大阪・和泉市の南大阪ベースボールクラブ…「どんな選手にも1つある」長所を伸ばす指導

 決して偶然ではない。毎年のように甲子園常連校に選手が進学するのは理由がある。大阪・和泉市で活動する中学硬式野球チーム「南大阪ベースボールクラブ」の出身選手は、今春の選抜高校野球大会にも出場した。チームは「どの選手にも必ず1つはある」という長所を伸ばし、高校で開花する可能性を広げる指導を貫いている。

 2011年にメンバー2人からスタートしたチームは今、1学年20人前後の枠がいっぱいになるまでの人気となった。出身選手は今春の選抜に出場した関東一(東京)と大阪桐蔭にも進学している。なぜ、創設からずっと全国各地の強豪校に選手を輩出できるのか。現役時代は米国でもプレーし、チームを立ち上げた池西亮太監督に問うと「考えてもよくわからなくて」と首をかしげる。

 だが、話を聞くと明確な理由が浮かび上がってくる。池西監督が指導の軸とするのは「高校やその先も見据えた選手の育成」。選手を集めるために大会で優勝してチームとして売りたい、指導者として有名になりたいという気持ちは微塵もない。

「中学のクラブチームに入ってくる選手は、高校野球をしたい、甲子園に出たいという気持ちが強いです。私たち指導者には、選手が高校でも野球を続けられるように育成する責任があると思っています。言葉を選ばなければ、目の前の勝利よりも個人の能力を伸ばす戦い方や育成をします」

 強豪校でプレーするには、高校から求められる選手になるのが一番の近道となる。そこで、池西監督は選手の長所を伸ばす指導に力を注ぐ。強豪校がほしがる“売れる選手”を育成するのだ。

「中学生の段階では成長のスピードに差はありますが、どの選手にも必ず長所があります。打撃、守備、走塁、チームの精神的な支柱になる人間性など、高校野球で通用する要素が必ず1つはあるんです。何もない選手はいません。その1つを伸ばして次のステージで通用するように練習や試合をしていきます」

能力や性格見極め複数ポジションを練習…一塁と左翼は固定せず

 南大阪ベースボールクラブでは「本塁打を量産する選手」や「直球で三振を取れる投手」といった特定の理想像を掲げるのではなく、個々の特徴を生かして成長させる方法を考える。トーナメントを勝ち上がることだけを目標としていないため、選手によって打席の目的は変わる。

 例えば、1死一塁の場面で、池西監督は長打力を武器とする選手には3ボール0ストライクでも迷わず長打を狙うように言葉をかける。それに対し、小技を特徴とする選手には犠打やエンドランのサインを出す。公式戦は、個々の選手が持ち味に磨きをかける場にもなっている。

 選手に複数のポジションを練習させるのも、“売れる”確率を高める目的がある。特定の守備位置に固定せず、選手の運動能力や性格、高校以降の体の成長などを見極めて、2か所以上の守備位置を経験させる。しかも、遊撃手と二塁手といった複数ポジションではない。投手、捕手、内野手、外野手と大きく4つに分け、投手と外野手、捕手と内野手という形で2つの守備位置を練習する。

 さらに、一塁と左翼にはレギュラーを置かず、試合によって出場する選手が変わる。池西監督が語る。

「一塁や左翼しか守れない選手は、高校から声がかかりにくい傾向があります。高校で出場するチャンスを増やすには、複数箇所を守れることが大事だと考えています」

 まずは選手に希望する守備位置に就かせて、練習や試合を見ながら適性を判断していく。指導者の考え方を聞いた上で、どのポジションにするか選手が最終的に決定する。多くの選手が小学校のポジションから変更するという。

「高校以降のステージを見据えるとベストな形」

 複数ポジションを練習したことが、高校で生きているケースは多い。今春の選抜に出場した関東一の石田暖瀬(はるせ)選手も、その1人。小学校時代は遊撃手だったが、池西監督は「身長が180センチを超えて投手で才能が開花する」と判断した。

 打力も高かったため、クラブでは投手と外野手で育成。投手で起用する試合は打順を9番にして投球に集中させ、外野手の時はクリーンアップに据えた。関東一でも同じような起用法でチームに貢献している。

 中学で投手に専念した結果、登板過多で故障する選手は少なくない。最悪の場合、高校で野球を続けられなくなる場合もある。故障が原因で中学3年生から野手に転向しても、強豪校に進学するのは難しい。複数ポジションの練習は怪我のリスクを軽減する効果もある。

 池西監督は「私たちのチームの方針は、トーナメントで勝ち上がるためにはベストではないと思いますが、選手たちの高校以降のステージを見据えるとベストな形だと考えています」と話す。

 ポジションを固定してエースが連投すれば、トーナメントを勝ち上がる確率は上がる。だが、その勝利は高校野球を見据える選手にとって、どれほどの価値があるのだろうか。南大阪ベースボールクラブ出身選手の活躍を見れば、長所を最大限に伸ばし、複数のポジションを練習する指導が正解かどうか明白だろう。(間淳 / Jun Aida)