仕上がった機能・性能を手に入れる───

どんなクルマにも歴史がある。1代かぎりで終わってしまうものもあれば、クラウンやスカイラインのように何代にもわたって半世紀以上販売され続けるロングセラーモデルだってある。モデルチェンジして新型モデルが発売されれば、当然のごとく多くの人が新型に注目し、新しい機能やデザインに飛びつく。それは自然なことだ。しかし、先代型に魅力がなくなってしまったのかといえばそうではない。新しさではなく、熟成された文化や長い時間をかけて磨かれてきた機能や性能。クルマによっては新型より優れている部分とは───。今回は先代型の機能性や特徴を振り返ると同時に、クルマのプロの言葉やその歴史をひも解きながら、先代型の美点について考察してみたい。

構成・文/フォッケウルフ 撮影/茂呂幸正(掲載されている内容はグー本誌 2024年5月発売号掲載の内容です)

トヨタ アルファード(現行型)

トヨタミニバンラインアップの頂点にして、各界のVIP御用達となったラグジュアリーカー。高級感や快適性は先代型からブラッシュアップされ、特に2列目のエグゼクティブパワーシートは著しく進化した。新車の納車が間に合っていないこともあり、中古車相場は新車より高めに。

新車価格 540万〜872万円 中古車中心相場 810万〜970万円

トヨタ アルファード(先代型)

2002年の初代モデル誕生以降、兄弟車のヴェルファイアとともに国産高級ミニバンのトップに君臨。先代型となる3代目モデルは2015年にデビューし、大型化したフロントグリルや快適性を向上した乗り心地などで注目を集めた。市場流通量は多いものの、いまだに中古車相場は高値をキープ。

新車価格 359万7000〜775万2000円(2021年5月当時) 中古車中心相場 240万〜610万円

Selector 私が解説します

自動車評論家 清水草一

実際に多くのクルマを購入

1993年に編集者を経てフリーライターになると同時期に、私財を投げ打ちフェラーリ348を購入。趣味はクルマを買うことと原稿を書くことという、自動車評論家になるべくしてなった人で、その後も軽自動車からスーパーカーまで、通算54台のクルマを新車、中古車問わず所有してきた。高速道路ジャーナリストとしても複数の著作を持つ。

「最新こそ最良」の現行型と古くならない先代型とは? 3〜5年前のモデルが持つ魅力と特徴

 最近、久しぶりに先代アクア(最終型)に乗る機会があった。私は先代アクア(初期型)のオーナーだったので、アクアには思い入れがあり、知人がアクアで来ていたのを見て、「ちょっと乗せてくれる?」と頼んだのである。

 先代アクアの最終型は、予想を超えて完成度が高かった。基本スペックは、私が乗っていた初期型から変わっていないが、全体に洗練され、自慢だった操縦性のよさはしっかり生きていた。「やっぱり先代アクアはいいなぁ!」と感心した。

 先代アクアの美点は、コンパクトで取りまわしのいいサイズと、適度に広くて使いやすい室内&ラゲッジ、トヨタのハイブリッドカーならではの低燃費、加えて重心が低くてコーナリング性能が俊敏なことだった。デザインやインテリアに不満もあったが、それも「ブサカワ」的に愛が深まった。ブサカワだけに、家族がボディをこすりまくっても気にならず、ボコボコのまま日常的に使い倒すことができた。

 もちろん、現行型のアクアは先代型よりもっとよくなっている。加速も燃費も居住性も、すべて少しずつ改良されている。新型が旧型より性能が悪くなることは、基本的にはありえない。ただ、進化の度合いは、たとえばスマホほどアップデートされるわけではないし、ボディサイズが拡大されて、車庫に入らなくなることもある。

 先代アクアは約10年も販売されていた。10年前のスマホと現在のスマホを比べたら月とスッポン。10年前のスマホをいまさら中古で買おうという人はいないだろう。しかしクルマの場合、先代型と現行型には、性能的にそれほど大きな差があるわけではない。一番差が出るのは、自動ブレーキ等の先進運転支援システムの部分だが、そこに関しても、5年落ち以内なら許容範囲だったりする。最新装備にこだわらなければ、むしろ中古車ならではの安さや気楽さがメリットになるケースは多い。

