●MF:井手口陽介(背番号7)
明治安田J1リーグの2024シーズンが開幕して、およそ1カ月半が経過した。各チームが補強した選手たちの中には、期待に沿った活躍を見せる新戦力もいれば、活躍が期待されながらもなかなか輝けていない新戦力もいる。今回は、さまざまな理由で今季スタートダッシュに失敗してしまった新加入選手をピックアップして紹介する。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
生年月日:1996年8月23日(27歳)
所属クラブ:ヴィッセル神戸
今季リーグ戦成績:4試合0ゴール0アシスト

 元日本代表MF井手口陽介は、今季、ヴィッセル神戸で十分な出場時間を得られていない。

 現在27歳の井手口は、昨季セルティック(スコットランド)からアビスパ福岡へレンタル移籍。福岡ではチームの絶対的な主力としてピッチを走り回り、獅子奮迅の活躍を見せた。浦和レッズとのYBCルヴァンカップ決勝ではフル出場を果たし、クラブに悲願のタイトルをもたらしている。

 しかし、昨季王者のもとで迎えた今季は、リーグ戦の先発出場がわずか2試合に留まっている。シーズン開幕前に行われた『Inter Miami in Tokyo』(インテル・マイアミ戦)、『FUJIFILM SUPER CUP』(川崎フロンターレ戦)に途中出場を果たし、開幕後もリーグ戦2試合連続で先発に名を連ねていたため、その滑り出しは順調かに思われていた。が、第4節サンフレッチェ広島戦ではピッチに立てず。第7節、第8節でもベンチを温めている。

 このような状況になってしまったことには、2つの理由が考えられる。1つ目は、シンプルに井手口が神戸のサッカーに適応出来ていないこと。彼が運動量に優れた中盤であることに異論はないが、新たに加入した神戸では周囲の選手との連係にやや不安が残る。強みを発揮するためには、もう少し戦術理解度を上げていかなければならない。

 また、2つ目の理由として、同じく中盤を担う扇原貴宏や山口蛍といったライバルたちが軒並み好調であることが挙げられる。2選手はどちらも、チーム2位となるパス成功率74%、1試合あたりのインターセプト数1.9回を記録しており、文字通り「チームの攻守の要」となっている(データサイト『Sofa Score』参照)。彼らを押しのけて出場するのは至難の業だ。

 乗り越えなければならない壁は複数あるが、井手口が持つ本来の力はこんなものではないはず。まずは1日でも早くチームの戦術に適応し、昨季のようなハイパフォーマンスを今季も披露してもらいたい。

【2024年】J1リーグ戦力総合評価ランキング1〜10位。優勝候補はどこだ? 全20クラブを格付け!
【一覧】Jリーグ移籍情報2024 新加入・昇格・退団・期限付き移籍・現役引退
Jリーグ“最強”クラブは? パワーランキング。人気や育成、成績など各指標からJ1〜J3全60クラブを順位化

●FW:鈴木武蔵(背番号7)
生年月日:1994年2月11日(30歳)
所属クラブ:北海道コンサドーレ札幌
今季リーグ戦成績:7試合0ゴール0アシスト

 北海道コンサドーレ札幌のFW鈴木武蔵は、今のところチームに大きな成功をもたらせていない。

 2018シーズンにV・ファーレン長崎(当時J1)で戦っていた鈴木は、リーグ戦11ゴールを記録。この活躍が認められて、翌2019シーズンより札幌へ完全移籍することが決まった。

 札幌では前線の主力選手として定位置を確立し、2シーズンでリーグ戦37試合18ゴール2アシストという素晴らしい成績を残した。また、2019年のYBCルヴァンカップでは7得点を決めて大会得点王に輝くとともに、チームの決勝進出に大きく貢献している。その後、ベールスホット(ベルギー)、ガンバ大阪を経て、今季から再び札幌で戦うことを決断した(G大阪からのレンタル移籍で札幌に加入)。

