会社員で年収1000万円の夫が死亡した場合、遺族年金はいくらくらい支給されるのでしょうか?   本記事では、子どもが1人いる場合といない場合に分けて、遺族基礎年金・遺族厚生年金の見込み額、注意点について説明します。また、遺族年金を受け取れない妻や、万一に備えて遺族年金以外で確認しておきたいことについても紹介します。

前提

子どもが1人いるケースと子どもがいないケースで、最初に遺族基礎年金の見込み額を確認し、続いて遺族厚生年金の見込み額を試算します。夫と妻のプロフィール、子どもの定義などは次のとおりです。
 

夫のプロフィール

就職前、国民年金保険料を納付した期間は3年未満。
民間企業への就職後、毎年の年収は1000万円(毎月の給与60万円、賞与は140万円を年2回)。勤続20年で死亡。
 

妻のプロフィール

夫によって生計を維持されていた(妻自身の年収は原則850万円未満)。
夫の死亡時、妻の年齢は30代。
夫との婚姻期間は10年未満(内縁関係を含む)。
 

年金法上の「子」の条件

18歳になった年度の3月31日までの子。または、20歳未満で障害等級1級・2級の状態にある子。いずれも死亡した人の実子または養子であり、結婚していないこと(内縁関係を含む)。
夫の死亡時に胎児であった子がいた場合は、生まれてから対象となる。
 
子のプロフィール(1人いるケースの場合)
 
就学前の児童であり、夫の死亡後は妻に扶養される。
 

子どもが1人いるケース

子どもが1人いるケースの遺族基礎年金と遺族厚生年金は次のとおりです。
 

遺族基礎年金は約105万円

妻は、夫の死亡の翌月分から、子どもが年金法上の子の条件を満たしている間、遺族基礎年金を105万800円(81万6000円 + 子の加算額23万4800円)受け取れます(2024年4月から2025年3月までの分を年額で表示した額です)。子どもが条件を満たさなくなると、あるいは妻が再婚したり(内縁関係を含む)、直系血族・直系姻族以外の人の養子になったりすると支給は終了します。
なお、遺族基礎年金の額は、賃金や物価などの変動に応じて毎年度見直されます。
 

遺族厚生年金は約82万円

妻は、原則として「夫の老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3」を、夫の死亡の翌月分から遺族厚生年金として受け取れます。再婚したり(内縁関係を含む)、直系血族・直系姻族以外の人の養子になったりしない限り、終身で受け取れます。
遺族厚生年金の額も、賃金や物価などの変動に応じて毎年度見直されます。なお、妻が65歳以降に自分の老齢厚生年金を受け取り始める場合、老齢厚生年金の額によって遺族厚生年金の額は調整されます。
 
報酬比例部分の概算方法

老齢厚生年金の大部分を占める「報酬比例部分」の年額は、厚生年金保険に加入する形で働いた期間の給与・賞与の累計に「0.005481」を掛けることで概算できます(あくまでも目安です)。年収1000万円で20年間働いた場合は次のとおりです。
 
報酬比例部分(年額、概算) = 年収1000万円 × 20年 × 0.005481 = 109万6200円
 
「夫は、20年間の働きに対する老齢厚生年金を、65歳から毎年およそ110万円受け取れるはずだった」計算です。
 
遺族厚生年金の概算方法

遺族厚生年金の年額は、原則として「報酬比例部分」の4分の3です。
 
遺族厚生年金(年額、概算) = 報酬比例部分109万6200円 × 0.75 = 82万2150円
 
「妻は、夫の20年間の働きに対する遺族厚生年金を、夫の死亡の翌月分から毎年およそ82万円受け取れる」計算になります。
 

子どもがいないケース

子どもがいないケースの遺族基礎年金と遺族厚生年金は次のとおりです。
 

遺族基礎年金は受け取れない

年金法上の子の条件を満たす子どもがいないため、遺族基礎年金は受け取れません。もし20歳の未婚の子どもがいても、条件に該当しないため遺族基礎年金の対象にはなりません。
 

遺族厚生年金は約82万円

遺族厚生年金については「子どもが1人いるケース」と同じです。「妻は、夫の20年間の働きに対する遺族厚生年金を、夫の死亡の翌月分から毎年およそ82万円受け取れる」計算でした。
 

遺族年金を受け取れない妻とは

原則として年収850万円以上の妻は、夫によって生計を維持されていたとは見なされないため遺族年金を受け取れません。また、年収850万円未満で遺族年金を受け取り始めても、再婚したり(内縁関係を含む)、直系血族・直系姻族以外の人の養子になったりした場合、遺族年金の受給権を失います。
 

遺族年金以外で確認しておきたいこと

万一に備え、遺族年金以外で確認しておきたいことを3つ紹介します。

(1)企業年金や退職金に関する夫の勤務先の社内規定を確認しておきましょう。本人が受け取るはずだった企業年金や退職金を、本人に代わり遺族が受け取れることがあります。
 
(2)傷病給付金、弔慰金に関する夫の勤務先の社内規定を確認しておきましょう。社員の死亡時、企業年金や退職金、労災給付とは別に、公傷病給付の弔慰金、私傷病給付の弔慰金、遺児育英資金などを給付する会社もあります。
 
(3)近い将来、もし夫が死亡した場合、遺族年金、夫の勤務先からの給付、夫婦の預貯金、今後の自分の勤労収入だけでは幼い子どもを育てていけないと考えるのであれば、生命保険(夫が死亡したときの遺族保障)を検討します。保険料が安く、保障の見直しがしやすい「グループ生命保険(団体定期保険)」が夫の勤務先にあるかどうか、最初に確認しましょう。

 

まとめ

簡単にまとめると、「遺族基礎年金は、子どもが18歳になるまで一律の額を受け取れる(年額100万円程度)」「遺族厚生年金は、再婚しなければ生涯受け取ることができ、額は夫の生涯賃金によって異なる(生涯賃金2億円の会社員なら年額80万円程度)」という理解で良いでしょう。この機会に、夫の勤務先の各種給付制度についても、ぜひ確認してください。
 

出典

日本年金機構 遺族年金ガイド令和6年度版
 
執筆者:福嶋淳裕
日本証券アナリスト協会認定アナリスト CMA、日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定 CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本商工会議所認定 1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)