 私は先代シエンタも新車で購入している。コンパクトサイズで大人が6人座れるパッケージングに感動して購入した。デザインもシトロエン的にアバンギャルドでステキだった。

 現行シエンタも、先代譲りの優れたパッケージングは健在で、デザインも魅力的だ。ただ、決定的な差があるわけではない。もちろん、どんなものでも新品は中古より輝いて見えるが、価格を考えたら、新品より中古のほうが魅力的かもしれない。

 タント(現行型)は2年前に新車で購入し、現在も使っている。2年前の時点では「これがベストな軽ハイトワゴン!」と判断したうえで購入した。後悔は微塵もないが、昨年登場した新型N-BOXの洗練ぶりは衝撃で、「負けた……」と認めざるを得なかった。

 しかし、N-BOXに買い替えるかと言われれば、そこまで性能に差があるわけじゃない。マニアでなければ、ミクロの差と言ってもいい。新旧の差は主に気分の問題。より新しいクルマと乗り比べて比較することなど、そうあるもんじゃない。今のタントにあと20年くらい、いや自分が死ぬまで乗ったっていい。なにしろ我が家のタントは介護車両。家族の介護用に買ったけど、自分が介護されるまで使えるのだ(涙)。

 私は輸入車は中古車専門に近いが、国産車は新車を買うことが多い。国産車には趣味性よりも最新の性能を求めているからだ。国産の中古車は信頼性が抜群ゆえに人気が高く、中古車相場が高いことも原因だ。

 しかし一般的にはどうだろう。たとえば3年〜5年落ちくらいの状態のいい旧型の中古車を買って、10年乗るといった使い方のほうが有利かもしれない。先々代型だと現行型とはだいぶ差が出るが、先代型くらいなら性能差はかなり小さい。先代型のデザインのほうが好み、ということもよくある。

 なにしろ国産車は信頼性が抜群だ。5年落ちの輸入車は、ちょうどトラブルの熟れ時という感じだが、国産車は10年どころか20年経ってもたいていピンピンしている。

 新車から5年経てば、さしもの国産車も、たいてい半額程度になる。中古車を半額で買って10年乗れば、新車を買って15年乗るよりメリットがあるかもしれない。

 もちろん新車を買うのもいい。実際私は、国産車に関しては主に新車を買っている。しかし中古車を買ったほうが、もっといいかもしれない。価格は神の見えざる手が決めるもの。基本的に公平なのである。客観的にどっちが有利ということはない。決めるのはあなただ。

清水氏の愛車とともに考える先代型と現行型の話

トヨタ アクア(先代型)

清水氏がアクアを購入したのは2012年。ボディカラーはオレンジだがあまり流通していなかった。初代プリウスからの乗り換えで、当時としては最新のハイブリッド性能を味わうとともに、足まわりのよさに感動したという。2017年にはデザインが大幅に変更された。

中古車中心相場 20万〜180万円

トヨタ シエンタ(先代型)

デザインが気に入って購入したという清水氏。たしかに先代型のシエンタは、シトロエンっぽいアバンギャルドさと、今でも古くならないモダンさを両立していた。蛍光イエローの攻めたカラーリングを選んだ。その後、現行型は犬のような可愛らしいデザインとなる。

中古車中心相場 60万〜220万円

ダイハツ タント(現行型)

2022年に清水氏が選んだのが現行型のタント。介護目的のため、「スローパー」という車いすを搭載できる福祉車両仕様を購入している。すでに登場から4年半が経過し、N-BOXとスペーシアは昨年新型が登場しているが、まだタントの新型の噂は聞こえてこない。

新車価格 135万3000〜161万7000円 中古車中心相場 70万〜210万円

オデッセイの売り方に見るモデルチェンジのあり方

 1994年に初代モデルが登場して以来、日本のミニバンブームを牽引してきたオデッセイ。ステップワゴンなどの箱型ミニバンと比較して車幅が広く、室内スペースに余裕があり、また、乗り心地も優れているということで、日本や北米などで人気を博してきた。そんなオデッセイも5代目モデルが、2022年9月で日本での新車販売を終了してしまう。しかし、2023年12月、約1年3ヶ月ぶりに新車販売を再開。モデルチェンジはせず、一部改良モデルとして再販されるのはめずらしいケースである。新型は中国で製造され日本へ輸入販売されるが、デザインに大きな変更はなく、装備や安全装備の「ホンダセンシング」などが新しくなった。低床・低重心という他にはない特徴を持つクルマだけに、復活の成否に注目が集まる。

ホンダ オデッセイ(従来型)