 しかし、札幌での2度目の戦いでは、今のところ前回のような輝きを見せられていない。ここまでリーグ戦7試合に出場しているが、ゴールやアシストは無く、チームもリーグ19位のどん底状態。得点力不足に苦しんでおり、今季リーグワーストの5ゴールしか奪えていない。チームを上昇気流に乗せるためにも、そして指揮官の信頼に応えるためにも、早いうちに得点に絡むプレーが見たいところだ。

 そんな中で迎えた第8節アルビレックス新潟戦では、16分に不運にも負傷交代。最終的にチームは、レッドカードを貰い1人少ない状況ながら守りきって、なんとか価値ある勝ち点1を手に入れたが、2試合連続白星とはいかなかった。

 札幌がJ1残留を果たすためには、元日本代表FWの奮起が必須だ。2019年のルヴァンカップで見せた圧倒的なパフォーマンスを、今季もう1度再現することはできるだろうか。なるべく早く戦列復帰を果たしてもらいたい。

●DF:井上詩音(背番号4)
生年月日:2000年4月25日(23歳)
所属クラブ:名古屋グランパス
今季リーグ戦成績:2試合0ゴール0アシスト
 名古屋グランパスのDNAを受け継ぐ若きセンターバックは、苦戦を強いられている。

 ヴァンフォーレ甲府から名古屋に加入した井上詩音は愛知県出身。名古屋の下部組織で育った同選手は、昨季J2でリーグ戦30試合に、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)で5試合に出場。プロ1年目ながら充実したシーズンを過ごした。

 しかし、名古屋に移籍した今季は、満足のいく出場機会を得られていない。第1節・鹿島アントラーズ戦では先発出場を果たすも、チームは0-3の大敗。井上にとっては、ほろ苦いJ1デビューとなってしまった。

 この試合の名古屋は、チームとして守備に問題があった。井上の前方でプレーしていた左ウィングバック山中亮輔は鹿島に狙い目にされており、ただでさえ役割の曖昧なチームディフェンスとなっていた中で、井上には山中の後方に空いた広大なスペースを1人でカバーすることが求められた。結果的に3度ネットを揺らされたことは問題であるが、J1デビュー戦の井上に全てこの責任を押し付けるのは酷だ。守勢に立たされても集中力を切らさず、最後まで球際で強さを見せていた。

 しかし、その後は、DFハ・チャンレ(新加入)の活躍やDF河面旺成の復帰、DF吉田温紀の台頭などもあって定位置を失い、第2節のFC町田ゼルビア戦以降はベンチ外の試合が続いた。クラブはもちろん中長期的な補強戦略として井上を獲得したはずだが、スタートダッシュには失敗した格好となってしまった。

 現在23歳と若く、その伸び代は十分。YBCルヴァンカップなど、与えられたチャンスで安定したパフォーマンスを見せて経験を積んでいきたい。

●DF:ファンウェルメスケルケン際(背番号31)
生年月日:1994年6月28日(29歳)
所属クラブ:川崎フロンターレ
今季リーグ戦成績:0試合0ゴール0アシスト

 川崎フロンターレのMFファンウェルメスケルケン際は、日本デビュー戦となった『FUJIFILM SUPER CUP 2024』のヴィッセル神戸戦で決勝弾を決めるという素晴らしいパフォーマンスを見せた。しかし、そこで残した鮮烈なインパクトは残念ながら徐々に薄まりつつある。

 今季、川崎Fへ完全移籍した際は、右サイドバックを主戦場とするプレーヤーだ。同選手は、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の山東泰山戦(アウェイ)で川崎Fデビューを果たすと、前述したスーパー杯に先発出場。後半開始直後に期待に応える移籍後初ゴールをマークし、自らの1点でチームに今季初タイトルをもたらすなど、日本でのキャリアの滑り出しは順調かに見えていた。

 しかし、そのスーパー杯から、際はピッチに立つことができていない。それどころか、2月20日に行われたACLの山東泰山戦(ホーム)ではベンチ入りを果たしたものの、それ以降はベンチ外の日々が続いている。Jリーグでのお披露目はお預け状態だ。

