長めのウェービーヘアがトレードマークの瀧澤直選手はチーム在籍10年。ベテランプレイヤーとして、さらにグラウンド内では最前列のプロップとしてチームメートを引っ張っている。臆病で慎重な性格と自己分析しながらも、実は社会人からの転職組。チームを引っ張るためのコツや決断力の秘密も教えてもらった。

―チーム内での役割は
 「プロップ」というポジションで、スクラムの最前列でプレーしています。在籍年数が10年と長い分、チームの歴史を知っているひとりなので、チームの文化を若い世代に伝えるような役割もあると思っています。

ー個人的にチームのために意識していることは
個人的には、パーソナルなところ まで踏み込むぐらいまでのコミュニケーションをとるように心掛けています。メンバーとご飯を食べに行ったり、休みに出かけたり、グラウンドの外でやることが多いですね。

人間性を知ることで、試合中に「彼のために頑張ろう」という風に自分の気持ちも変わります。プレー面でも“ああいう性格からきたんだな”と思えると楽しいです(笑)。例えばトライでも、“前にこう言ってたから、深い思い入れがあるんだろうな”と思ったり…。スポーツにはドラマがあるので、そういうストーリーを感じることが好きなんです。

一人一人の個性をできる限り知っているほうがプレーもしやすいですし、いいパフォーマンスにもつながります。一緒にやっていて楽しいとも感じられると思います。ラグビー以外は…と距離をとるのではなく、個人的なところまで、すべてパフォーマンスにつながると思って、全選手とコミュニケーションをとるようにしています。

ーラガーマンとしてのやりがいは
ラグビーは、チームスポーツの中でも一度にグラウンドに多くのプレーヤーが立つスポーツです。その中で、自分の役割を与えられ、自分にはできないことをチームメートが支えて、助け合うことにやりがいを感じます。

フィールド外でもそういう助け合いやつながりが強く、またラグビーに関わったことがあるというだけで初めて会う人にも親近感が湧く、そういうときにラグビーを続けてよかったと感じます。

ーラガーマンとしての苦労したことは
やはり、試合に出られないこと、試合に勝てないこと。どちらにしても「分析・計画・実行・反省」を繰り返すことで克服するようにしています。練習や試合などで出た、自分の課題や弱点を自覚して、まずは反省、分析をします。撮影された動画を観て自己分析をしたり、コーチやスタッフ、チームメートなどに聞きに行ったりもしています。

その中でやらなきゃいけないことを見つけて、自分なりにどうすればそれを修正できるのか。体、スピード、テクニック、持久力、メンタルなどそれぞれある課題にあったトレーニングを計画、実行、そして試合で発揮できるようにする。この繰り返しです。

自己分析だけだと見えない部分もあるし、自分がいいと思っていても、コーチなどの考えと違っていたら試合には出られないので、その考え方のズレがなにかを確認するのも大事だと思ってます。プラス面、マイナス面、すべてをノートに書き出してます。それは高校生のころから続けていることですね。

ー性格を自己分析すると
慎重で臆病。ミスをしたくない、怒られたくない、という気持ちが根本にあるので、プレーでも、なかなかチャレンジができないんですよね。0か100って言われると、確実な80を狙う性格です。

なので、勢いで行動して結果が出る人はスゴイなってうらやましいし、尊敬します。僕はそのタイプじゃないので、慎重になるんだと思います。
 
また、試合などでうまくいかなかったときはプライベートにも引きずってしまうことがあるので、切り替えもあまり上手ではないんです。だから、“忘れること”を意識するようにしています。10時間悩んでいたって、その分の反省の結果は得られないし、過去には戻れないので、短時間でしっかりと反省と分析して、また新しいところに進もうとしています。

「今日という日は、残りの人生の最初の日。Today is the first day of the rest of my life.」という言葉を大事にしているんです。大学生のときに、小説で見つけた言葉。今日は最初の一日と思って、やりたいことがあれば目いっぱいやりきることにしようという考え方になりました。

実は大学卒業後、就職活動をして、普通の会社員として企業に就職したんです。でも考えが変わって「23歳の今しかできないことはラグビーだな」と思い、4カ月で退社しました。4カ月ですけど、それなりにめいっぱい働いて経験したことは決してムダだとは思っていませんし、「好きなことを思いきりできることはありがたいことだな」と感じることができました。そのときの気持ちは忘れちゃいけないと思ってます。