安定感のある走りが特徴のアッパーミドルクラスミニバンの5代目モデル。重厚感のあるフロントマスクが採用され、質感や高級感を高めた。リアにスライドドアを採用したこともポイント。

中古車中心相場 60万〜210万円

ホンダ オデッセイ(新型)

フロントグリルは新デザインを採用。シックな雰囲気をまとっている。2列目シートの仕様向上や、USBチャージャーの標準装備など装備の充実化を図り、利便性と快適性を高めている。

気になる注目の先代型モデル

トヨタ プリウス(先代型)

2015年に登場した4代目モデルは、日本で一番売れたクルマとなった3代目から意匠を大きく変更。ダイナミックな未来的スタイルの超低燃費モデルとして2023年まで販売された。現行型でもイメージを変更し、スポーティになっている。

中古車中心相場 100万〜250万円

ホンダ ヴェゼル(先代型)

2013年にフィットのSUV版という位置付けでデビューした初代ヴェゼル。ガソリンとハイブリッドをラインアップし、スポーティなデザインや扱いやすいボディサイズでスマッシュヒットとなった。2021年に現行型へモデルチェンジしている。

中古車中心相場 92万〜230万円

日産 ノート(先代型)

長い室内長を特徴とした2代目モデルは2012年に登場し、2021年まで長期間販売されていた。2016年のe-POWER搭載モデルの追加で人気に火がつくと、新車販売台数ナンバーワンまで獲得した。コンセプトはそのまま現行型に受け継がれている。

中古車中心相場 20万〜150万円

三菱 アウトランダーPHEV(先代型)

2013年から2021年まで販売されたミドルサイズSUVのPHEVモデル。当時、PHEVのライバル車があまりいなかったこともあり人気を博した。初期型と最後期型ではデザインが大きく変更され、印象が異なる。現行型では大きく高級感を高めている。

中古車中心相場 110万〜280万円

ラグジュアリー性能に世代間の差はなくなったのか?

先代型を選ぶか現行型を選ぶか、それは永遠の課題であると同時に、車種によっても答えが変わってくる。今回、先代型と新型(現行型)のアルファード2台を持ち出し遠出した。高級ミニバンではどんなジャッジが下されるだろうか?

 先日、知り合いのAカメラマンが、先代アルファードに乗って現れたのでビックリした。彼は長年フランス車に乗っていたクルマ趣味人なのに、突然どうしたのか。

A「ウチのフランス車、あまりにも故障するので買い替えたんです。ものすごくラクでいいですよ〜!」

 乗り心地がいいし、室内が超広いし、常に周囲のクルマが敬意を持って接してくれるという。そりゃまぁそうだろう。しかし、最新型のアルファードは考えなかったのか。

A「新型なんてとんでもない! すごく値上がりしちゃいましたし、納期がいつかもわかんないです」

 「最低1年待ち」と言われていたアルファードだが、最近は半年くらいで納車されたりするようだ。しかしトヨタの公式HPでは、相変わらず納期の目処は示されず、「詳しくは販売店にお問い合わせください」となっている。価格はぶっちゃけ、先代比150万円程度のアップだ。

 プロの目から見て、この新旧アルファード最大の差は、ボディ剛性にある。先代アルファードは、両側スライドドアを持つミニバンの宿命でボディ剛性が弱く、凹凸のある路面を走るとボディがよじれ、乗り心地が悪化した。その点、新型はボディが断然ガッチリ作られているので、あらゆるシーンで乗り心地抜群。直進安定性もコーナリング性能も高く、安心感が大幅に上がっている。

 内外装の質感の向上もかなりのものだ。先代アルファードは、威嚇力満点のフロントグリルや、メッキを多用した内装など、「オラオラの極致」と言われた。新型も先代の流れを受け継いでいるが、全体に洗練されて上品なイメージになっている。

 しかしAカメラマンの言うように、値上がり幅はハンパないし納期も見えない。内外装に関しても、上品になった新型よりも、オラオラ感満点だった先代型のほうが好き、という人は少なくないだろう。操作系に関しては、新型は大型のセンターモニターによるタッチパネル操作が増えているが、物理ボタンが多かった先代型のほうがカチッと操作できて使いやすいかもしれない。

 Aカメラマンが購入したのは、ハイブリッドではなくガソリンエンジンの2.5ℓモデル。アルファードの中古車は非常に人気があって相場も高止まりしているようだが、走行2万㎞未満の個体が、支払総額300万円強で手に入ったという。新型アルファードは最廉価グレードでも車両本体540万円なので、支払総額で比較すれば約半額だ。

 今回、新旧2台のアルファードを乗り比べたところ、やはり新型のほうがあらゆる面で優れていた。走行安定性をはじめ燃費も内外装の質感も、新旧を比べるとその差は明らかだ。しかしそれは、新旧を同時に乗り比べての話。先代型だって十分すぎるほど快適だし、押し出し感はむしろ強力だ。しかもお値段半額ですぐ手に入る。どっちがいいかを決めるのはあなただ。

先代型はこうだ!

