よく聞く「106万円の壁」「130万円の壁」といういわゆる年収の壁。せっかく働いたのに税金を納めたら、トータル金額がマイナスになることで「働き損」となってしまうことですが、厚生労働省は2023年9月27日「年収の壁・支援パッケージ」が発表されました。   その後、どのような変化があったのか、今後はどうなるのか見てみましょう。

年収の壁とは

「年収の壁」とは、年収が一定額を超えると社会保険料の支払いが生じて手取りが減ることを指します。そのため、配偶者の扶養に入っているパート・アルバイト労働者等(第3号被保険者)の中には、社会保険料の支払いが生じないように就労時間を調整しながら働いている人がいます。
 
年収の壁には主に2つあり、企業規模によって対象となる「106万円」の壁と、企業規模には関係なく保険料負担が生じる「130万円」の壁とがあります。「106万円」の壁と「130万円」の壁には図表1のような違いがあります。
 
【図表1】


 
例えば、令和5年度全国平均の最低賃金時給(1004円)で働く場合、1日5時間、月に17.5日働くと年収は、105万4200円で「106万円」の壁ぎりぎりとなります。
 
従業員101人以上の会社で働いている場合は、条件を満たすと、厚生年金保険と健康保険に加入する義務が生じ、配偶者に扶養されていた第3号被保険者は、年16万円程度の保険料が発生して手取り額が減ります。
 
一方、100人以下の会社で働いている場合は、年収が130万円以上になると配偶者の社会保険の扶養から外れて、国民年金・国民健康保険に加入しなければならなくなります(※1)。
 

年収の壁・支援パッケージとは

社会保険の負担を考えて、配偶者の扶養に入っているパート・アルバイト労働者が調整労働をすることを減らすため、2023年10月から「年収の壁・支援強化パッケージ」が始まりました。
 
「106万円」の壁対策として、パート・アルバイト労働者の厚生年金や健康保険の加入に併せて手取り収入を減らさない取り組み(※2)を実施する企業に対し、労働者1人当たり最大50万円の助成金(キャリアアップ助成金(※3))を支給するというものです。
 
また、「130万円」の壁の対応として、パート・アルバイト労働者が繁忙期に労働時間を延ばすことなどにより収入が一時的に上がったとしても、事業主がその旨を証明することで引き続き被扶養者認定が可能となるというものです。
 
ただし助成金制度を導入するかどうかは企業の任意であり、導入された場合も原則3年の時限措置ということには注意が必要です。
 

まとめ

年収106万円を超えた場合、厚生年金・健康保険の加入により目先の収入が減るので「働き損」のように見えますが、厚生年金・健康保険に加入するメリットはいくつもあります。
 
厚生年金に加入していれば、老齢基礎年金のみの第3号被保険者と違い、老齢厚生年金ももらえます。また、病気やけがで障害の状態になったときは、障害基礎年金に上乗せして障害厚生年金も支給されます。健康保険に加入すれば病気やけがで働けないときには傷病手当金、出産前後には出産手当金が支給されます。
 
保険料を引いても壁超え前の水準となるのは、年収125万円(月収で約10.5万円)程度です。多く働けばそれだけ将来の老齢年金も多くもらえます。
 
従業員100人以下の企業の場合は、現行では、週30時間以上働かないと厚生年金・健康保険に加入できませんが、2024年10月以降は51人以上の企業で条件を満たせば厚生労働保険・健康保険に加入できるようになります。
 
家庭の事情にもよると思いますが、目先の手取り額の減少だけを見るのではなく、大きく壁を超えて年収アップにつなげることも検討しましょう。
 

出典

(※1)従業員100人以下の会社に勤務する場合は、週30時間以上勤務をしないと厚生年金保険・健康保険に加入することはできません。
(※2)社会保険適用促進手当を支給(社会保険料の算定対象外)・賃上げによる基本給の増額・所定労働時間の延長
(※3)キャリアアップ助成金の詳細については、厚生労働省「年収の壁対策として労働者1人につき最大50万円助成します!」をご覧ください
厚生労働省 年収の壁・支援強化パッケージに関するQ&A(キャリアアップ助成金関係)
 
執筆者:篠原まなみ
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP認定者、宅地建物取引士、管理業務主任者、第一種証券外務員、内部管理責任者