 負傷離脱の発表などがクラブからされているわけではないが、どんな理由であれ、ここまで試合に絡めていない現実をポジティブにとらえることは難しい。上記の通り、ここまで川崎Fでの出場は2試合しかなく、今後ピッチに立つ機会が増えたとしても、適応にどれほどの時間を要するか不透明だ。

 川崎Fのニューヒーローが等々力競技場に戻ってくる日はいつになるのだろうか。チームは現在、DFに相次いで離脱者が出ており、そういった意味でもサポーターは際の起用を待っているはずだ。

●DF:松田陸(背番号46)
生年月日:1991年7月24日(32歳)
所属クラブ:ガンバ大阪
今季リーグ戦成績:2試合0ゴール0アシスト

 ガンバ大阪のDF松田陸は、不本意にも怪我によってスタートダッシュに失敗してしまった選手の1人だ。

 現在32歳の松田は、 2016年にFC東京からセレッソ大阪へ移籍。C大阪では在籍8シーズンで公式戦通算298試合に出場し、豊富な運動量と右足から放たれる精度の高いクロスを武器に活躍した。2017年にはYBCルヴァンカップと天皇杯の2冠に貢献している。

 長く右サイドバックの主力として重宝されてきた松田だったが、その立場は昨季大きく揺らいだ。日本代表にも選出された毎熊晟矢が右SBの主力に定着したことで、松田の出場機会は激減。5月前半の出場を最後にベンチ外の日々が続き、8月にはヴァンフォーレ甲府へのレンタル移籍が決まった。今冬にはさらなる出場機会を求めてG大阪へプレー拠点を移している。

 今季開幕から2試合連続で出場し、新天地に素早く適応した同選手だったが、先日クラブから「左腓腹筋」を肉離れしたことが発表された。復帰時期は明かされていない。

 G大阪にとって、松田の負傷離脱は大きな痛手だ。同じ右SBにはU-23代表半田陸がいるが、同選手はAFC U-23アジアカップ参戦のためチームを離れており、現在は福岡将太が同ポジションを務めている。福岡はクロスの精度など攻撃性能に課題が残るため、松田不在の試合では右サイドからの攻撃にやや物足りなさがあった印象だ。松田には1日でも早く復帰して、青黒で躍動してもらいたい。

●MF:小野雅史(背番号41)
生年月日:1996年8月9日(27歳)
所属クラブ:名古屋グランパス
今季リーグ戦成績:1試合0ゴール0アシスト

 今冬にモンテディオ山形から名古屋グランパスへ個人昇格を果たしたMF小野雅史は、不運なスタートを切っている。

 大宮アルディージャの下部組織で育った小野は、2019年に大宮のトップチーム入り。当初は中盤の選手として左サイドハーフやトップ下で起用されていたが、2022シーズンに左SBにコンバートされた。前所属の山形でも大宮時代と同じく左SBでの起用がメインとなっていたが、名古屋では左ウィングバックを務めている。

 高い運動量とタイミングの良い攻撃参加が魅力的な小野は、開幕戦となった鹿島アントラーズ戦(0-3)で早速J1デビュー。出場時間は25分と限られたものだったが、しっかりと爪痕を残すことに成功した。

 後半途中から左サイドで誕生した倍井謙と小野のコンビは、連係プレーから敵陣ゴールに迫る場面が何度かあり、自分たちが「試合の流れを変えてやる」という強い気持ちが伝わった。2人は前線から献身的な守備もできるため、経験を積んでいけば最高のユニットになるかもしれない。

 J1デビュー戦で好インパクトを残した小野だったが、残念ながら怪我をしてしまったようだ。トレーニング中に負傷し、「右大腿二頭筋肉離れ」と診断されたことが3月12日にクラブから発表された。この負傷離脱について、小野は自身のX(旧Twitter)で「離脱は悔やまれますが、いつもと違う角度から成長し以前より良い状態で戻ります」と発信し、さらに成長して戻ってくる決意を示した。シーズン序盤に不運にも躓いてしまったが、その実力はすでに証明済み。怪我を完治させて堂々と戻ってきてもらいたい。