 今回取材した先代型は、ほぼ最終型で、モデル末期らしくクルマの機能が熟成されている。必要ない装備は淘汰され、必要なものだけが残っている。また先代型の室内長は新型より長く、後席に座ってみると室内はかなり広く感じられる。他のジャンルや中型以下のミニバンから乗り換えたなら、その広大さに驚くこと間違いなし。今回の取材車は新型では設定がなくなってしまった8人乗りということで、これも必要な人にとってはうれしいポイントだ。

フロントグリルは大きく押し出し感が強い。これが当時の高級ミニバンのステータスにもつながっていたし、それに今でも賛同する人は多い。新型には豪華なオーバーヘッドコンソールが設定されたが、先代型の頃から室内照明は搭載されていた。先代型はアナログな操作部が多いが、こちらのほうが安心するという声もある。

現行型はどうだ?

 デザインは全体的な塊感を重視し、フロントグリルだけに注目を集めないような形でラグジュアリーな雰囲気が演出されている。ボディサイドの抑揚のあるラインなども躍動感を獲得している。インテリアも後席を中心とした豪華な装備が特徴となっている。特に前後に大幅スライドができてアームレストやオットマン、ヒーターやマッサージ機能を有するセカンドシートや、照明や各種スイッチを集約して、天井のセンターに集めたオーバーヘッドコンソールなどを採用。まるで飛行機のビジネスクラスのような高級感に驚かされる。

サイドのサンシェードは上方から降りてくるタイプ。もちろん電動スイッチでの操作となり、好きな位置で止めることができる。
スライドドアの開閉に合わせて、自動でせり出し&収納されるユニバーサルステップ。足の踏み場が一段多くなり乗り降りしやすい。
エグゼクティブラウンジシートは、前後方向に大きく電動で動かすことができ、オットマンは電動化&ヒーターが標準装備化された。

移動シーン、積載シーンで感じられる、高級ミニバンの美点とは?

前ページに続き、先代型と現行型、2台のアルファードを取材してわかったことを考察する。運転してわかった部分、使用してわかった部分、さまざまな側面から検証し、それぞれの美点を探し出した。高級ミニバンの先代型って悪くない?

 新旧アルファードを直接比較すれば、あらゆる点で新型のほうが優れているのはたしかだが、しかし先代型がダメだったのかと言えばそんなことはない。特に2018年式以降の高年式モデルは、マイナーチェンジでアップデートを受けているので、ACC(アダプティブクルーズコントロール)の機能にも特段の見劣りはなく、変更されていないはずのサスペンション関係についても、乗り心地やコーナリング性能がぐっとよくなっているように感じられる。発表はされていないが、細かい改良の積み重ねがあったのだろう。

 もちろん速度を上げれば新旧の差は感じられるが、こういうクルマはあまり飛ばさず、しずしずと走るのが似合っている。制限速度内で走っている限り、ドライバーも同乗者も、快適性に関して新旧で明確な差を感じることはないはずだ。

 その他、ラゲッジの広さやシートアレンジ等の使い勝手に関しても、それほど大きな差はない。すべてにおいて新型のほうがいいことはたしかだが、それは直接比較して初めてわかること。クルマはそういう商品じゃない。冷蔵庫や洗濯機同様、一家に1台の愛用品なのだから。

 最初から新型は眼中になく、先代型の中古車限定で探した前述のAカメラマンがいい例だ。彼は、先代型を「ものすごくラクで快適」と断言し、コストパフォーマンスに大満足していた。それでOKなのだ。

運転支援システム

 前方車との車間距離を維持し、設定した一定速度で走り続けるというACCの機能自体には大きく違いはない。それぞれに対応速度領域の違いはあるが、先代型のACCを使っていて困るような場面はないし、十分快適に使用することができた。大きく異なるのは操作部で、レバー状かボタン状かという違いがある。現在の主流になっているようにスイッチ式はごく自然に使うことができるが、レバー式であっても、慣れてしまえば操作に支障があるということはないだろう。

