昨季のリーグ王者に移籍して2年目の有田隆平選手。移籍前に受けた手術のリハビリなどに不安を抱えていたこともあり、一時は引退を考えたが「後悔はしたくない」と強い気持ちで移籍を決めたという。並々ならぬ努力により移籍初年は全試合出場を果たした。一方で自身のメンタルの弱さやゆるさへの向き合い方など、身近で参考になるエピソードを話してくれた。

―リハビリ中はラグビー以外のことを考えた
4兄弟の末っ子で、兄がラグビーをやっていたので、小学校入学と同時に同じスクールに通わされました。コーチが厳しかったので何度もやめたいなって思っていたんですけど、親から許してもらえず(笑)。そこで踏ん張ったおかげでずっと続けられたので今に至ります。

ラグビー人生で一番苦しかったのは腰のけが。前チームに在籍していた2015年頃から3シーズンくらいにわたり調子がよくなく、試合も全然出られなくて……。腰の椎間板ヘルニアで手術をするくらいの重症だったので、引退もチラついたくらいでした。入院中は何を言われてもあまり響かない時期があったんですけど、それでも普通に接してくれた家族や仲間はありがたかったです。自分はイジられキャラなので、変に励まされるというよりは、いつも通りにイジってもらったほうが楽だったんです。

基本的に、入院中やリハビリ中はラグビーのことは考えていませんでした。ラグビーがしたいという気持ちより、「普通に生活したいな」「治ったら、どこか気の向くままに遠く行ってみたいな」とかばかり(笑)。

余談ですが、僕はドライブが好きで、オフのときは気分転換で遠出をすることも多いんです。地元の福岡にいるときは、ちゃんぽんを食べに長崎へ行ったり……。関西に来てからは、うどんを食べに香川までドライブに行ったことも。

ラグビーのことばかり考えすぎると「治さなきゃ」ってプレッシャーを自分にかけてしまうので、なるべく楽しいことを考えたり、普段通りの生活をしながらリハビリを淡々とこなしていました。

リハビリでは「これはできない」と自分で決めつけるんじゃなくて、言われたことを全部試してみて、うまくいったらそれを続ける。この繰り返し。理学療法士の方々のサポートのおかげで、復帰することができました。

―やらずに後悔したくないと、移籍を決意
僕は腰以外のけがも多かったので、20代の後半からは毎年のように「今年で終わってもいいや……」「今年もやりきったと思えるようにベストを尽くそう」という思いで、後悔のないようにやってたんです。この考えは今も変わらないです。そういった気持ちで続けている中で、しかも30歳と若くない年齢で強豪チームに移籍するチャンスがもらえたのは幸運でした。

ただ、最初に所属したコカ・コーラというチームが好きだったし、地元のチームでもあったのでやめる気はなかったんです。一方で、強いチームで戦いたい気持ちは残っていて。けがのこともあってすごく迷いましたが、「ラグビーができるのも今しかない」「行かずにやらずに後悔するより、やって後悔しよう」と思い移籍を決めました。

結果、後悔はまったくしてないです。まあ、手術後の移籍でしたから、しばらくはリハビリ生活が続いて新チームで肩身が狭いなと思うこともありました(笑)。でも、不安よりも「やってみよう、やってやろう」という気持ちが大きかった。ステップアップなど何かに挑戦したいときは、やって後悔したほうがいいなと今でも思います。

―優勝後の自分へのご褒美でまさかの激太り!
強豪チームへの移籍一年目でのリーグ優勝と日本選手権の優勝はすごくうれしかったです。移籍してからは毎日が必死でプレッシャーもあったので、「終わった……」と安心もしました。それから、試合後にまさかのインタビューもされて……。そんなこと今まで経験したことがなかったので、びっくりもしました(笑)。

日本一を達成したあとのオフは、自分へのご褒美として「1カ月くらいは好きなことをしよう」と思い、普段は食べないような時間帯にお菓子などの好きなものを食べまくって動かずにいたら……。2、3週間で体重がめちゃくちゃ増えちゃったんです!(笑) 10kgくらい増えたので、「これはマズイ!」と思って、あわてて食事制限とトレーニングをして戻しました。ここまで短期間で太ったのは初めてでした。日本一後のまさかの気と体の緩み。でも大きな試合が終わったときはそういうご褒美を自分にあげた方が、シーズン中は引き締めていられるのかも。

―「8割でいい」という気持ちで試合に臨む
こんなことを言っていいのかわからないですけど……、試合では「8割くらいの力を出せればそれでいい」という気持ちで臨んでます。僕の場合、120%の力を出そうとすると、空回っちゃうことが結構あったので。もちろん練習はしっかりやりますし、チームで決められた役割はしっかり務めます。でも、気持ちはそのくらいで頑張ろうという感じです。

あまりメンタルが強いほうではないので、頑張ろうとしすぎると失敗することがあったんです。だから、試合はリラックスして臨もうと。それが今の自分に一番いいメンタルコントールなのかもしれません。気負いすぎるとダメなんですよね。いろいろと考えると夜に眠れなくなる。入院中もそうでしたし、移籍してきた年もそういう時期がありました。

それもあって、試合前は一人でいる時間を作るようにしています。誰かといると、プレッシャーに感じていることをああだこうだ言いそうになるので、聞いた相手を嫌な気分にさせたくないんです。なのでトイレの個室に入って、一人になる時間を少しだけ作って頭の中を整理して落ち着かせています。

―競争は激しいけれど若手にもスキルを受け継ぎたい
チームはやはり強豪とあって、部内の競争はすごく激しいですし、緊張感もあります。練習のときから、他のフッカーに負けないように必死です。まず与えられた役割は確実にこなそうと意識してます。

それと、僕はラグビー界では体があまり大きくないほうなので、ボールを持ったときはタックルなどを狙われがちなんです。だからそれを逆手に取るというか驚かせる意味でも、大きい選手に対しても果敢に、低い姿勢からタックルに行こうと心がけています。これは自分なりに頑張っているポイントのひとつです。

また1番手で試合に出た後は、誰が試合に出てもいいように自分のフッカーとしての役割を他のフッカーに共有していますし、お互いの意見を言い合ったりもします。ライバルとして競争しながらも、しっかりとみんなで高め合えていると思います。とはいえ僕も31歳になったんで、これからはポジション争いを頑張りながらも若い選手たちに自分のスキルや今までの経験を少しずつ伝えていきたいですね。

有田隆平(ありた・りゅうへい)1989年3月21日生まれ、福岡県出身。ポジション:フッカー(HO)、177cm/103kg。小学1年からラグビースクールに入る。東福岡高校に進学し、3年時に全国高校大会で準優勝。早稲田大学に進学し、2年時に全国大学選手権優勝、4年時に準優勝を経験。卒業後の2011年、コカ・コーラレッドスパークスに加入。2018年より神戸製鋼コベルコスティーラーズに所属。移籍1年目のシーズンはリーグ全試合に出場。チームとしては15季ぶりのリーグ制覇、18大会ぶりの日本選手権優勝を決めた。ジュニア・ジャパン、高校代表、九州代表、U-20代表、日本代表に選出経験あり。2016年にはサンウルブズにも選出。