ホンダのFCEVは第二世代に突入!

2016年に「クラリティ FUEL CELL」を発売するなど、ホンダは水素燃料電池車(FCEV)を力強く推進しているパイオニアメーカーのひとつ。普及の取り組みこそトヨタに一歩リードされているが、今回発表した「CR-V e:FCEV」は、そんな流れに一石を投じてそうだ。予想以上に実用的なFCEVに仕上がっていたのだ。

●文:川島 茂夫 ●写真:澤田 和久

HONDA CR-V e:FCEV詳報《2024年夏頃登場予定》

HONDA CR-V e:FCEV

●主要諸元(CR-V e:FCEV)
全長×全幅×全高:4805×1865×1690mm、駆動方式:FF、乗車定員:5名、室内長×室内幅×室内高:1925×1565×1220mm

●主要装備
・BOSEプレミアムサウンドシステム
・マルチビューカメラシステム
・Honda CONNECTディスプレー
・10.2インチ デジタルグラフィックメーター
・パワーテールゲート
・ドライビングポジションシステム
・Honda SENSING
・フレキシブルラゲッジボード

実用機能の強化を大きくアピール

GMと共同開発した
燃料電池システムを搭載

 6代目モデルをベースに開発されたCR‐V e:FCEVは、外観はFCEV専用に仕立てられた外観が与えられているが、その姿は王道ミドルSUVそのもの。インテリアも同様であり、未来を夢想させる要素は少ない。未来的なシルエットが印象的だったクラリティと比べると、明らかに普通だ。一目でFCEVと気が付くのは、相当なホンダマニアくらいだろう。
 ただし、クルマの中に関しては大きな進化が図られている。クラリティからCR‐Vへ、その変換点のひとつといえるのが、燃料電池システムの進化だ。
 クラリティには、ホンダ独自開発のシステムを搭載していたが、CR‐VはGMとの合弁で設立されたFC生産メーカーから供給される、最新の燃料電池を搭載している。独自開発から共同開発へ、クラリティからCR‐Vへの移行もそうだが、いよいよ研究開発から、普及を前提とした実用的な量販モデルへとステップアップが図られた格好だ。

実用性に優れるSUVで
本格普及も視野にいれる

 そしてもうひとつ見逃せないのがパッケージングだ。樹脂性燃料タンク(ボンベ)を後席後方に配しているため、荷室とキャビンの間が土手状に盛り上がっているのは積載性のハンデになるが、それでも実用的なSUVパッケージングを貫いており、レジャー用途への適性もしっかりと与えられている。クラリティが水素燃料で移動できるだけのクルマだったことに対して、ベース車がCR‐Vになったことで、水素燃料車でも日々の生活やレジャーを楽しめるクルマへとバージョンアップしている。
 実用性向上へのこだわりは、燃料電池本体の設計にも現れている。新型FCはバイポーラ構造を採用し、発電効率を高く保ちながらも小型軽量化を進めている。ホンダM‐M(マン‐マキシマム・メカ‐ミニマム)思想を反映したシステムだ。
 とはいえ、ミドルSUVとして実用的な選択になるかは、予想される価格(当然、ベースモデルよりも高くなる)などを考えると難しい。ただ、車外充電ポートからAC電源、荷室のチャデモポートから直流電源を取れる外部給電機構を持つことは、”走る発電所“としての運用も可能で、アウトドアレジャーのクルマとしてはかなり魅力的。また、車外充電ポートからの給電は、純正用品のパワーエクスプローラーと組み合わせることで200Vの工業用電源として使用することも可能。小規模な野外イベントの電源車としても活用できる高性能が与えられている。

プラグイン機能の追加で
扱いやすさにも配慮

 ちなみにCR‐Vは外部充電にも対応しているプラグイン機能を備えている。駆動用バッテリーはクラリティの約1・5kWhから10倍以上となる17・7kWhに増加。普通充電のみの対応だが、WLTCモードによる満充電航続距離は60km以上にもなる。水素の満タン航続距離と合わせれば、航続距離は700km近くなる。
 バッテリー電力の駆動力増強の効果は、走行性能の向上にも寄与しており、バッテリー電力を効率よく用いることでFCも発電効率の高い領域で運用できる相乗効果も見どころのひとつ。開発者によると、公道での実用走行でもWLTCモードに近い航続距離が見込めるとのこと。BEVに対する、FCEVのアドバンテージのひとつと言えよう。
 先進安全&運転支援機能について新機軸の情報はなかったが、最新のホンダセンシングに準拠したシステムが与えられている。なお、車載ITのホンダコネクトには、従来機能に加えてe:FCEVならではの情報機能として水素ステーションの稼働状況や給電下限水素設定、リモートによる充電やエアコン設定なども追加された。
 走行性能の確認はできなかったが、外部への給電機能やプラグインによる航続距離延長など、リアルワールドで便利に使える設計や拡張性の広さが印象的。
 価格アップに対する付加価値をどうみるかで、大きく評価は変わるだろうが、環境対策優先の未来のパワートレーンではなく、未来の実用車としても好奇心を刺激してくれそうな一台だ。

6代目モデルのCR-VのPHEVモデルがベース。既存モデルをベースにすることで、開発費を節約し、現実的な予算を目指す格好だ。国内市場への導入は2024年夏頃に予定されている。
CR-Vをベース車としたことで、個人需要も意識していることは明白。シート素材にはバイオ合皮を用いるなど、地球環境に配慮したサステナブルな考え方も注がれている。
水素タンクは後席シート下に1つ、後席後ろの荷室スペースに1つ、合計2つのタンクが配置される。荷室は少し狭くなるが、ラゲッジボードを活用することで実用性への配慮もされている。
トランク内右側には外部給電で使用するDC給電口が設けられている。DC給電口から供給される電力は、外部給電器を介することで様々な用途に使うことが可能。緊急時にはFCEVの移動発電所に早変わりする。
トランク内右側には外部給電で使用するDC給電口が設けられている。DC給電口から供給される電力は、外部給電器を介することで様々な用途に使うことが可能。緊急時にはFCEVの移動発電所に早変わりする。

著者:内外出版/月刊自家用車