ステアリングの右下奥から見えるのがコントロールレバー。輸入車で多いタイプだが、使いにくいということはない。
現在の主流であるステアリングの盤面にスイッチを搭載。ステアリングを握ったまま親指で押せるので便利だ。
乗り心地

 サスペンションの進化やボディ剛性の強化によって、乗り心地は新型のほうが優れている。この差というのは設計の問題だけでなく、個体の経年劣化も加算されるため、どうしても仕方のないこと。しかし先代型の乗り心地が決して悪いわけではなく、エンジンパワーも相まって、車重や重心の高さもそれほど気にせず、快適に走れるのはたしかである。ちなみに、新型ヴェルファイアにのみ設定される2.4ℓターボエンジン仕様は、乗り心地がいいだけでなく、高速でも安定しているスポーティな専用足まわりが採用されている。

荷室広さ

 見た目も使い勝手も、ほぼ同等のラゲッジルーム。3列目シートはどちらも左右跳ね上げ式なことも同じで、床下のデッキボード下に収納があることも同じだ。写真のとおり、地面からの開口部の高さもほぼ変わらず、ここでの差は見当たらない。先代型と新型、どちらにも当てはまる美点だが、ラゲッジは高さがあるので、背の高い荷物も収納できるのは便利。そもそもアルファードやヴェルファイアを購入する層は、3列目シートを必要としていない人も多く、常時跳ね上げたままということも多いようだ。

シートアレンジ

 3列目シートは先代型、新型ともに左右跳ね上げ式だが、その操作性に大きな違いはない。力も必要なく、簡単な手順で跳ね上げて固定することができる。新型には7人乗りしか設定がなく、2列目シートは一点豪華主義で快適さは極上だが、アレンジとしては前後に大幅スライドできるだけだ。先代型には8人乗りの設定もある。この場合、2列目シートは前方へ大きくスライドさせながら座面を持ち上げられるので、ただでさえ広い荷室をさらに広く使用することができるようになっている。

先代型、新型とも、リアゲート側からシート下に付けられた2つのレバーを引くことで簡単に跳ね上げることができる。
先代型の2列目シートは座面をV字に折りたたむことができる。前方へ移動することで荷室スペースの拡大が可能。
取りまわし

 現行型は全長が拡大、全幅は変わらず、全高は先代型のほうが高くなっている(グレードにもよる)。ホイールベースも変わっていないが、最小回転半径は、先代型(5.6〜5.8m)のほうが新型(5.9m)より小さくなっている。この差がどれほど取りまわしのよさに影響が出るかといえば、慣れた道路であればさほど影響はないと言っていい。しかし、もとより国産車最大級のサイズのクルマだけに、初めてアルファードやヴェルファイアを買うというユーザーにとって、ほんの少しでも小回りが利くほうがうれしいのはたしかである。

最小回転半径は先代型のほうが小さい。室内デザインも先代型は開放感があるので人によっては運転しやすいだろう。
新型のパノラミックビューモニターには、車両下の映像を合成表示することが可能。路面の状況などを把握することができる。

偉大な先代型を残した刺さるキープコンセプト。日本で最も売れているクルマ、N‐BOX新旧モデルの質をチェックする

日本にのみ存在する軽自動車は、独自規格を持つ孤高の存在でありながら、長い時間をかけてその性能を高めてきた。現在、クルマとしての質はもはや異次元と言ってもいいレベルまで到達している。そんな軽自動車の先代型はどうか? N-BOXで検証してみたい。

 日本で一番売れているクルマ・ホンダN-BOXが、昨年6年ぶりにフルモデルチェンジを受けた。新型に乗って驚いた。アクセルやブレーキ、ステアリングなどの操作感がとても重厚で、かつてのメルセデス・ベンツすら彷彿とさせたのである。

 「これはすごい!」

 そう感動したものの、軽ハイトワゴンにメルセデス的な「最善か無か」という哲学を求めるユーザーは、ほとんどいないだろう。

 筆者は、コーナリング性能の高さに惚れて現行タントを購入したが、実際に軽ハイトワゴンを使ってみると、コーナリング性能などまったくどうでもいいことを思い知った。軽ハイトワゴンはそういう種類のクルマじゃない。気軽に乗れて何でも積める便利な道具なのである。であれば、メルセデス的になった新型N-BOXではなく、もうちょっとライトな乗り味の先代N-BOX(中古)を選んでも全然オッケーだ。

 あるいは初代N-BOX! 私は初代のシンプルなデザインに強く惹かれている。初代の中期型(2014年式)以降もいい。中期型以降に限定したのは、ノンターボエンジンが改良されて低速トルクが増しているからだ。これは近所を走るには重要なポイント。さすがに初代には自動ブレーキ(ホンダセンシング)の搭載はないので、そこにこだわるなら、ホンダセンシング付きの先代N-BOXがオススメ。十二分に満足できるだろう。保証します!