ーラグビー以外での趣味・特技は
読書をしたり、映画やドラマを見たりすること。以前は小説、特にミステリー系をよく読んでたんですけど、最近は自己啓発本やビジネス本を読むことが多いです。

ラグビーに生かすためというより、会社業務に生かしたり、ラグビー選手生活が終わった後の人生を考えて自分の引き出しを増やしたりするために読んでます。もちろん、ラグビーに生かせることがあれば生かそうと思ってます。

映画やドラマはNetflixで観ることが多いです。最近は『ブレイキング・バッド』にハマってました。ギネスで世界一面白いドラマに認定された作品なんですよ。本当に面白かったです(笑)。

旅行も好きなので、海外にひとりでふらっと出かけることもあります。主にアジア圏。あまり時間もかからないですし、お手頃な値段ですし、刺激的な国が多いから。現地では、観光名所にはあまり行かないです。できるだけローカルなご飯や食べ物をチェックしたいのでマーケットには絶対に行きます。ベトナムの『バインミー』というサンドイッチは、めちゃくちゃおいしくて、思い出に残ってます。

こういうプライベートでの経験は、みんなに話すネタになればいいなと思って、動いてます。人生の経験にもなりますし、ラグビーの何かに影響するかもしれないので。性格は臆病ですけど、すごく人の顔を見て、あやしい人には引っかからないように、慎重さを忘れずに自分なりの冒険をしてます。

ー「意外だ」と思われるスキルは
どのくらい意外かはわかりませんが、タイピングの速さにはよく驚かれます(笑)。それは業務ではすごく役に立ってます!小学校の高学年くらいかな? まだパソコンがあまり普及してないときに、親の仕事の関係で、家にパソコンがあったんです。しかもNECのもの! 好奇心で触っていたら、自然とタイピングが速くなったんです。授業でパソコンを使うときなどに、他の人より速くできて、ちょっと得意気でした(笑)。

今となっては、パソコンは当たり前の時代ですし、業務では速い人はたくさんいるので、もっと勉強して、使いこなせていたらよかったなと思ってます…。

ー仲の良い選手は
NECのチームメートは仲がいいです。やはり長い時間苦楽を共にしてきた同年代の選手、土井貴弘、廣澤拓、釜池真道と特に仲がいいです。誰かが試合に出るとうれしいですし、ポジションがかぶってないので、4人が一緒に出られたらいいなと思ってます。みんな、それぞれで頑張ってるのはわかっているので、時には「今日はオマエが出られなかったから、4人そろわなかったじゃん!」みたいに、叱咤(しった)激励もしながら、4人で鼓舞する感じです(笑)。

ーラグビーをもっと楽しむための「観戦ポイント」
“声”や“音”です。テレビ画面からでは伝わりづらい声や音を生観戦でぜひ楽しんでほしいなと思います。ラグビーボールを蹴る音、肉体と肉体とがぶつかる音やその時に漏れる声というのは、あまり聞けないものです。

そして、思っている以上にプレーヤーはチームメート同士、時には相手チーム、レフリーとしゃべっています。あとは選手間のアイコンタクトや、相手チームに仲が良い選手がいたらニヤリと表情で会話をしたりもします(笑)。そういうやり取りを楽しんでいただきたいです。

また、テレビは、ひとりの選手をずっと映しているわけではないので、好きな選手がいるなら、自分だけのカメラ(=目)で追いかけられるのも生観戦の醍醐(だいご)味だと思います!

瀧澤直(たきざわ・すなお)1986年9月30日生まれ、愛知県出身。ポジション:プロップ(PR)、175cm/115kg。小中はバスケットボール部に所属、高校進学を考えたときに、スポーツドキュメンタリー番組『ZONE』に、千種高校のラグビー部が出ていたのを観て、感動したのがきっかけで始める。その後、早稲田大学に進学。2010年に大学を卒業後、一度就職をするが4カ月で退社。その後、NECグリーンロケッツに所属。14年にはチームの主将を務める。U20、U23日本代表、関東代表に選出経験あり。ニックネームは「タッキー」。実は天然パーマ。