人口減少が共通課題となっているこの時代に、移住者が前年の8.5倍となり、人口増加を13年ぶりに達成した地方都市がある。その背景には、一貫したコンセプトで取り組む移住戦略や観光戦略があった。宮崎・都城市の池田市長に直接、その戦略を聞いた。

13年ぶりの「人口増加」その秘密は

都城市がまとめた2024年4月1日の人口は15万9474人と、13年ぶりに前年を上回った。「少子化」「人口減少」などマイナスの話ばかりが聞こえてくる中で人口増加を達成したことは驚きをもって受け止められた。宮崎県内の自治体で前年を上回ったのは都城市だけ。全国の自治体にとっても、うらやましい限りの成果ではないだろうか。

人口増加をけん引したのは「移住」だ。2023年の移住者は、過去最高の3710人。前年の実に8.5倍だ。そこには「全国どこから移住しても1世帯最大500万円」というインパクトのある政策をはじめ、様々な取り組みがあった。

・夫婦と子供2人の世帯に最大500万円の移住応援給付金
・子供の保育料 完全無料化
・中学生以下の医療費 完全無料化
・妊産婦の健診費用 完全無料化

このようなアイデアはどのように生まれてくるのか。都城市の池田宜永市長に話を聞いた。

都城市 池田宜永市長:
人口減少は各自治体共通の課題。そういった中で、都城市として本気で取り組むんだ、というときに、インパクトもひとつのポイント。対象の方にしっかり伝えていくというPRの観点も含めて政策を作っている。

都城市の「次の一手」 “スノーピーク“

ゴールデンウィークを控えた4月下旬、都城市の「次の一手」が形になった。鹿児島との県境にある都城市の関之尾公園は、関之尾の滝や甌穴群など雄大な自然が楽しめる観光スポットだ。
ここに4月27日にオープンしたのが「スノーピーク都城キャンプフィールド」。指定管理者としてデザインや運営を担当するのは、大手アウトドアメーカーのスノーピーク。「スノーピーカー」と呼ばれる熱狂的なファンもいる人気のメーカーで、直営のキャンプフィールドは全国で11番目。宮崎県内では初めてだ。

Snow Peak都城キャンプフィールド 田中芳生店長:
本当に自然豊かで景観もダイナミックで、こういった稀有(けう)な場所を有するキャンプフィールドは全国を見てもなかなかない。自然と触れ合えるような施設を作りたい。全国に都城というエリア自体を発信できる施設になればと思う。

キャンプフィールドには約100のテントサイトがある。中には関之尾の滝を眺めながらキャンプを満喫できる場所も。温水を使用できる炊事棟や24時間利用可能なシャワールームなども備えられているほか、キャンプに必要な道具一式の貸し出しを受けることもできる。また、アウトドア初心者でも安心して楽しめる2階建てのコテージも。

このほか、公園内には県内初出店となるスノーピーク直営店や都城のお肉を使ったレストラン、素材にこだわったドーナツが魅力のカフェもあり、宿泊者以外も食事や買い物を楽しむことができる。

地域の“宝”を生かす選択肢

あの関之尾公園をキャンプフィールド化。狙いはどこにあったのだろうか?

都城市 池田宜永市長:
関之尾公園、関之尾の滝、甌穴群は都城にとって大事な“宝”。大自然を有しているということ。これを生かす一つの選択としてキャンプという発想があり、スノーピークから提案を受けた。

キャンプフィールドができたことにより、通過型ではなく滞在型の観光になっていく可能性がある。また、アウトドア好きな人たちという、これまでとは違う新たな観光客を取り込めるという狙いも池田市長にはあったという。

観光地のコンセプト形成

完成した施設は、自然の美しい景観にマッチして、しかもおしゃれだと感じる。デザインと運営を一括して託す例は都城市の他の施設にもあるが、コンセプトがしっかりしていることが、ワクワクするような作りにつながっているのではないか。

都城市 池田宜永市長:
都城市の場合は、市立図書館や道の駅都城NiQLL(ニクル)など、デザインとオペレーションをセットにして入札している。最初の設計の段階から、それぞれのプロの意見や経験が凝縮されて施設を作ることができる。私はこの方式は非常にいい形だと考えている。

大成功「道の駅都城NiQLL」も同じ方式

同じように、デザインとオペレーションをセットにして作られた「道の駅都城NiQLL」は、大成功を収めている。オープン以来の1年間で来場した人は146万1674人。宮崎県の人口106万人を上回る数字だ。当初の年間目標が100万人だったのに対し、その目標を2023年12月には達成していた。なぜここまでの成功につながったのだろうか。そこには通常の道の駅とは違った戦略があったという。

都城市 池田宜永市長:
コンセプトとターゲットを最初からはっきりと作っていた。都城市は肉と焼酎を一つの目玉にしていて、1つのコンセプトにしている。

そのコンセプトについて、池田市長は3つの仕掛けをこう説明した。

ふるさと納税   = 知ってもらう
ミートツーリズム = 来てもらう
道の駅都城NiQLL = 買ってもらう

ターゲットは子育て世代の女性で、お店自体を気に入ってもらえるようにしているほか、子供たちが遊べる屋内の木製遊具施設を設置した。このように、コンセプトとターゲットをしっかりと定めたことが成功につながったと分析している。

そして、遊びゴコロも忘れていない。肉ガチャという自動販売機では1年間で4500万円売り上げたという。ひょっとしたら、日本一の売り上げを誇る自動販売機ではないか?とまで言われているそうだ。

10年先に行くことができた

都城市は当初、10年後に人口減少を止めて増加に転じる、という目標を打ち出したが、実際には1年で達成してしまった。これからはどんな目標を描いているのだろうか。

都城市 池田宜永市長:
逆に言えば10年先に行くことができたということ。これから行うことは11年後にやろうとしていたこと。ありがたいことに現在の移住者の83%は40代以下の若い世代。まず移住という“社会増”で進みながら、今後は出生数がプラスになっていく”自然増”もあり得る。そうなれば安定的な人口増に持っていけるのではと考えている。

2024年度末には都城志布志道路が全線開通する。さらに宮崎県の陸上競技場が2024年度中に完成する。都城運動公園では千葉ロッテマリーンズのキャンプが新たに決まった。今後どこまで成長を続けるのか。宮崎県第2の都市、都城市から今後も目が離せない。

(テレビ宮崎)