伊澤塾の定番メニューのひとつ「早朝球打ち」は、秀憲の実家の目の前にある中学校で行われていた。土のグランドから打つアプローチ練習は難易度が高かった。そんな条件でも秀憲は、「なんとしてでもボールを止めよう」と夢中になって試行錯誤をした。ベアグラウンドでボールを止められる技術は、ショートゲーム巧者の石川遼も唸るものがある。

その技術は日本イチ! いや世界イチかも?

「どう打ったら止められるんだ」。

秀憲はベアグラウンドから打つサンドウェッジショットを繰り返すなかでポツリと呟いた。

伊澤塾の定番メニューのひとつ、早朝の600球の球打ちは伊澤塾塾長の祖父の自宅の目の前にある中学校で行われていた。幼少の頃から伊澤塾生としてベアグラウンドショットを続けていたが、コースのときのように球が止まらないことに気がついた。

ベアグラウンドは芝と違い地面が剥き出しになっているため硬く、球が落ちると「コツン、コツン」と跳ねてしまう特徴があった。ここから秀憲のベアグラウンドの攻略が始まった。

「今日からバウンスが跳ねないようにクラブのソールを地面にぶつけるように打ってみよう」。普段とは違う打ち方で何カ月か続けてみた。

「この打ち方じゃダメか……次はフェースのトウ側で打ってみよう」。時間をかけながら試行錯誤を繰り返し、球を止めることに没頭した。

ある日、以前よりもボールにスピンが入り、止まるまでの時間が短くなった。ついに難攻不落と思われていたベアグラウンドから芝のように球を止めることができた。成功するまでにどれだけの球を打ったかわからない。そして、何個もの打ち方を試した。失敗の数が多かった、しかしその失敗の数だけ手に入れた物もあった。

「毎朝600球打つ中で、自分で期間を決めて色んな打ち方をしたことで、技術の引き出しが多くなりました」と秀憲は当時を振り返る。

圧倒的な量と試行錯誤をセットで行ったことで身についた技術の数が増えた。この伊澤塾での経験と指導者としてキャリアを歩み始めた時にリンクしたものがあった。

癖を生かしたスウィングづくり

「20歳の時にレッスンを始めて、いろんなタイプのゴルファーを見ていく中で、癖に引っ張られる人が多い」ことに気づいた。それならば、スウィング中に自然に出る動き、無意識に体に身についている癖を生かすことはできないか。人それぞれの癖にあった技術を組み合わせていくことで、「その人だけの型」を創り上げることができると考えた。

歴代の伊澤塾生、伊澤利光と細川和彦を比較しても、同じ練習内容をこなしていたにもかかわらずスウィングはまったく違う。伊澤塾の圧倒的な練習量と時間の中で、自分に合う動きを見つけ出し創り上げていた。

自分の癖をベースにスウィングの完成を目指すときに大事にしてほしいのが、「無意識にできるようになる」、「すぐに結果を求めない」。この2つだと秀憲は言う。

「自然にできるようになる前段階には、意識をしながらできるようになる必要がある」と言う。これは秀憲の経験を紐解くと、ベアグラウンドで球を止めるために試した数々の技術は、圧倒的な量をこなしていたことで、無意識にできるようになっていた。ひとつひとつの技術が癖として身についていた。

無意識にできる技術を身につけるために、ひとつひとつの動きを意識して練習する。秀憲の例で言えばベアグラウンドで球を止めるために、ボールに対してのクラブの入れ方を確認しながら打っていたことだ。さらに、「意識をしながら正確にできるようになるための練習量」が必要だと言う。

もうひとつ大事な要素となる「すぐに結果を求めない」ことは、今まで自分がやったことがない動きを意識しながら反復するのだから、違和感があったり、上手くボールを打てないのは当たり前。「慣れてないから仕方ないこと」、これが馴染んできたときが無意識にできる技術が身についた目安になる。

「時間をかけて向き合うこと、長い目で見ること」が重要と秀憲は言う。秀憲の技術も幼少のころから日々行っていた伊澤塾での練習の積み重ねで身についたものだからこそ、結果を急がないことが一番の近道だと考えている。
秀憲がベアグラウンドで学んだことは、上手くなるための心構えと練習への取り組み方だった。

【プロフィール】
伊澤秀憲(いざわひでのり)/1991年6月生まれ。神奈川県出身。叔父伊澤利光の父であり、祖父の利夫氏に2歳からゴルフの英才教育をうけながら、ジュニア時代は同世代の松山英樹、石川遼らとしのぎを削ってきた。YOUTUBEチャンネル「アンダーパーゴルフ倶楽部」にてショートゲームを中心とした動画を配信中!

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