? 引き上げ前の定年を60歳、引き上げ後の定年を65歳として考えてみましょう。
 

退職金の支給時期は会社による

「退職金は退職時に支払う」という考え方により、新しい定年である65歳時に退職金を支払う会社もあります。実際の定年退職時に退職金を支払うため、わかりやすく、また税務上の問題なども生じません。
 
しかし、長い間「定年は60歳だ」と信じて働いてきた従業員は、60歳時に受け取れるはずの退職金を住宅ローンの返済計画などに組み込んでいることがあります。その場合、退職金の支払いが65歳にずれ込めば、計画通りにいかず困ってしまうでしょう。
 
そうしたことを考慮し、定年を65歳に引き上げた後も、旧定年である60歳時に退職金を支払う会社もあるようです。退職金が旧定年で支払われるか、新定年で支払われるかは、会社によって異なります。
 

60歳で退職すると、退職金が減らされる?

定年が65歳に引き上げられたら、旧定年の60歳で退職する人は「自己都合退職」として退職金が計算されるのでしょうか?
 

離職理由による退職金の違い

退職金の計算方法は会社によって異なりますが、多くの会社では、退職理由が退職金額に影響する制度になっています。つまり「会社都合退職」の場合は退職金が高くなり、「自己都合退職」では低くなる、といった具合です。そして通常「定年退職」は、自己都合退職よりも、退職金が高く計算されます。
 

離職理由の扱いも会社によって異なる

定年が60歳から65歳に変更された場合、65歳での退職は「定年退職」、それ以前での退職は「自己都合退職」として退職金を計算する会社もあります。
 
また、旧定年である60歳以降に退職するときは「定年退職」の扱いとして、退職金を算定する会社もあります。どちらの扱いになるかは会社によって異なり、どちらが正しいということはありません。
 
話が少しそれますが、国家公務員の場合は後者の扱いがされるようです。国家公務員の定年は60歳から65歳に段階的に引き上げられますが、旧定年である60歳以降に退職するときは、離職理由を「定年退職」として退職金が算定されることになっています。
 
定年年齢が引き上げられた場合、退職金が何歳の時点で支給されるか、引き上げ前の定年で退職するとどのような扱いになるか等は、就業規則や退職金規定で確認できます。
 

まとめ

退職金は、法律で強制される制度ではないため、支給時期や計算方法は会社の任意であり、会社によって制度が異なります。
 
退職金は金額が大きく、高齢期の生活設計には重要なものです。ライフスタイルを大切にしつつも、できる限り有利に退職金を受けられるよう、自社の退職金制度については、早い時期にチェックしておくとよいでしょう。
 

出典

e-Gov法令検索 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
 
執筆者:橋本典子
特定社会保険労務士・FP1級技能士