ホンダ N-BOX(現行型)

やはり成功した2代目モデルにあやかる形でキープコンセプト。とはいえ、スタイリングは初代モデルに回帰したようでシンプルさを重視している。昨年のモデルチェンジから半年しか経ってないこともあり、市場流通量はそれほど多くない。

新車価格164万8900〜236万2800円 中古車中心相場 140万〜180万円

ホンダ N-BOX(先代型)

大ヒットモデルとなった初代N-BOXのキープコンセプトで2017年に登場した2代目モデル。N-BOXからN-BOXへ乗り換えようと考える層が、まさに今現行型へ乗り換えている時期だけに、これからさらに市場流通台数は増えていくと予想される。

新車価格 146万8500〜208万6000円(2023年4月当時) 中古車中心相場 50万〜180万円

デザイン

完成度が高かったプロポーション

 2023年10月に現行型N-BOXが発売されているが、初代モデル、2代目モデル(先代型)と、デザインの印象は大きく変わっていない。あまりクルマに詳しくない人であれば、きっと見分けがつかないに違いない。それというのも、初代モデルのスタイリングの完成度があまりにも高かったからで、長方形をふたつ付けたプロポーションはスーパーハイトワゴンの基本体形でもあり、ヘッドライトやウインドウ形状などのシンプルな意匠も含めて、誰からも好まれるようなデザインを目指してきたからだ。とはいえ、新型になるにあたって、細かな作り込みで上質感は増しており、そういった部分にはメーカーの努力を見ることができる。

一見シンプルなただの箱型に見えて、フロントフェンダーまわりに若干の膨らみをつけることで、走りの安定感を演出。
リア方向から見てもシンプルな長方形の組み合わせだが、強いクセのようなものがなく、嫌われる要素が見当たらない。
走り

先代型で刷新されたプラットフォーム

 洗練されたCVTの制御や走行時の静粛性など、新旧N-BOXの走りの評価は高い。その優れた走行性能のもとになっているのがプラットフォーム(基本骨格)で、先代型の登場時に刷新されたプラットフォームが現行型にも採用されている。また、先代型ではホンダセンシングを軽自動車で初めて、全グレードに標準搭載。カメラやセンサーの進化による違いはあるものの、ACCや万が一への備えとしての予防安全機能としては、先代型でも十分な性能を発揮するものが搭載されている。一点、走りに関して選択の余地があるのは、先代型、現行型とも、エンジンだろう。ノンターボかターボかで金額は10万円ほど違ってくる。しかし高速道路を走行することが多かったり、走りにキビキビ感を求めるのならターボを選ぶべきだ。

新型では認識技術が向上しているが、旧型でもホンダセンシングが標準搭載されており、より安心感の高いドライブを楽しめる。
ホンダセンシングが現行型で進化した部分といえば、近距離衝突軽減ブレーキや急アクセル抑制機能などが搭載されたこと。
使い勝手

最大の効率を得る細かな工夫

 軽自動車は道具であるがゆえに使い勝手へのこだわりも深く追求されることになる。N-BOXが一番多くの人に選ばれる理由はまさにここにあり、その真髄はやはりホンダ独自の「センタータンクレイアウト」だろう。燃料タンクを前席床下に配置することで、後席座面の跳ね上げが可能となり、後席の床面に背の高い荷物を積むことができる。これは初代モデルから続く、N-BOXの武器となっている。さらに、先代型では、大幅スライドが可能な助手席シートの採用や、荷室の開口部を低くする工夫など、他のスーパーハイトワゴン型軽と同じようでいて、少し異なる使い勝手のよさが、代々受け継がれている。

後席座面跳ね上げ機構は歴代N-BOXの特徴。N-BOXにかぎらずこれを採用しているホンダ車は多い。
現行型に搭載される「ピタ駐ミラー」は、幅寄せや縦列駐車の際に役立つサポートミラーだが、先代型でも設定されていた。

著者:グーネットマガジン編集部